第31話○止められない欲求?
「まー、タダじゃないとは言ってもな。元はといえばこのケーキも貰い物のケーキだしな、それほど高い条件を出すわけにもいかないよな……」
「まーねー、確かに高い条件を出されても無理があるよねぇ。ち・な・み・にぃ~、どんな条件?」
不安や恐怖を若干感じながら、俺は勇気を振り絞り交渉に入る。
対照的に彼女の口調はというと……
そんな俺の思惑などお構い無しという感じに軽い。
更には高い条件は無理っていうところの言葉が妙に強調されているような気がするのは気のせいか?
でも、それを差し引いたとしても……
彼女よっぽど食いたいのだろう。
俺が取引を匂わせた瞬間、取引の詳細を聞こうとするばかりではなく、自分の視線を明らかに俺のケーキにロックオンさせてきた。
俺には彼女の目は最早、暗闇の中から見える猫の目と相違がないようにさえ感じる。
視線の方は全く隠す様子もないのだから、俺としてはあきれるばかりだ……
いくらなんでも舐めすぎだろう……
もはや自分の物にでもしたつもりなのか?
それは、ちょっとばかり早計すぎると思うぞ!
彼女はきっと【急いては事を仕損じる】と言う言葉を知らないのだろう。
「ん?まー、別に条件と言ってもな。今なら料理と交換ぐらいしか言えないよな……」
「……」
彼女の動きが止まった。
視線はもちろん先程と変わらない俺のケーキ。
姿勢も先程と変わらない四つん這い。
もはや今の彼女は前傾姿勢で獲物との距離を測る猫科の動物にしか思えない。
と言うことは……
今、彼女は必死になって考えているのか?
それとも既に自分の中で、ある程度の作戦が決まったと言うことか?
よし、いいだろう!
来るなら来なさい!
受けてたってやろう!
貴方の性格上、自分が主導権をとりたいからと言うことで先手で仕掛けると言うのは俺の方としても既に予測していることなのだよ!
そう!
その反応は最早、俺の狙い通りと言える行動なのだよ、『明智くん』
ん?
とは言っても今のお前の中で決まっていることなんていうのはある程度にすぎないのだろう?
そんな状態で、鉄壁の防御壁をしいている俺の牙城を切り崩せると思っているのかね?
お前にも今回の俺の牙城が今までとは全く違う手強いものであるというのは感じているのだろう!
そうだよなぁ~。
そうでなければ、お前のことだ迷いなく攻め込んできていたはずだ。
すくなくとも今のように動作を止めたりはしないはず。
恐らくお前は今、頭の中をフル回転させて俺のケーキと自分の料理を天秤にかけているのではないか?
どこまでなら出せる、どこまでなら出してもいい。
そんなことを必死に頭の中で計算しながら、俺のケーキを腹に入れようという算段を細かく考えているのだろう。
ほらほら、真奈美よ。
俺の手の中で踊りなさいぃ~。
「とは言っても、そんなことは出来ないよな。俺の方も始めから期待していないし、そろそろ食べようかなとは思うんだけど……」
「ちょっと待って!」
彼女が右手を俺の方に向けてアピールしてきた。
もちろん視線はケーキのまま。
しめた!
チャンスだ!
彼女がケーキを食べたさに自分を見失っている!
恐らく俺のブラフに、それほどつられてしまっていると言うことなのだろう。
魔王、恐れるに足らず!
「ん?待つのか?」
俺のこの言葉に彼女は久しぶりに視線をケーキから外した。
余裕がなくなった魔王は、恐らく俺が本気でケーキを食べると思っていたのだろう。
「ちなみに…何が欲しいの?」
ケーキと先程自分で片付けた料理たち、交互に見ながら魔王は自分から条件を聞いてきた。
間違いない。
魔王が堕ちた瞬間と言えるのではないか?
一瞬、自分の勝利の表情が表に出てしまいそうだったが、ここで出してしまっては完璧とは言えない。
俺は自分をそう戒めた後、咳払いを一つしながら再び心の中で気合いを入れ直す。
「んー、別に何でもいいけどね」
ここで焦って自分から条件を出しては足元を見られる可能性がある。
先ずは彼女の出せる条件と言うのを聞いておきたい。
じゃないと俺が条件を上げればいいのか、下げて交渉すればいいのか分からないからだ。
当然だが、なるべくなら下げて交渉はしたくない。
下げるのは俺の勝利が決定した後での彼女の気分だけにするべきだろう。
俺の限界ギリギリを攻めるポリシーと言うのは、この場でも忘れずにいくつもりだ!
でも、恐らくいくら彼女が自分を見失っているとは言え、ここまで俺をさんざん苦しめてきたのは事実。
そうなれば彼女の方も自分から自分の底と言うのを探られるような発言はしないはずなのだが……
そう思った瞬間……
「んー、私の方としては…、やっぱり唐揚げかなぁ~」
彼女から条件を出してきた。
正直、俺の中ではかなりの泥仕合で長期戦を予想していただけに、この序盤の段階で彼女が条件を出してくるとは思わなかったのだが……
ヤツが何故そんなに勝負を急ぐのか俺には全く理由がわからない……
だが間違いなく言える。
絶対に逃してはならない!
これは降って湧いてきた千載一遇のチャンスであると!
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