第29話○瞬間芸
よく人の予感と言うものは悪いものほど、よく当たると言うのはよく言ったもので……
彼女、箱からケーキを出して綺麗に二等分すませてましたよ。
行動早すぎでしょ……
ナイフ片手に目にものスピード見せつける。
お前は、どれほどの剣豪だと言うのだ……
せめて俺が返事をするまで待てよな……
って今、俺の顔見て軽く舌打ちしてたんですけど……
もしかして、俺が全然気づかなかったら知らないふりして食べてましたなんてこともあったんじゃないのか?
ほんと勘弁してくれよなぁ~。
もっと相手をよく見ていかないと後半バテるぞって……
あー、彼女料理食べてデザートだから既に後半でしたね。
体力配分の心配などないってことですか。
良いですよね!
チートアイテム所持者は。
そして先ほどまで俺にアピールしていたケーキさんですが……
俺の時の反応とは雲泥の差で『余は満足じゃ!』とばかりに彼女のことを受け入れていましたからね、ホンとコウモリっぷりが半端じゃないですよ。
どうせなら本当に翼生やして飛んでいってくれれば、もっと良かったんですけどね~。
って、あー…。
それだと俺の前からもいなくなってしまいますね……
さすがに、それは勘弁です!
でも、とは言えケーキさんのあの態度は【長い物には巻かれよ】ってことですか……
はいはい、そうですね。
でも俺の方では巻かれるのなんて
とは言っても、俺の方の
これ以上は、どこかの誰かに後ろから一撃をくらいそうなのでここまでにしておこう。
そして彼女……
先ほどまで料理を食べていた時には、俺が使う箸や皿なんて全く用意などしてくれなかったのに対して、今回のケーキの場合。
きちんとフォークと皿を用意して俺の方に手渡してくれるんですからね……
こういうとこがイヤらしいったらありゃしないですよ。
それも笑顔でですよ?
そういうイヤらしさは出す場面が違うでしょう。
ホンと分かっててやってるタチの悪さ?
タチ…?
勘弁してほしいです……
まー、だから今回、彼女と別れ話をするつもりだったんですけどね……
ここまで振り返ってみると、四分六で負けかけているような感じがしないでもないですからね……
どうにか、この辺で一肌あげてあげないと少々苦しくなるかもしれない。
そんな事を考えながら、彼女がせっかく皿に切り分けてフォークまで添えてくれたケーキとにらめっこをしていたんですが……
そしたらですよ……
自分の横からいきなり黒い影のようなものが現れたんです。
俺は一瞬、何がなんだか分からなくて、とっさに黒い影が現れた方を見ると……
「ねぇー。それ、いらないのぉ~?」
何て言葉をかけてくる魔王がいましたからね。
いっちょ前に自分をアピールしているつもりなんでしょうか、四つん這いで体を揺するようにしてくるんですよ。
だとしたら、お前には尻尾が足りないよとかいいながら箸の一本でも、後ろの穴から……
なんてことが一思いに出来れば問題がないんですけどね。
もちろ出来るわけがありません。
とは言え彼女……
そんな仕草をお前がして自分で可愛いと思ってるんですかね?
そんなん、ちょっとしか思わないって言うのに……
それも、自分の左人差し指を唇にかけながら、いかにも物欲しそうって感じを出しながらですよ。
俺はお前に指ではなく手をかけたいなんて思っているのに……
全く彼女と来たら人の気も知らずに……
でも、俺がそんな彼女の仕草に感じたのなんて少しですからね、別に握られているわけでもないし。
なので俺は直ぐに我に返りましたよ。
そしてその後は……
えっ?
嘘だろ?
と思って、俺はつい今しがたまで彼女が座っていた場所を振り返ってみたんですが…
そこには、一瞬『洗ったのか?』と錯覚してしまいそうになるほどの綺麗なお皿とフォークが置いてありましたよ。
どうやら彼女。
一瞬の合間にケーキを完食しちゃったようです。
時間にしてどのくらいでしょうか……
多分…
数秒前?
には彼女の皿のほうに、こんもりとケーキが隆起していた記憶があるんですけど……
一瞬の合間に、あいつは一体どこになりを潜めちまったというんでしょうか……
神隠しというやつかもしれません。
それとも、あれは俺の記憶の間違いだったんでしょうかね?
そう思いながら、彼女の方に顔を向けると彼女の左頬の辺りに僅かについているクリームを見つけたんです。
直後、彼女も自分のクリームに気づいたようで然り気無く俺の方を見ながらぬぐっていたんですけど……
あの時の彼女の表情は生きた人間がするような表情って気がしませんでしたね……
今まで味わったことはなかったので、ハッキリとは分かりませんでしたが身の毛もよだつ恐怖というのは、あの時の俺が感じた感情のこと言うんでしょうね。
でも良かったですよ。
とりあえず、あの時の彼女がなりふり構わずにケーキを奪いに来なくて……
決して自分の危機が去った状況ではないですけど、その点だけは安心してました。
もしも彼女が本気で奪いに来たとしたら、まず間違いなく守れる自信なんて無かったですから。
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