第43話○心の中にあるもの

 今まで俺は、俺のことを大切に花よ蝶よと愛でながら育成に勤しんできた。

 その点に関しては自信がある!


 それに俺はこの世に生を受けてから自分と言う存在には終身雇用の元で契約を行ってきたのだ。

 しっかりと書面による証拠と言うものが存在する以上、今になってこれ以上の待遇を急にと言うのは、さすがに無理があるだろう。

 一方で勝手に執心するものを見つけたから終審しますだと?

 一体、何がそんなに不満だと言うのだ?

 お前の終わりは、それ即ち俺の終わりということなんだぞ。

 

 それに……だ!

 これまでお前にはどれほどのメンテナンスをして来たと思っている!

 そんなことが今さら許されるわけがないだろう!

 もちろん、そんなことは絶対に阻止しなければいけない。


 俺はそんな思いの中、もはや最終手段。

 各なる上は彼女には悪いが力付くで今回のことには当たらせてもらおうと右手を彼女の前に出した。


 すると彼女……


 自分の左手で俺の右手に何かアクションをとるような仕草を見せて…


「はい、私の勝ち!」


 なんてことを言ってきたのだ。


「はぁー?」


 思わず素の感情が言葉として出てしまったのだが……

 とは言っても今回の言葉は仕方がないだろう。


 だって…… 


 ???

 コイツアタマダイジョウブデスカ?


 どう考えてもそうとしか思えないのだから……


 幸い、彼女は自身の言葉の後、力を多少抜いてくれたので俺は若干の余裕を取り戻すことができた。

 それにともない彼女の言葉の意味を理解しようと自分の右手の方に視線を向ける。


 そして見た瞬間、俺は彼女の考えを理解してしまい愕然としてしまった。


 俺はジャンケンの掛け声の途中で、彼女から神の右手の発動を受ける。


 それを理解した俺は神の右手を解除しようとして自分の右手を彼女の前に出すのだが……

 この時、俺が出した右手の形なのだが、これは五本の指を離して広げている状態なのだが、どうやら彼女の方では今の俺の手の様子がジャンケンで言うパーとでも言うのだろう。

 魔王はそんな俺の手に自分の左手でチョキを作り今、俺の前でドヤ顔をしている。


【魔王はこちらが身構えるよりも早くいきなり襲いかかってきた】

 だと……?


 パッと聞いた感じではよくあるRPGの最終戦のような雰囲気を漂わせるこの言葉なのだが……


 『支配下となれば世界の半分をやろう』と言って了承したら闇の世界だった、と言うことであれば話は分かるのだが……今回の魔王の所業は、話をするしないに関わらず『とりあえず闇の世界をあげるから黙っててね?』といった感じにしか思えないのだが……


 俺の気のせいなのか?


「えっ……ちょっと……真奈美?おいおいおい、勝負って……」


 俺は彼女の発言の意図を確かめるべく、彼女の方に話し掛けて見たのだが…… 


「ん?なに?」


 何か文句でも?

 と言わんばかりの彼女の顔がそこにはあった。


 いや……

 もしかしたら顔だけじゃない。

 身体中から溢れ出ていた不思議なオーラみたいなもの全てがそういっているように感じた。


 彼女の中では既に勝負は決まってしまったとでも言うのだろか……


 おいおいおい!もしも仮にそうだとしたら……

 今時、そんな『コンプラなんて言葉は天ぷらにして食べちゃいましたぁ~』なんて態度が許されると思うのか?


 俺たちが働いている会社でもそうだろ?

 社員というものを最低限守るためのルールと言うのが存在するじゃないか……


 そう思って待っていたのだが……

 いくら待っても彼女からの訂正と言うものが聞こえてこない。

 

 4年に1度開催されると言うスポーツの祭典が冬と夏で各2回づつ開催されたのか?と思うほどに待ってはいるのだが…


 目の前にいる者の顔を見る限り、どうやらこれが彼女の中で正当な勝負だとでも言うつもりなのだろう。


 お前……

 最近の小学生でもしないような悪ふざけをして、そのままと言うことなのか?


 そう思った瞬間、俺の頭の中で何かが切れるような音がした。

 

 一瞬、彼女の右手により伸ばされている俺のパンツのゴムが切れたのかと焦ってしまったが、確認したところ無事だった。


 でも……

 恐らくだが今回、これだけ伸ばされているゴムは切れてはいなくても、もうベロンベロンに伸びていることだろう…

 彼には二階級特進の栄誉を授けたいと思う。

 安らかにお眠りください。


 そして……

 そこから導き出される答え。

 それは理性の糸が切れたということを意味する。

 

 彼女に対して怒りが沸騰したということだ!


 これは絶対に我慢ならん!

 ふざけるな!


「おい!こ……」


 そして、そのまま感情に任せて俺は彼女にもちろん怒りをぶつけようとしたのだが、再び今の状況に気づく。


 目の前の山の何と険しき様に……


 そう!

 今の俺と彼女との距離、彼女は力を緩めているとは言えしっかりと右手で俺を人質にとっている状態だからだ。


「ん~?何~?文句でもあるの~?」


 そう言いながら顔は上げず上目使いにニヤっと笑いながら俺を見る彼女に俺は全身から悪寒を感じていた。


 『要求を呑まなければ人質の命など保証できん!』と叫んでいる強盗が可愛く見えるほどの殺気、それを彼女から感じるのだ。


 おい……

 魔王よ。

 お前は一体どこまでクズだと言うんだい?


 『おい、短い怒りだったなぁ?』なんて声がどこからともなく聞こえてくる気がするのだが……


 はい!

 

 そうです!


 長いものには巻かれろということなんでしょうね。

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