第33話○等価交換?
今、俺の視線の先にはかなり多くの唐揚げさんたちが見える。
一つ?二つ?
いやいや、そんな微々たる数ではない。
仮にそんな数しか見えなかったとしたら、俺は直ぐにでも彼女との交渉を打ち切っていたはずだ。
そして、そんな俺の行動が読めぬほど彼女もおろかなどではない。
恐らくは8~10くらいの唐揚げさんたちがそこには見えていたのだ。
正直、俺の中では彼女が1~2個の唐揚げを餌に俺のケーキと交渉をしてくるのではと思っていたのだが、蓋を開けて数を確認してみると俺の予想を大きく裏切る結果となっていた。
まー、仮に1個か2個で交渉をしてきても、さすがにそれで納得するほど俺もバカではない。
だが今見える唐揚げさん達の人数は、普通に考えて2皿分くらいはある。
もちろん今の段階で、それら全てが俺の手元に来ると言うことではないだろう。
細かい交渉と言うのはこれからだと言うのも分かっている。
だが……
とは言ってもだ……
今、俺の目の前に見える量を見る限りで、多少交渉に失敗したところで俺が貰える個数が完全に0個と言うことも考えにくい。
アイツらはなるべく多く俺の手で救ってあげたい!
俺はこれからの彼女との交渉にやる気をみなぎらせていた。
「うん、マジで。信ちゃんもお腹減ってるでしょ?それなら個数多い方がいいかと思ってね」
魔王の言葉が一見すると俺を気遣っているように聞こえなくもない。
表情も澄ました感じで実に落ち着いて話してはいる。
だが……
だからと言って……
それが、そっくりそのまま彼女の優しさに繋がるのか?
と言われたら間違いなくそんなことはあり得ない。
むしろ、俺は今日のやり取りで優しさなんてもを一切感じていないぞ。
今までさんざん煮え湯を飲まされた俺には分かる!
これは彼女の演技であると言うことが!
もちろん俺の方も、そんな魔王の裏の顔を気づいているとは言っても、そっくりそのまま喋るわけにはいかない。
まだ交渉の最中でしかないのだから。
彼女は今、自分の交渉の材料として唐揚げを見せてきた。
だがそれはあくまでも交渉の始まりにすぎない。
と言うのも彼女はケーキとの交換として唐揚げを見せてくれたのは、紛れもない事実とは言え、それを全てケーキとのトレードに使うと約束してくれたわけではないからだ。
彼女の事だ、恐らくはこの辺りで何かトラップ的なものを考えてくるはず。
なので次にその辺りを探ってみよう。
「なー、真奈美。それ全部とこのケーキってことか?」
「えっ…」
彼女が目を大きく見開き、俺の方を見ている。
俺からの問いが予想外という感じだったのだろう。
聞いてみただけの言葉に何をそんなにお前は驚いているのだ?
正直、俺の方からすると物量の取り決めと言うのは必然的な話し合いに思えるのだが……
そんなことを考えていた俺だったが……
直後、彼女の目から明らかに俺の方へと火花が飛び散ってきた!
「まさかぁ~、ケーキそれ1個でしょ?それなら唐揚げも1個で良くない?うん!1個と1個で等価交換でしょ!」
「……」
はぁ~???
アイツは何を言ってるんだ?
唐揚げとケーキが等価交換だと??
おいおい、真奈美よ。
そんなふざけた意見がお前の考えだとでも言うのか?
どうしても彼女の言葉が信じられない俺は、彼女の言葉の後、訂正を待とうと黙ってみるのだが……
彼女から、それらしい言葉と言うのが一切聞こえてこない。
お前、つい今しがた『個数は多い方が……』とか言っていただろう?
昨日や一昨日と言ったように時間が空いているわけではなく、【つい今しがた】だぞ……
あの言葉は嘘だとでもいうつもりなのか?
だとしたら、あまりにもふざけすぎてはいないだろうか……
俺はそう思い、ふと周りを見渡してみると……
俺と真奈美の間に一瞬、大きな暗闇が生まれていた。
どこまでも続いているようで、とても底などが見えない冷たい風が吹くだけの暗黒の谷がそこには見える。
なんだ……?
なんだ……?
突然俺とヤツとの間に現れたこの暗闇は何だというのだ……
もしや……
今や、この暗闇がヤツと俺との心の中における距離の差だとでも言うのか?
どこの世界に好きな人に対する愛情を暗黒で表す人物がいると言うのだろう。
これがお前流の【闇デレ】とでも言うつもりなのか?
ふざけるなよ、魔王!
お前の場合はデレの要素が一切感じられない。
闇しかないではないか!
お前が俺に行っているそれは、虐めとしか言いようがない行為ばかりなのだぞ。
そんなものを『流行りですから、テヘ』と可愛い笑顔を振り撒きながら俺に押し付けようとするんじゃない。
お前がやっている行動は、どうせ死刑判決は確定だからと開き直って罪を重ねていく連続殺人犯と同じようなことをしていると言うことになぜ気づかないんだ!
いい加減、目を覚まさないか!
俺は何度だって言ってやる!
いくら非道な魔王だとは言っても、やっていいことと悪いことというのがある。
それをアイツは理解していないというのか?
いくらなんでもその取引は横暴なのではないか?
そう思いながら俺は彼女の方へ視線を向けてみると……
そこには物凄い睨みをきかせてくる彼女の姿があった。
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