第35話○手応え?
不思議な声の後、俺は周囲を見渡してみるが、ここにいるのは俺と魔王の二人だけだ。
もちろん一度だけではない、何度見渡しても俺たち二人しかこの場にはいない。
一体どこの誰だったのかは分からないが、今の声が自分の中で嘘偽りよるものだとはどうしても思えなかった。
なので、ここは心を落ち着けて深く考えてみる。
……
ここでの敗北と言うのは一生の敗北と言うことなんだな?
よぉーし、上等だよ!
魔王よ!
お前が俺に対して、一生マウントをとっていきたいと言うのであれば俺の方にも考えがある。
今までは何だかんだ言って手加減してきたけどなぁ…
こっから先は俺の方としても本気でやらせてもらうからなぁ~。
そして、お前と言う呪縛から俺は全力で逃げると言うことを約束しようではないか!
俺の中で彼女への闘争心に火がついた瞬間だ。
「そうか、真奈美。それならやっぱり取引は無しだな」
俺は彼女の視線に負けずに言い返す。
怖くて正面を見れないが、台詞だけであれば目をそらしても別に言える。
「えっ…?でも、そうなると食べられないよ……」
彼女が明らかに狼狽した表情で、俺に言ってきた。
恐らく、俺が彼女との取引に何か隙を見せると思っていたのだろう。
もしそうだと思ったら残念に思いなさい。
これから貴方がお相手をする人物と言うのは、以前の俺とは全くの別人になるのだから。
いつまでもお前と一緒のフィールドで勝負するわけがないだろう?
人類と言うのは道具も使うし、火も使う。
常に進化と言うものを意識しているのだよ!
「それならそれで仕方がないかな。別にケーキも食べ物には違いないし……それに今晩一晩でしょ?別にそれならケーキだけでもいいかなとも思うんだよね」
「んー……」
俺の答えに対して彼女が黙ってしまった。
多分、駆け引きと言う道具を彼女は、これまで生きていて体験したことがなかったのだろう。
一見すると下を向き考えているようにも見える。
多分、予想と違う返しを俺がしたことにより彼女の中でプラン変更を余儀なくされているのだろう。
さすがに鈍いお前といえども気づいたようだね。
この俺の進化と言うものに!
基本パックではお客さんはつかないんですよ!
今の時代、お客様の目は肥えてますからね。
バリューパックを見せなさい、バリューパックを!
ふっふっふっ……。
どうせ、バリューパックを用意していないのだろう?
人の文化と言うのは目にも止まらぬ早さで移り変わり行くものなのだよ。
いつまでも魔王、お前が想像するような剣と魔法だけのドンチャン騒ぎなわけがないだろう。
もちろんお前がそんなところまで考えていないのなんて、こちらとしてもお見通しなのだけどね!
そして……
今からそんなことを考えて間に合うと言うのかね?
全く詰めが甘いなぁ~。
君は気づかないのかい?
この俺の解放されたパワーと言うものに!
「じゃー、そんな感じだし、それに真奈美にさっき用意してもらったフォークもあるから……」
「だからぁぁあ~~!ちょっと待ってって言ってるでしょ!」
彼女が明らかにイラつきながら、俺に言ってきた。
「えっ?待つの?」
「別に、ここまで待ったんだから少しぐらい待ったって変わらないでしょう!!」
彼女の言葉は会話を重ねるごとに大きくキツくなっている感じがする。
恐らく……
と言うよりも、ほぼ間違いなく彼女がそれだけ俺の様子に焦っているということなのだろう。
なので、その変化というのが、どうにも俺には心地よく感じてしまい、先程から必死に笑みを我慢していた。
もしかしたら彼女が見せていた下卑た笑みと言うのは、こういう時に見せていた表情だったのではないだろうか。
間違いない!
俺は今、彼女に対して有利ポジションにいる!
だが、俺は彼女とは違う!
有利ポジションにいるからと言って自分の感情をさらし、相手に逆転されるような彼女とは違うのだ!
絶対、最後に笑わなければいけない!
まだだ!
まだ早すぎる!
焦るな俺!
最後まで絶対に油断してはいけないんだ!
俺は断腸の思いで、ここは自分の満身と言う感情に渾身のボディブローをくらわせる。
「えー?でも、お互いが納得できる条件なんて、そう簡単に見つからないと思うんだけどな……」
「そんなことないと思うよ。って言うよりも、信ちゃん。それならいっそのこと勝負して決めない?」
勝負……
だと……?
彼女が何やら妙なことを口走ってきた。
「勝負って……何で……?」
「んー、何でもいいかな?」
はぁ~?
アイツは阿呆だろう?
何を言ってるんだ?
俺の方としても予想外の彼女の言葉だけに、一瞬空模様が暗いものになった気がしたのだが…
そうは思っても今さら引き返すことなどできやしない。
俺は再び冷静になり考えてみた。
彼女は明らかに冷静さを失い俺に勝負を要求している。
そして勝負事態は何でもいいとまで言い出す始末だ。
と言うことは……
もしもここで俺の有利な勝負に彼女を持ち込むことができるのであれば、俺はノーリスクで唐揚げさんたちを救出することができるのではないか?
そう思い彼女の後ろの方に視線を向けると……
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