第13話 手詰まり

 王都で何か催し物が開催されていないか調べたところ、いくつか候補があり一番近いところへ足を運んだ。


 会場まで歩いて向かい入場料を支払うと中へ進む。


 開催されているのは様々な動物が芸を披露するもので、たくさんの人で賑わっていた。


 カイルは動物の可愛さに癒されながら、くつろぎの時を過ごす。


 会場の一番奥に視線を向けると他と比べて多くの人が集まっている。


 近くまで歩いていくと、さっきカイルが見たのと同じように動物が芸を披露していた。


 それなのに、なぜここだけ人だかりになっているのかカイルには分からない。


「皆さま、ご鑑賞ありがとうございました!」


 芸が終了すると、集まっていた人々は散り散りになる。


 カイルは後片付けをしている男性に話しかけた。


「なぜ、ここだけ人がたくさん集まっていたのですか?」


「このサル、ラグシーはとても人気だからね。グラント王国にしかいない希少種なんだよ」


「人気なのに滅多に見れない。だから人が集まってたんですね」


「そうなんだ。さらに個体数が年々減ってきている。今では王国で売買は禁止されているし、密猟者は厳しく罰せられる。ペットとして飼うのもダメ」


「取り扱うには特別な許可がいるのですか?」


「そう。我々のように極々一部の人間が国王から特別な許可を頂いているんだ。ペットとして飼うだけなら貴族や富裕層でも許可は下りないはずだよ」


「色々教えて頂きありがとうございます」


 (そういえば、あのサルどこかで見たことがあると思ったら、ビムレスの肩に乗っていたのと同じ種類だ)


 カイルはビムレスの屋敷で遭遇した出来事を思い出す。


 (男の説明では、ペットとしてなら富裕層でも許可が下りないと言っていた。ということは、ビムレスは無許可でペットにしているということか?)


 何か裏がありそうだとカイルは直感した。


 取引所に行くとカイルはサルをペットにしている人がいないか聞き込みを始める。


 しかし、大っぴらに話せる内容ではないので誰も口を割ろうとしない。


 カイルは少し考えた後、質問内容を変えてみた。


 具体的には『ペットにしている人』ではなく『ペットにしたいなら誰から買えばいい?』という内容にである。


 それでも、なかなか教えてくれなかったが歯切れが悪い回答をする商人に情報提供料を上乗せすると、今度はあっさり口を開いた。


「ビムレスさんから買える」


 ビムレスはサル販売に関わっていることが分かった。


 販売の証拠を王国に告発すればビムレスの商売に大きな打撃を与えることができる。


 これを材料に交渉し、武具を取り返せるかもしれない。


 その為にはまず、証拠を掴む必要がある。


 カイルは屋敷で張り込みすることを決意した。


 日が落ちて辺りが暗くなってくると行動を開始する。


 屋敷の敷地内に入ると、茂みの中へ隠れて様子を伺う。


 最初、三階建ての立派な屋敷だと感心していたが、今となっては妙な怪しさを放っている。


 しばらくすると屋敷から数人出てきて何かを運び出しているのが確認できた。


 カイルは気付かれないよう静かに近づき、相手の会話が聞き取れる位置まで接近すると耳を澄ませる。


 どうやら木箱を運んでいるようで中身が何かまでは分からなかった。


 運び手は木箱を運搬用の台車に載せている。


 木箱を台車に載せ「ドン!」と大きな音が鳴ると、同時に木箱の中から「キキーッ!」と甲高い声が発せられた。


「おい、バカ。大きな音を出すな。こいつらは音に敏感なんだ。急に大きな音を聞くと暴れ出す」


「す、すんません」


 台車へ木箱の積み込みが終わると、それをどこかへ運搬しようとする。


 カイルは彼らの後を付けた。


 台車は王都のとある一角にある民家で止まると運び手が扉をノックする。


 扉の奥から人が現れて運び手と会話を始め出す。


「約束の品だ。こっちもバレないように必死なんだ。ビムレスさんに感謝しろよ」


「へい、いつもすみません」


 (相手はビムレスからサルを仕入れている取引先だろうか?)


 会話が済み運び手たちは民家から去っていくと、今度はカイルが民家の扉をノックをする。


「はいはい、何かお忘れで…………誰だあんたは?」


 男は先程の運び手と勘違いして、すぐに扉を開けた。


「さっき、運ばれてきた木箱に入っているサルを売ってくれないか? そのサルをどうしても飼いたくて。それで、やっとここで買えるという情報をつかんだんだ」


 木箱の中身がサルである確証を得るため、カイルは男にかまをかける。


「このサルは、あんたみたいなどこの誰かもわからない人間には売れない」


「……わかった。今日すぐに売ってくれとは言わない。だから、一目だけでもいいから木箱のサルを見せてくれないか?」


「……まー、見るだけならな」


 カイルは民家の中に入り、木箱にサルが入っていることを確認した。


「このサルを買いたけりゃ仲介人の紹介が必要だ。そしたら売ってやる。誰が仲介人かは自分で探してくれ」


「わかった、ありがとう」


 もちろん、カイルに飼うつもりは全くない。


 追跡した結果、ビムレスは王国で売買が禁止されている動物で不当に利益を得ている可能性が高いことがわかった。


 ――翌日、カイルは王都の役場へ昨日調査した件について相談に来ていた。


 カイルが知りたかったのは、情報収集した内容で王国側が動いてくれるかどうかである。


 仮に動いてくれるのであれば、その事実を持ってビムレスとの交渉材料に使えるのだ。


 ビムレスのところは暈かして係りの人間に状況を説明する。


「貴重な情報ありがとうございます」


「そういう場合は摘発に向けて動いて頂けるのでしょうか?」


「……調査はします。けれども、その情報だけですぐ摘発はできません」


「なぜですか?」


「口頭の情報を信じて動いた結果、偽情報なら動員にかかる経費が無駄になり、さらに我々の面子に関わります。ですので、さらに確たる証拠が必要です」


「……わかりました。相談に乗って頂きありがとうございました」


「また何かあればいつでも相談してください」


 (現状では王国側は動いてくれない。だが、これ以上証拠を掴むことは難しい)


 カイルは頭を悩ませた結果、屋敷に行って自分の手で取り返す算段を検討し始める。


 この選択肢はあまりにも無謀すぎるため、選択肢から外していた。


 しかし、他が手詰まりになってきた以上、ただ諦めるよりは実現可能性について少しでも考えてみようとしたのである。


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