第7話 対盗賊団チーム結成

 (積荷がなくなっている!)


 馬車を保管している倉庫には鍵が掛けられていたが、来たときには鍵が開けられていた。


 すぐに受付へ行って店主の青年に積荷が何者かに盗まれたことを伝える。


「倉庫にはしっかりと鍵をかけています。それが壊されたのではなく、開錠されていたとなれば相手は開錠の専門知識を持っていそうですね」


 青年は神妙な面持ちで説明する。


「私も宿で何か他に荒らされたり、盗まれたりしていないか調べてみます」


 利益が出て喜び、良い仕入れもできた束の間、一気に谷底へと転落した。


 (どうするか?)


 行商人が集まり情報収集できそうなところといえば、取引所か酒場だ。


 カイルは町を歩いている周辺の人たちに行商人が集まりそうな酒場について聞き込みをした。


 一通り情報が集まったところで歩いて一番近い酒場へと向かう。


 他にもいくつかの酒場をあたってみたが、有力な情報は得られなかった。


 聞き込みをひと段落終えたところで、また別の酒場に行き休憩する。


 席に座ると注文して運ばれてきたビールを一口飲む。


 ビールの注がれたコップを机に置くと、干し肉が盛り付けられている皿に手を伸ばして一つ摘まんでかじる。


 (盗賊の仕業か? でもなぜ鍵を開錠してまで盗む必要がある?)


 すぐにカイルは盗まれた理由について考えても仕方ないと感じ、盗まれた品がどこに運ばれたか、どうやって取り戻すかに意識を集中させた。


 ビールと干し肉を半分ほど平らげたところで、店内にいる人の賑わいに交じってカイルの耳へ気になる会話が入り込んでくる。


 声のする方へ視線を向けると奥で机を囲み5人の男たちで会話しているのが見えた。


 彼らの発言に意識を集中させると、商品が盗まれたことについて会話しているのをカイルは確信した。


 カイルは席を立ち彼らが座っている方向へ歩き出し、話を取り仕切っている集団の長らしき人物の前に立つ。


「その話詳しく聞かせてほしい」


 カイルは話を切り出す。


「あなたは何者ですか?」


 長らしき金髪の青年が尋ねる。


「カイル・アーバイン、行商人をやっている。俺も昨夜、積荷を盗まれたんだ」


 金髪の青年は隣に座っている仲間の男を見ると、その男も青年に視線を合わせて静かに頷いた。


「……そこに座ってください」


 金髪の青年は近くの空いている椅子を指さしてカイルに座るよう促す。


 男はメルフィスと名乗った。


 カイルは椅子に座ると、メルフィスからこれまでの経緯を説明してもらった。


 そこで分かったことは彼らも積荷を盗まれたことと、犯人の手掛かりを探す為ガルミンドまで来たことである。


 カイルもこれまでの経緯と、何か手掛かりがないか情報収集していたことをメルフィスと机に座っている他の四名に説明した。


 そこまでカイルが説明し終えると今後はメルフィスが話始める。


「詳しい話はここではできない。翌日、私の泊っている宿に集まってくれ。続きはそこで話そう。君も興味があれば参加してくれ」


 メルフィスはカイルに宿の場所を教えると、その場は解散した。


 カイルは自席に戻り、残りのビールを飲みつつ、干し肉を食べ始める。


 (自分以外にも被害者がいたとはな。だが、これは良い機会だ。彼らと協力できれば突破口が見つかるかもしれない)


 食事を済ませ酒場から出ると地面に水たまりができるほどの雨が降っていた。


 (頭を冷やすにはいい機会かもしれないな)


