第3話
どのくらい時間が経ったのだろう。目が覚めても、寝る前と何ひとつ変わらない風景だった。同じ明かりがついているから同じように明るいのは当たり前なのだけど。思えば窓がない。それだからか、外が明るくなるとか暗くなるも分からない。朝とか昼とか夜とか、そんな概念がないように思える。きっとこの世界に「外」はないのだろうと推測した。起きた今を朝と捉えることにして今日もまたこのお屋敷を探索してみようと思う。そろそろひとりでウロウロするのも慣れるかと思いきや、僕は友達を欲していた。周りの人たちが仲良さそうに喋っているわけでも、劣等感による孤独を感じているわけでもなかったけれど、誰か、人間と関わりたいと思った。ここに来るまでは意識したこともない欲求だった。
次に目があった人に話しかけよう、と心に決め、探索を再開した。昨日から気になっていた右側の階段を進んでいくと、学校の体育館くらいの渡り廊下に繋がっていた。その先には期待を裏切らず、やはり体育館があった。ボウリング場にテニスコート、サッカーコート、野球場までついていて、文句なしの屋内スポーツジムのようだった。スポーツジムにしては壮大すぎるくらいだ。この世界に野球ができるほどの人数がいるのかとも疑問に思ったが、それを除けばここは面白そうだ。
渡り廊下の途中に帰路があり、迂回ルートと標された細い方の道もあった。そちらは真っ暗で、いくつもの豆電球に照らされて進めるようになっていた。そこは映画館に繋がっていた。これもまた、座席はこんなに必要なのだろうかと思うほどだった。
反対の階段を進むとまた大きな扉を開くような気がして、1日のうちにそんなに探索を進めるのがもったいなく感じた。それで最後に左右の階段のちょうど真ん中にある小さな扉を開いてみることにした。ここは見た感じ大したものもなさそうだと見ていた。しかし、それが僕のここでの生活の本格的な始まりとも言えるのであった。
軋む音とともに重い扉を開けた。その向こうは、ホール側とは対照的に藍色の空で包まれていた。雄大な星空が広がっている。この世界にも夜はあったのか。冷たい空気の流れを頬に感じた。それは風だった。この世界にも外はあったのか。今まで当たり前だったものの美しさに目を見張るほど気づかされた。
しかしこの美しい場所には先客がいた。女の子だった。柵に両肘を預けて空を見上げていた。扉の開いた音で気づいたらしく、その女の子が振り返り、目があった。
次に目があった人に話しかける予定だったことを思い出す。が、先に言葉を投げたのは女の子の方だった。
「聖大くん……だよね?」
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