第38話○見える考えと見えない考え

 ジャンケンの無力化。

 そう考えた俺は、先ずは彼女の策略の手がかりを知るためにと以前の彼女と友達の会話を再び思い出してみた。

 確かあの時、ジャンケンのことを最初に言ってきたのは友達のはずで、それを彼女は教えてもらった側にすぎないはずだ。

 そして実際にジャンケンを仕掛けたのは、友達からだったよなぁ……?

 確か掛け声が…

 それで実際に始まったのがあの掛け声であるとすると……? 


 ん?

 掛け声?


 と言うことは?

 そうか……!

 うん!

 なるほどね!

 彼女のやりそうなことと言うのが、見えてきた気がするぞ!


 今の俺にはとにかく時間が足りない。

 そう思った俺は……


「なー、真奈美。別にジャンケン勝負でもいいんだけど、でもそれなら掛け声は俺の方で掛けてもいいか?」

「えっ…?掛け声を?」

「そう掛け声」


 俺の提案に彼女が一瞬、不思議そうな素振りを見せてきた。

 明らかにいつもと違う彼女の様子。

 それは即ち彼女の動揺に他ならない。


 多分と言うか…

 ここまで来るとハッキリと言える。

 間違いない。

 これは俺の考えにより、彼女の策略が暴かれた瞬間なのだろう。


 彼女と友達のやり取りでは、掛け声は友達から行われていた。

 ここの記憶はハッキリとしている「間違いない!」


 別に人気絶頂の最中に度重なる女性スキャンダルが発覚して、気がついたら見かけるのは0となっていた架空の人物などではない。

 (ん?架空の人物などではない?それだと実在の人物になる気が……

 なので、ここは架空の人物と言うことにして起きましょう!)


 そして、それと同時にジャンケンを行い。

 彼女は友達にジャンケンで負けた。

 これが今でも思い出せるあの時、俺が盗み聞きしていた内容になる。

 

 ここで残念なのは友達が彼女に対して具体的にどのようなトラップをかけていたのか実際に目でみて確認すると言うことができなかった点なのだが……

 ハッキリ言って今そんなことを深く考えても無駄だろう。

 分からないことは、いくら考えても分からないのだ。

 それに時間もない。

 今考えたのはあくまでも公平な勝負のきっかけに過ぎず、ここから公平な必ず自分が勝つ勝負と言うのを考えなければいけないのだ。

 彼女のトラップの具体的な手段と言うのを考えるのも大切だが、今この場で考えることが他にある現状でこれ以上、彼女のトラップに割く時間はない。

 

 それではどうすれば良いのか?

 と言うものなのだが……

 俺の出した結論は、それであれば彼女がトラップを発動できないようにすれば良いと言う結果に基づき考えた方法と言うのが、ジャンケンの掛け声を俺がすると言う提案だ。


 声のみの記憶になってしまうが、あのときの友達からのジャンケン……

 俺の記憶には友達が彼女に有無を言わせぬ形でジャンケンを仕掛けたと言う印象が強く残っていた。


 それに元々、ジャンケンと言うのはルールが単純だ。

 やり方も決まりきっているのだから、もしも何かを仕掛けるとしたら自分から仕掛けると言うことが可能性的にはかなり高いのではないかとも思う。


 なので先ずはその掛け声を奪うことで俺は彼女のトラップを逃れることができるのではないか。

 単純な考えだが俺はそう考えたのだ。


 打たれずに打つ!

 これではない!

 打たれる前に打つ!

 先手必勝!

 これが俺の必勝となるべき形なのだ。


 ゴングがなった瞬間、俺は彼女よりも早くモーションをかける!

 この方法しかないだろう。


 そう思い俺は再び彼女の方へ視線を向けると……

 何とも言えない涼しげな顔をしている。

 その顔は一見すると「お主の考えは的外れである!」

 と言っているようにもとれるが、俺はその裏にある彼女の顔にある更なる真意と言うものまでも既に掴んでいるのだ。


 ポーカーフェイスと言うのが、お前には本当に似合わないなぁ。


 今ならまだ間に合うぞ、魔王よ!

 その顔と言うのは演技なのだろう?

 素直に今までのことも含めて謝罪をした方が良いのではないか?


 もちろん、今となってはそんな詫びと言うものだけで俺の心と言うものがおさまる保証などもどこにもないのだがな。

 だが、お前が唐揚げさんの無条件解放に応じると言うのであれば、交渉の用意はしてあげるのだがな……


 とは言っても、今のお前がそんなことを望むはずもないよなぁ~。


 ふっ…ふっ…ふっ…


 やはり魔王よ!

 お前など、この俺の前には恐れるに足りん!

 見ているがいい、直ぐにその涼しげにしている顔に焦燥と言うものを教えてやるからな!


「別にそれくらいなら構わないよ。じゃー、早速だけどやる?じゃ~」


 俺に真意を見抜かれているにも関わらず、それを知りもしない哀れなヒロインは事も無げに同意してきた。


 そして常識を弁えた人間であれば、この同意までのはずなのだが……


 やはりと言うのか……


 いきなり勝負を仕掛けてくる暴挙。


 おい、魔王よ!

 先ほど俺と約束したのは何だったんだ?


 止まれ!

 止まれ!


 俺はスペインの闘牛士さながらの見事な体捌きを見せつつ、目の前の暴れ牛をなんとか寸前のところで静めることができた!


 危ない。

 ルール無用の攻撃を前に、俺が沈められるところだった……

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