第8話 潜入

 ――翌日、集合場所で合流する。


「積荷の奪還、頼んだぞ」


 メルフィスに見送られながら一行はアリューム城に向かう。


 道中での会話。


「けど、レオニードさんみたいな騎士団長を務めたような人がなぜ依頼を引き受けたんだ?」


 ロミリオの傭兵、ベルクが発言するとサザーンも乗ってくる。


「メルフィスには世話になってな。今回その恩に報いるためさ」


 プレートアーマーに身を包むレオニードが返事をする。


「そういえば、カイルはずっとガルミンドで行商人をしているのか?」


 レオニードがカイルに尋ねる。


「いや、俺はスタンレード地方で活動していた。それに行商人を始めてまだ半年ほどなんだ」


「半年!? ははは、まだ駆け出しじゃないか。積荷全部盗まれるなんてついてないな」


 レオニードが笑うとロミリオ、ベルク、サザーンも続けて笑う。


 カイルもつられて苦笑する。


「けど、いい経験になる」


 さっきまで笑っていたレオニードは真剣な表情になり、そう付け加える。


「カイルさんは何の目的でガルミンドに来たのですか?」


 今度はロミリオがカイルへ質問する。


「俺は武具を仕入れに来ていたんだ」


「やっぱりそうでしたか! 実は僕もその為に来ていたんですよ。だからカイルさんのこと本当は笑えません」


 ロミリオは積荷をベルクとサザーンで護衛していたが、隙を突かれて盗まれてしまったと話す。


「私とベルクがついていながら……」


 サザーンがロミリオに謝罪する。


「いいんだ。今は積荷を取り返すことに専念しよう」


 ロミリオはベルクとサザーンを交互に見ながら話す。


「そろそろアリューム城に着くぞ」


 レオニードが合図する。


 一行はメルフィスからもらった携帯食料を取り出し、作戦前の腹ごしらえをする。


 夜の帳が下りた頃、正面にアリューム城の門が見えてくる。


 一行は城門の様子を伺うため、そっと忍び寄る。


 城門の左右にたいまつが設置されており、傍にそれぞれ門番が立っている。


 門番の対処はベルクとサザーンが志願した。


 ベルクが城門の東側から近づき、右側に立っている門番に話しかける。


「なんだてめぇは?」


「わたくしは、旅の行商人でして。初めて来る地域で御覧の通り、真っ暗で道に迷ってしまいまして……」


 城門の左側に立っている門番もベルクへ近づき会話に参加してくる。


 門番たちが話に気を取られているうちに西側からサザーンがゆっくりと城門へ近づく。


「俺達には関係ねーな、消えな!」


「まーまー、そう言わずにね」


 ベルクはサザーンが接近するまでの時間を稼ぐ。


「かんけーねぇつってんだろ! 殺されてーのか、てめぇ!」


 ――次の瞬間、サザーンが城門左側に立っている門番の首を背後から絞めつける。


「がはぁ!……」


 するとベルクと話していた右側の門番がサザーンの方向を見る。


 それに合わせてベルクが右側に立っている門番の頬を殴りつける。


「ごほぉ!」


 すでに左側の門番はサザーンによって気絶させられている。


 右側の門番はよろけながら立ち上がるが、ベルクはすかさず羽交い締めにする。


「大人しくしろよ。俺の質問に答えたら命だけは助けてやる」


 ベルクは門番に警告する。


「わ、わかった。許してくれ」


「単刀直入に聞く。盗んだ商品はどこに保管している?」


「し、城の奥。地下の宝物庫だ」


「そうかい。それじゃ、いい夢を」


 門番はもう一度ベルクに殴り飛ばされると、そのまま気絶した。


 ベルクが合図を出すと、そばで隠れていた一行は城門の前に集まる。


「商品は地下の宝物庫にある」


 ロミリオは出発前にメルフィスから城内の地図とたいまつを受け取っていた。


「宝物庫までは僕が案内するよ」


 暗くて細部まではっきり見えないが、廃墟の古城といっても城の形は綺麗に保たれている。


 城壁が崩れているところもなく、入り口は正面城門のみと一行は判断した。


 一行は城門をくぐり、中庭に出る。


 中庭は手入れをされていないので、雑草が生い茂っている。


 身を低くして周囲を窺うが、人の気配はしない。


 中庭を通って城の中へ入ると、城内に設置されているたいまつの明かりでかろうじて足元が見える。


 そのたいまつの明かりの下でロミリオは地図を広げ、地下へ降りる階段の場所を確認する。


「こっちです」


 ロミリオがささやく。


 一行は人が二人並べるほどの幅がある地下へ降りる階段を発見する。


 レオニードを先頭にして階段を降り、一番後ろをベルクが担当する。


 階段を降り切った先にレオニードは人の気配を感じた。


 レオニードの後ろにいる一行に止まるよう合図を送ると、自分が対処することを伝えた。


 するとレオニードは階段を降り切ると宝物庫に繋がる扉の前へ悠々と歩いていく。


 扉の前に立っている門番がレオニードに気付く。


「なっ!」


 門番がなんだ!と言うよりも先にレオニードの拳が門番の腹部に命中し、崩れ落ちて気絶する。


「終わったぞ」


「とんでもないな、あんた」


 階段から見ていたベルクが感心する。


 カイルにとっても一瞬の出来事だったので目で追うのが精一杯だった。


 門番は宝物庫の鍵を腰につけていたので拝借した。


 扉を開けて中に入ると、盗まれた商品が何かの紋章が刻印された大小の木箱へ整理されて綺麗に積まれていた。


 一行は盗まれた商品を手分けして探す。


 (あった!これだ)


 カイルは盗まれた武具を発見した。


 ロミリオの積荷も見つかり、レオニードもメルフィスから頼まれていた積荷を見つけた。


 積荷を一旦中庭まで運び、それから城の外に持ってきた台車へ積む。


 朝になればメルフィスが町から城へ向かう道の途中まで馬車で迎えに来てくれる手はずになっている。


 そこで台車から馬車の荷台に積み替えて町に戻る算段である。


 何度か往復して中庭の角に積荷を集め終わる。


 ここまで盗賊に動きが察知されていないことに一行は安堵の表情を浮かべた瞬間――

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