第10話 出会いと別れと旅立ちと
「ベルクー!!」
ロミリオは叫ぶがベルクからの返事はない。
一行は矢が放たれた方向に視線を向ける――月夜に照らされて怪しい光を放つ漆黒の鎧を身にまとった何者かが佇んでいた。
「……」
漆黒の騎士は無言のままゆっくりと一行へ近づいてくる。
レオニードとサザーンがカイルとロミリオを庇うように前へ出て漆黒の騎士と対峙する。
「おぉぉぉ!!」
サザーン渾身の一突きが漆黒の騎士が纏っている鎧を貫こうとする。
――槍は鎧を貫通することなく刃先が鎧の表面に触れたところで止まる。
サザーンは次の攻撃に移ろうとするが、漆黒の騎士はそれを許さなかった。
一瞬何かが光ったと思った刹那、サザーンが崩れ落ちる。
「サザーン!!」
ロミリオのまたもや悲痛な叫びが木霊する。
「カイル! ロミリオ! 逃げろ! 俺が時間を稼ぐ! メルフィスに伝えてくれ!」
「……」
漆黒の騎士は自らの剣を抜き、レオニードと互いに剣を構えて対峙する状況になる。
レオニードはじりじりと間合いを詰め、ドルゴスを倒した時と同じく雷光のような速さで漆黒の騎士に斬りかかる。
その動きに漆黒の騎士が反応する。
漆黒の騎士が持つ剣とレオニードのロングソードが激しく接触した瞬間――
ロングソードの刃が粉々に砕け散った。
漆黒の騎士が持つ剣はレオニードの体を貫く。
「ぐぉ!……がはぁ!……」
今度は貫いた剣を引き抜くとレオニードの体から一気に血が流れ出す。
「……にげ……ろ!……」
レオニードは地面に片膝をつきながらカイルとロミリオへ必死に訴えかける。
漆黒の騎士がとどめの一撃をレオニードに放つと、もはや片膝で支えることも叶わず地面に倒れる。
レオニードが倒れたことを確認すると、漆黒の騎士は剣を一振りすることで付着した血を払うと鞘に納めてカイルとロミリオに視線を合わせる。
そのまま二人の方へゆっくりと近づいてくる。
二人は逃げなければならないと理解しつつも、恐怖に立ちすくんで足が動かなかった。
漆黒の騎士と二人の距離が徐々に狭まっていく。
実績の有無? 人間性の素晴らしさ? そんなものは関係ない。
死は等しく、突然訪れる。
カイルは理解した。
(全滅は免れない。だが、ロミリオを数秒でも生き長らえさせることはできるかもしれない。……自己満足……それでも構わない……自分に今できることをやる)
カイルはショートソードを握る手にぐっと力を入れて、ロミリオの前へ出ると漆黒の騎士を見据える。
漆黒の騎士は剣を抜かずに対峙したまま佇んでいる。
それから右手を二人の正面に掲げると手のひらに光のようなものが収束していく。
――次の瞬間、カイルたちは光に包まれる。
カイルたちの周囲がまばゆく照らされる。
光が失われ夜の闇が再び勢いを取り戻すと、次にカイルの視界へ飛び込んできたのは、綺麗な銀髪をした人間の後ろ姿だった。
銀髪の人は白銀の甲冑を身に纏っており、月夜に照らされて漆黒の騎士とは異なる輝きを放っていた。
(この人が守ってくれたのか?)
