第30話○やっぱり狙ってくるのか…
先程までは確かにあの場所にケーキがあった。
それは絶対に間違いない。
なのに今はない。
摩訶不思議な状況には違いないが、決して狼狽えてはいけないんです。
何故なら近くに物音も気配も一つなく俺のとなりに位置を取り鋭い眼光で獲物を狙う。
俺が気がついた時には殺気をはらんだ彼女の目線があるからです。
一つ間違うと、俺の方も同じ道を辿ってしまう。
これで怖がるなって言う方が無理な注文てやつでも、決して狼狽えてはいけないんです。
冷静に心を落ち着かせて、彼女の心を読みながら次なる一手を考えていきましょう!
この俺のようにですね!
もしかして意外でしたか?
俺も、いつまでもむやみやたらに怖がってばかりというわけではありませんよ。
一応これでも彼女の元彼氏のつもりなんですからね。
あくまでも元ですよ!
元!
なので、彼女の思考回路っていうのも勿論熟知しているつもりです。
そこまでしてケーキを狙いにきた彼女ですからね。
もちろん好物だって言うのも前から分かっています。
そして、それだけに俺は……
今度は……
今度こそは彼女に一泡ふかせることができる。
それほどのチャンスが巡ってきたのでは……
そう思ってしまったんですよ!
先ほどの転倒の再来じゃないかって?
転倒?
なんです?
それは、はっきり言って三歩歩くと忘れる俺に先ほどの話なんてしても覚えてるわけがないですよね。
そう!
俺と言う人間は何と言ったって、今を輝いて進むだけの人間ですから!
輝きすぎて近所迷惑?
大丈夫です!
今俺が住んでいるマンション。
住んで5年ほどになりますが、両隣の住人と一度もあったことがありません。
それほど希薄ですからね……
全く世知辛い世の中っていうやつですよ……
夜中以外であればまず迷惑なんてかからないでしょう。
仮に何らかの形で迷惑をかけてしまったとしても、そんなのは全て平謝りでスルーして見せますよ!
なんせ、私のプライドさんは今、絶賛フェードアウト中ですからね!
怖いものなんて100個ぐらいしかありません。
「なー、真奈美。お前、これ食べたいのか?」
俺はそんな怖いものの一つに勇気をもって話しかけていく。
ただ、ビビりながらはいけない。
ここは余裕で、冷静というのを彼女に見せつけなければいけないのだ。
今となっては彼女のイヤらしいほどの気配と雰囲気はそこら中に充満している。
正直、そう言った気配と雰囲気は俺ではなく、代わりにスーハースーハーしたいと立候補する者にでも向けてやればいいと思う。
どこにでも物好きというのはいるはず。
だが、それを頭から毛嫌いしては彼女に煙たがれるだけなので、ここは敢えてその辺りには無視を決め込んで彼女の出方を探ろうと俺は彼女に話しかけたのだ。
俺はピーマンを食べられる子供だ!
苦くなんてない!
だって、今日のおかずはピーマンの肉詰めだから!
心の中で何度もそう念じながらである。
「んー、食べたいって言うかぁ~。なんか信ちゃん、さっきから食べる気配ないしぃ~、コンビニの店員さんもぉ~、お早めにって言ってたからぁ~、もったいないかと思ってぇ……」
だから、猫をイメージしているのか知らないけど、四つん這いになりながら首を細かく振りながら喋るのはやめなさい!
後、頭を振りながら語尾を変な感じに伸ばすのもやめなさい。
どこで言葉が終わっているか区別できないときがあるから、しっかりと喋るんだ。
それに
知っているぞ。
絶対に騙されないぞ!
お前がどれだけ甘いものを好きなのかと言うことは。
ただ、お前の方としても変に食い付きを見せると俺に対して弱味を見せるなんてことを考えているのだろう。
だから、ここは一旦は引くそぶりを見せているつもりらしいがな、真奈美!
お前のその喋り方だとケーキを食べたいと言うのがバレバレなんだよ!
もっともらしい言い訳をつけているように感じるが、用は自分が食べたいだけなんだろ?
ふふっ……
いいか?
真奈美よ、演技と言うのはこういう風に行うものなんだぞ!
「あー、さすがに今から食べようとは思ってたんだけど……お前食いたいのか?」
「えっ!?くれるの?」
キラリと光る彼女の目。
そして、そればかりではなく彼女の顔が間違いなく明るいものとなった。
明らかに彼女が俺の仕掛けに食い付きを見せた瞬間だ!
こいやぁ!
ダボハゼがぁ~!!
今度こそ、一泡ふかしてやんぞ!!
「んー、そうだなぁー。タダじゃあげれないかなぁ~」
「んー…、そうだよねぇ~」
ん?
お前、あっさり引いたけど……
もしかしてタダで貰うつもりだったのか?
それはさすがに厚かましすぎるだろ、一体どの顔が……
あっ……、そうか。
あの顔か成る程ね。
納得しました。
本来であれば、『この顔かぁーー!!』と言いながら、俺の必殺ツーフィンガーを魔王の鼻の穴に炸裂させてやりたかったのだが、それは後のお楽しみにとっておくことにしよう!
と言うのも、なんだか魔王の顔を見た瞬間、彼女の厚かましさと言うのが妙に納得いってしまったからなのだが……
もしかして俺はそれだけ彼女に酷い目にあわされているからということなのではないだろうか……
若干、不安を覚える……
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