第37話○避けられないジャンケンなら

 聞き耳をたてていただけなのでハッキリと言えることは少ないが、それでも分かる内容だけを拾ってみる限り……

 

 彼女の方で、ジャンケンについて何か策があることは間違いがないはず。

 だから彼女は俺にジャンケンという提案をしてきたのだろう。


 じゃなければ、あの外道のことだけに自分から言い出してきたりはしないはずだ。


 そう思い俺は彼女を見ると……

 彼女は俺の視線に気づいたようで、ニコリと笑顔を送ってくれた。

 そして、その笑顔は何とも言えない余裕の表情に思える。


 この世の権力を全て手中に収めましたとでも言い出しそうな悪辣非道な彼女の顔がそこにはあった。


 間違いない……


 彼女は何か策があるから俺にジャンケンを仕掛けてきたのだ!


「ねー、信ちゃーん!どうするぅ~?ってか私、女だしぃ~。ジャンケンが一番公平だと思うんだけどぉ…」


 更に彼女が俺を煽ってきた。

 顔や行動はもちろんだが、妙に『女』や『公平』と言う言葉をアピールしている。

 このタイミングでわざわざ言うことなのか?


 もしかして今日のやり取りをみる限り、あの魔王を女性だと認識できる要素は少ないというのを自分でも認識しているのかもしれない。

 仮にそうであるならば彼女にとって、俺との勝負は絶対にジャンケンに持ち込みたいと言うことなのだろう。


 そして、そのことを悟られないように敢えて余裕の表情を表に出していく。


 もしかすると隠された考えと言うのが他にあるかもしれない。

 だが今、俺が考えていることの中で当たっていることもあるはずだ。

 そうなるとジャンケンは何かトラップが待ち構えているのは間違いがないと言えるだろう。


 それであれば最も最善策なのは彼女の提案にのらないことなのだが……


 ジャンケン以上に公平と言えるような勝負と言うことか?

 それを今この場で考え出せというのか……


 それも即座に?


 俺はこの時、今まで生きてきた中で最も頭を使ったであろうと言えるほどに思考をフル回転させるのだが……


 だが、だからと言って直ぐに良案と言うものが思い浮かぶわけでもなかった。


 くじ引き?

 一瞬頭に浮かぶが…


 いや、ダメだ。

 恐らく彼女のことだし、くじ引きの内容もしくは順番などどこかにジャンケンと言う行為を絡めてくるのは十分に考えられる。

 

 あいつが今まで転んでただで起き上がったと言うところを見たことがない。

 全身に両面テープがついているのか?

 と考えるほどに、ヤツが転んで起き上がった後は何かがくっついている。

 ゴミだろうが何だろうが関係ない。

 ヤツは使えるか使えないかは拾った後で考えると言う性格の持ち主なのだ。


 とすると…

 もしかして、ジャンケンと言う勝負は避けられないのか?


 俺はそう思い彼女の方に視線を向けると……


 はい、出ました!


 彼女のお決まり下卑た笑みフェイバリットポーズ


 おい、お前まさか……

 そうなのか?

 これこそがお前の狙いだと言うのか?


 そうか……


 ここでトラップを仕込んでくるのかぁ~……


 いきなり放送席に現れて、ゴングを持ち去り凶器として使用するルール無用の反則攻撃。


 俺は正直、彼女の外道行為に一瞬膝をつきそうになってしまったのだが……


 だがしかし!

 今の俺は先ほどの俺とは違う!

 全くの別人と言える!

 自分の未来を明るくするために立ち上がったニューヒーロー!


 だから、最後の最後まで絶対に諦めるわけにはいかない!

 

 予想不能の死角からの一撃をもらったとしても、俺は簡単に倒れるわけにはいかないのだ。

 どんな窮地に追い込まれたとしても起死回生の一撃と言うものを考えなくてはいけない。


 悪は絶対に滅びる!

 その言葉だけを信念に俺は魔王と戦い続けなければならない!


 もちろん、俺と魔王が勝負をすることは、雰囲気的に避けられないと言うのは分かる。

 そして、その事は彼女自身でも確信しているのだろう。

 更に、その勝負は俺も彼女も目を光らせている関係上、公平なものにしなくてはいけないはずだ。

 とは言っても勝負の内容を公平にと考えているのは、今では俺だけなのかもしれないのだが……


 だが、悪いことをされたから悪いことで返す。

 これは負の連鎖を生む行為でしかない。

 そして、そんなことは正義の味方である俺には許されない。

 なので俺は正々堂々と戦うのだ。


 方や魔王の方はと言うと……

 もはや勝つことだけしか考えていない欲望の権化、勝負のどこかにジャンケンの要素を絡めてくることはかなり高いと言えるだろう。

 そして、そのジャンケンには彼女がトラップを仕込んでくることは最早、鉄板と言える。


 となるとだ……

 今のやり取りの中で俺が勝つ手段を見つけたいのであれば、考え方を変えるのが最も良い手段なのかもしれない。


 具体的には……

 俺が彼女からどのようにしてジャンケン勝負をしないと言う流れではなく……

 ジャンケンはする。

 恐らく彼女の性格を考えると、しないと納得しないだろう。

 なので勝負をするからには無毒なジャンケン、できれば勝負の内容には一切関係ないジャンケンを行う流れを考えた方が良いのではないか?


 そして出来れば俺に有利で公平?な勝負。


 そう考え方を俺は変えることにした。

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