「……」
漆黒の騎士は踵を返すと城の中へと消えて行った。
白銀の甲冑を纏った銀髪の青年はカイルとロミリオの方へと振り返る。
「君たちに危害を加えるつもりはない。安心してほしい」
危機は去り、カイルはレオニードの元に、ロミリオはベルクとサザーンの元に駆け寄る。
しかし、彼らは既に息を引き取っていた。
ロミリオはベルクとサザーンが既に亡骸であることを確認すると、むせび泣く。
「彼らを救うことができなくてすまない……」
「……助けて頂いてありがとうございます」
カイルが銀髪の青年に礼を言うと、それを聞いたロミリオも続く。
「あなたはどうしてここへ?」
カイルが銀髪の青年に尋ねる。
「詳しい事情は話せないが、とある調査をしている者だ」
夜が明けて周囲が明るくなる頃、盗まれた商品は荷台へ積み込みが完了した。
積み込み作業が終わるまで銀髪の青年は護衛してくれて、城外から町に至る道をしばらく進んだところで銀髪の青年と別れる。
「それでは私はここで。道中気をつけて」
カイルとロミリオは銀髪の青年に改めて礼を言って彼の背中を見送る。
周囲の景色は朝の明るい光を浴びていた。
それから間もなくカイルたちは歩いている方向からメルフィスの馬車が近づいてくるのを見た。
「おかえり。無事、商品は取り戻せたようだね」
メルフィスがカイルとロミリオを労う。
「……傭兵組はどこに行ったんだ? 休憩か?」
メルフィスから二人へ当然の疑問が発せられる。
「……メルフィス……落ち着いて聞いてくれ……レオニードさんは…………戦死した……」
「レオニードが死んだ?……なぜ?……あのレオニードが……冗談……冗談なんだよな?…………そんな冗談誰にも盗まれてないぞ!!」
カイルとロミリオは俯いたまま何も答えない。
積荷の運搬が終わると、カイル、ロミリオ、メルフィスは再びアリューム城へ向かった。
城内の中庭でメルフィスは慟哭し、ようやく事実を受け入れた。
「……二人とも激高してすまなかった……」
「メルフィスさん、顔を上げてください。……僕もその気持ち痛いほどわかります……」
ロミリオはメルフィスに優しく返事をする。
三人はレオニード、ベルク、サザーンの亡骸を回収するとガルミンド近郊に運び、そこへ墓を作った。
――商品を取りもどしてから三日が経過し、三人はメルフィスの宿泊する部屋に集まっていた。
カイルとロミリオはこの三日間、メルフィスと同じ宿に泊まっている。
そこで各々取り戻した積荷の確認や整理、情報交換を行っていた。
「漆黒の鎧を着た騎士は一体何者だったんだ?」
メルフィスが疑問を投げかける。
「わからない」
カイルが答え、ロミリオも頷く。
「奴も盗賊団の一員だったのか?」
「それもわからない」
(おそらくあの場を取り仕切っていたのはドルゴスと呼ばれていた奴だろう。ドルゴスは奴のことを知っていたのか? 何か目的があったようにも思えるが……これ以上は考えてもわからない)
「それともう一つの謎は銀髪の青年だ。いったい何を調べていたんだ?」
「俺も気になって聞いてみたが、理由は教えてもらえなかった」
(漆黒の騎士と何か関連があるのか? 二人が対峙した時、漆黒の騎士は戦わずに退いた。奴は銀髪の青年が自分と同程度の強さに匹敵すると判断したのか)
「……カイルとロミリオはこれからどうするんだ?」
「僕はいったん自分の故郷に戻ろうと思います」
ロミリオが先に答える。
「俺は仕入れた武具の売り先を探す。……メルフィスは?」
「この一件、謎が多い。私はもう少し調査してみようと考えている。だから、しばらくここに残る」
「俺はこの後、町を出る」
「僕もその予定です」
カイルが返事すると、続けてロミリオも答える。
「では、ここでお別れだな」
三人は固い握手を交わすとカイルとロミリオは部屋から出ていき、それぞれの馬車で出発の準備を整える。
カイルが準備を終えて出発しようとする時、ロミリオが近づいてきた。
「カイルさん、漆黒の騎士と対峙した時に僕を庇おうとしてくれたこと感謝しています」
「あぁ、あれはとっさに足が前に出ただけだ。礼を言われるほどのことじゃない」
「たとえそうだったとしても感謝しています。……お互い立派な商人になれるようこれからも頑張りましょう!」
「そうだな」
「カイルさん、さようなら!またどこかで」
「さよならロミリオ、またどこかでな!」
ロミリオは自分の馬車へと戻っていった。
カイルは準備が整うと、町を出発する前に宿の青年へ積荷が戻ってきたことを報告しようと考えていた。
青年が経営する宿の玄関まで来ると扉は施錠されており、閉店を知らせる通知が張り出されていた。
「ここの宿、先日開店したと思ったらもう店を閉めちゃったらしいね」
近所の住人と思われる人がカイルに話しかける。
「そうなんですね……」
カイルが呟くと住民は離れて行き、道を歩く通行人の中に紛れて消えていった。
馬に再びまたがると、カイルはガルミンドの町を後にする。
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