第44話○ケーキじゃないの?
もしかしてお前……
自分でどこが悪かったのかを本当に理解していないとでも言うのか?
それではまるで……
決して無視できない問題を起こして『これからは動画活動の方に主軸を置いていきます!』
と言っている著名な人のようではないか?
ああいう人は画面の前では本当に反省した素振りを見せてはいても、性根では『悪名は無名に勝る!』何て言いいながら胡座をかいていると言うのを聞いたことがあるのだが……
それは本当なのか?
なぁ、知っていたら教えてくれ!
それにねぇ……
動画での謝罪とは言っているが、どれだけ素晴らしい謝罪が動画の方で行われようとも
【あなたへのおすすめ】
として紹介された動画が、『人はオナラでどこまで飛ぶことができるのか?』
何て言う動画がピックアップされたりすると、貴方の謝罪なんてものを覚えている人なんていないぞ!
謝罪?
はぁ~?
って言うか……
そもそも人が飛べるわけ無いだろう!
なんて気持ちがほとんどのはずだ。
「あふっ…」
「文句でも~」なんて余裕を見せて言葉を発する彼女だが、直ぐに微妙に右手に少しだけ力を強める彼女に、俺は無様にへっぴり腰で顔をしかめるくらいしかできない。
おいおいおい…
お前…俺に喋らせる気はないと言うのは薄々感じていたのだが……
はっ?
感じていた?
……
どうやらお前は俺に考えさせることもしたくないということなのか?
そう思いながら、苦虫を噛み潰した表情で腰をガクガクのノックアウト寸前と言う俺に対しても彼女は自らの手を緩めることはない。
いや……
正確には一瞬緩めて、直ぐに強くしてとかそんな感じのことを繰り返している。
そして俺はそんな彼女の一挙一動において恥ずかしながら顔を福笑いのように変化させて「おひぃ」とか「あふぅ」とか声を漏らしてしまっている次第でありまして……
このままいくと私……
漏らすのは声だけではないと思うんですよね……
次は何を漏らしてしまうのか不安で不安で仕方がないのであります。
「ねぇー、ねぇー。文句がないってことは私の勝ちで良いってことだよね?」
そんな俺の様子を彼女は間近に見ているはずなのだが……
彼女の方から出てきたことばがこんな調子なのだ。
当然ながら顔の方は我関せずとばかりに、全く彼女の様子は涼しいものだった……
文句はあるのだが、言いたくても言えないんだよ。
「いや、いあぁ……ん……」
彼女の言葉に対して、俺が喋ろうとした直後、いや正確には俺がしゃべっている途中になるのだろう。
再び彼女が力を込めてきた。
気を緩めているようで、一瞬「ふっ……」と息を漏らした彼女。
そして、その彼女の様子を見て俺はやはり彼女が俺に喋らせる気がないと言うのを確信する。
なんだその余裕の態度は……
こっちは気を緩めるとどんな大惨事に遭遇するか分からないというのに……
そんなことを思い気を張りながら見ていると、そのまま彼女はすかさず次の行動に移っていくのを俺の視界がとらえた。
彼女のフリーとなっている左手。
これが俺の右斜め後ろに回っていくのが見えた。
今の俺を見て、もはや彼女の中では『時は我に味方せり』とでも思っているのだろう!
と言うのも……
俺の背後にあるもの……
それ、すなわちケーキに他ならないのではないか?
きっと彼女の中では、俺などもはや恐れるに足りずということで、ケーキをとろうとでもしているのだろう。
自分の中で精一杯の考えを働かせ周囲を見渡し俺は、自分のケーキの身に危険が迫っているとしか思えない。
さすがに今、俺が危機的状況にあり言葉が思うように喋られないとは言え、それぐらいのことは察しがつく。
そして、両手の方は普通に自由がきく状態で、身長も俺の方が高ければリーチも俺の方が長い。
なので力が入らないとはいえ、彼女の左手の邪魔くらいであればできると考えた俺はケーキを守ろうと右手を彼女の左手に合わせて伸ばしたのだが……
ここから俺の考えはどんどんと混乱の一途をたどることになる。
何故かというと……
ここからの彼女の行動というものが俺の考えからは大きく外れていくからに他ならないからだ。
と言うのも俺が右手を伸ばした直後、彼女は自分で伸ばした左手の進路を急に方向転換というトリッキーなことをしだす。
具体的にどこに方向転換したのかと言うと…
俺の真後ろである……
その状況を目で追っていた俺は一瞬目の前で起きている光景にも関わらず彼女の行動に対して疑いを持ってしまった。
それも無理はないだろう。
何故ならば、彼女のお目当てはケーキのはずなのだから。
誰がどう見ても今の彼女は野獣のごとくケーキに向かって一直線に襲いかかってくるはずと思うはず。
なので当然、彼女の手の進路が外れたら
あれ?
ケーキいらないの??
何て言うことを誰もが考えるはずだ。
普通に考えたら俺と彼女がケーキをめぐっての超至近距離での揉み合いのバトルに持ち込むのではないかと思ったのだが……?
と言うか、今の状況だとそれしかなくないか……?
ヤツは何がしたいのだ?
そう思った瞬間……
「ねー、信ちゃん」
野獣がこちらに言葉をかけてきた。
恐らく、トリッキーなことをした後だけに、それに繋がる何かを仕掛けてくるはずだ。
油断してはいけない。
そう思いながら、力を込める彼女に俺はいつも(?)と変わらずに苦悶の表情とへっぴり腰で答えた。
「その顔、マジでウケるんだけどぉ~」
人の感情など微塵も持ち合わせていない目の前の悪魔は、話しかけながら俺の顔を見て大爆笑し出した。
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