 ずぶ濡れになり宿へ戻ってきたカイルは一旦部屋で服と髪を乾かす。


 乾かした後、宿の受付に行き店主の青年に尋ねる。


「そちらは何か盗まれていましたか?」


「幸いこちらは何も盗まれておらず大丈夫でした」


 どうやら宿ではカイルの積荷だけが盗まれていたようだ。


 ――翌日、メルフィスの泊っている宿に向かう。


「おー!カイル来てくれたか。……これで全員集まったな」


 宿の部屋に到着するとカイル以外の人は既に到着していた。


 カイルは空いている椅子に腰かける。


「皆揃ったところで、カイルのためにも改めて軽く自己紹介をしよう」


 メルフィスは提案する。


 この場にはカイルを除けば五名おり、二つのチームが合流している。


 メルフィスとその傭兵のチーム、行商人とその傭兵二名のチームである。


 ここに本日からカイルが加わり総勢六名となる。


「行商人のロミリオです」


 行商人の経験値は不明だが、カイルよりも何歳か年下で少年っぽさが残る印象である。


 彼はカイルと同じくガルミンドで被害に遭い、その後メルフィスのチームへ合流したと説明する。


 続けてロミリオの傭兵、ベルクとサザーンが自己紹介をする。


「ロミリオの傭兵ベルク」


「同じく傭兵のサザーン」


 彼らは二年前からロミリオの下で傭兵をしていると話した。


 見たところ、両者とも三十代前半ぐらいの印象だった。


「私はメルフィス。ロミリオやカイルと同じ行商人をしている。そして彼は……」


 メルフィスがそこまで言うと、隣に座っている長身で三十代後半から四十代前半と思われる筋肉質な男がスッと立ち上がる。


「レオニードだ。よろしく頼む」


「彼はある王国の騎士団長を務めていた。実力は私が保証する」


 紹介が終わるとレオニードは椅子に座り、メルフィスは本題に入る。


「わざわざ場所を変えたのは、これから説明する情報が重要だからだ。……私の情報網を駆使して調べた結果、盗賊団の拠点が判明した」


 メルフィス以外の人間が固唾を飲み、彼が次に発する言葉を待つ。


「この町から半日程度の距離にあり、今は廃墟になっている古城アリュームだ」


 メルフィスは、そこへ盗賊たちが盗んだ商品を運んでいると説明した。


 盗賊の人数は約十名ほどの規模であるとメルフィスの調査で判明している。


「ここにいる皆で古城へ行き、盗まれた商品を奪還するということですか?」


 ロミリオが発言する。


「そうだ」


 メルフィスが頷いて返事をする。


「決行は明日の夜と考えている。何か質問がある者はいるか?」


 カイルが手を挙げて発言する。


「俺もその作戦に参加させてもらっていいか?」


「もちろん構わないがカイル、あなたはこれから傭兵を雇うのか?」


「傭兵は雇わない。俺が戦う」


「腕に自信はあるのか?」


「盗賊程度なら」


「なら十分だ」


 穏便に事を済ませることが厳しい状況であるが、盗賊であっても相手は人間である。


 積荷さえ戻ってくればいいので、できれば人殺しはしたくないと考えている。


 本来、戦いは傭兵の仕事で 商人は商品売買が仕事というのがカイルの持論だ。


 だが傭兵を雇う資金がなく大事な積荷は盗まれている状況である。


 このまま行商人を続けたければ甘い考えに浸っている場合ではないとカイルは迷いを振り切った。


「正直に言うが私に戦闘能力はない。同行しても足手まといになるだけだ。その代わりレオニードに来てもらった。そして、できる限りの後方支援を行う」


 カイルはメルフィスからショートソードとチェーンメイルを受け取る。


 ロミリオは弓矢を選び、傭兵たちは武具についてメルフィスの支援を受けず各々の装備で準備する。


 カイルにとっては緊急時、ナイフ一本で応戦しようと考えていたので思わぬ申し出に助かった。


 武具の段取りが済むと、各自メルフィスから明日行動分の携帯食料を受け取る。


「それでは明日の昼、ここに集合してくれ」


 メルフィスがそう言い放つと、場は解散となった。


 (メルフィスか。見たところ同年代のようだが、行商人の経験は俺より豊富そうだな)


 カイルは感心すると同時に、まだまだ自分自身は経験不足だと身にしみて感じながら宿への帰路につく。


 宿に戻ると受付の通路で客と思しき銀髪の青年とすれ違う。


 (あの店主、俺以外のお客さんも見つけられたんだな)


 カイルは他人のことにも拘わらず、なぜかほっとした。

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