第16話 Fランク運搬依頼の受注
――翌日、グラント王国へ来た目的を達成したので、カイルは来た道を引き返し王都ラグラントを再び目指していた。
馬車の荷台に積んでいる売上金の袋には武具販売代金の銀貨と金貨が詰まっている。
カイルは武具を巡って紆余曲折あったが、無事販売できて利益を出せたことに大きな達成感を得ていた。
馬車はラグラントへの道を順調に進んでいる。
「すみませーん!」
カイルは道の途中で横の茂みから出てきた男性に呼び止められる。
「はい、なんでしょうか?」
馬車の動きを止めると男性が近づいてくる。
男がカイルに手が届く位置まで近づくと
「おい、馬車から降りろ」
ナイフのようなものを出してカイルを脅すように突き付けてくる。
(こいつら盗賊か?)
指示に従い馬から降りる。
「おめぇ、行商人か?」
「この辺りだと白昼堂々とやるんだな」
「質問に答えろ!」
男は拳でカイルの顔面を殴り飛ばす。
カイルは一瞬よろめくが、すぐ体勢を立て直す。
グラント王国も安全ではあるが、カイルは他国の情報を完全に把握しているわけではない。
たまたま運が悪かっただけかもしれないが、場所によっては危険のところもあるのだろうと考えた。
相手が商人であること、傭兵がいないこと、この条件だけで盗賊から見れば財宝が輝きを放ちながら歩いているようなものだ。
おまけに商人はカイル一人である。
盗賊側が数的有利なら、襲わない方がおかしい。
だが、彼もただで積荷を差し出そうとは考えていない。
今度はカイルが男を思いっきり殴り飛ばす。
「てめぇー!ぜってぇぶっ殺す!」
体勢を立て直した男がナイフで斬りかかってくる。
カイルは斬撃を横にかわし、今度は自分のダガーを抜いて一閃。
ヒュン!
男の腕が斬りつけられると共に鮮血が流れる。
「ぐわぁぁ!」
出血した腕を負傷した逆の手で押さえながら男が叫ぶ。
カイルはダガーを構えて男の行動へ備える。
「おいおい、こいつやべーぞ! 商人のくせに何の躊躇いもなく、いきなり斬りつけてきやがった!」
馬車の荷台で積荷を物色していたであろう別の仲間が、その言葉を聞き一斉に荷台から飛び出る。
仲間はカイルと対峙している男が出血しているのを確認すると荷台から遠ざかり逃げていく。
その手にはいくつかの特産品が握られていた。
荷台に積んである手近なものを掴んで逃げる算段なのだろう。
カイルはすぐ荷台へ入り、売上金が無事なことを確認する。
荷台から外へ出ると負傷した男だけはまだ残っていた。
「お前はどうするんだ?」
カイルがそう告げると、男は腕を押さえながら最初に出てきた茂みの方へと逃げて行った。
特産品はいくつか盗まれてしまったが、通行料と思えば安いものである。
(……今回は大きな被害が出なくて済んだが、いつまでも同じようにはいかない)
今後、活動範囲を広げたいと考えているカイルは傭兵を雇う必要性を実感していた。
(手持ち資金も増えてきたところだから、ちょうどよい頃合いかもしれない)
そう考えた直後、アリューム城での記憶が蘇り再生される。
(……もう少し慎重に考えた方がいいな)
カイルは再び王都ラグラントまで戻ってきた。
グラント王国での活動は終了にして次の地方に向かおうと考えている。
だが、その前にカイルは依頼受付所に来ていた。
町や村には依頼受付所という施設が存在する。
ところによっては酒場が兼任しているところもある。
この施設には様々な人間、組織から色んな依頼が集まってくる。
例えばモンスター退治、ダンジョン探索、荷物運搬、護衛任務などだ。
また、それぞれ難易度によってランク分けされており最も簡単なものはFランクとなる。
カイルは一度も利用したことがないので、最初はFランクの依頼しか受けることができない。
実績を積むことで高ランクの依頼を受けることができる。
高ランクになるほど、秘密性が高くどういった依頼内容なのか公にはされていない。
そのような事情もあり、カイルは何ランクまであって、最高位が何ランクなのか知らなかった。
もちろんカイルだけが理解していないわけではなく、情報が公開されていないので知りようがないということである。
建物の中は、人の話し声は聞こえるが思ったよりも静かで落ち着いた雰囲気だった。
壁に張り出されている依頼を確認している者、係の人間と話している者、椅子に座って何か考え事をしている者が見えた。
カイルは手すきだと思われる係の人間を見つけると話しかける。
そして一通り初回説明を受けた後、現時点で受注可能な依頼を教えてもらう。
この日は、希望していたグラント王国第二の規模であるラズエムへのFランク運搬依頼があった。
ラズエムはカイルが目的地としている場所の途中にあるので効率が良い。
カイルは登録を済ませると依頼を正式に受けて契約書二枚に署名する。
その後、依頼の概要が書かれた書類と、さっき署名した契約書に依頼受注のスタンプが押されたものを受け取る。
もう一枚の契約書は依頼受付所が保管する。
契約書には依頼受付所、依頼主、依頼請負主の署名がなされている。
スタンプが押された契約書は正式依頼の証明になるので紛失しないよう細心の注意を払わなければならない。
報酬の受け取り場所は依頼毎に異なり、主に依頼受付所、依頼主の元が大半である。
ただし、今回の運搬依頼は積荷を運んだ先で報酬がもらえる契約になっている。
その為、報酬を受け取るために、わざわざ王都の依頼受付所へ戻ってくる必要はない。
依頼契約の手続きが完了すると、次にカイルが向かったのは傭兵契約受付所である。
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