第27話○予想外の波
彼女の箸に吸い寄せられるように唐揚げ様に食いついた俺。
その唐揚げ様が上手いのなんの!
この世のものとは思えない味がしましたよ!
もしかしたらあれが禁断の果実ってヤツなんですかね?
あれ……?
禁断の果実って言えば、手にするべきではないものとか手にすることが禁じられているものってことなんですよね……
えっ?
だったら無理だろう。
何て思っていますか?
いやいや、今回の彼女との勝負は始まったばかりですからね。
まだまだ勝負の行方はわかりません。
そう言えば彼女…
最初に唐揚げ様を掴むときに何やら怪しげな粉のようなものをかけていたんですけど……
白い粉と茶色っぽい粉です。
もしかしたら、それのせいってのもあるんでしょうか?
とは言っても……
まー、唐揚げ様お一人なんて言っても大きさなんてたかが知れています。
ましてや彼女が用意したやつなんてコンビニで購入したお肉を使用した普通サイズ。
所詮は一口で片付けられますからね。
現に今となっては胃の中ですし、詳しいことは分からなくなっちまったんでどうでもいいって言えばどうでもいいことなんですけどね。
ただ……
ただですよ!
唐揚げ一個なんて、量的には微々たるものでございまして……
一口でパクリとやっちまったあとに残る物って言ったら、僅かな余韻と更なる欲求ってヤツなんですよね……
そして僅かな余韻と言うのは、皆様もご存じのように時間がたつにつれて小さくなっていきます。
小さくなっていくと……
もちろんお腹の方は全然余裕な訳で、俺の方も当然のごとく次なる一個なんてものを求める気持ちが多くなって行くんですけどね……
そう、欲求というのが大きくなっていくってことなんですよね。
そして、その欲求の成長スピード足るや……
気がつくと、ムクムクっと手がつけられないほどに大きくなっているのが自分でもハッキリと認識できちゃうんですから、全くたちが悪いことこの上ないですよね。
正しく正義のヒーロー!
欲求フマン、参上!
って言う感じでございますよ!
とは言っても、ここでむやみやたらに求め出してしまったら、先ほどの前哨戦で見せた【たこ焼きの悪夢】の再来になっちゃいますから、俺の方としても、そこは二度も同じ過ちを繰り返せないと言うことでギュッと我慢をしますよ、もちろん!
はい、やろうと思えばできるんですよ!
実際、小さい頃からアンタはヤらないだけで本気でやればできる子なんだからと言われ続けてきましたよ。
そして、その結果、28年間やらないで年月が経っていったと言う訳なんですけどね……
でも今回はさすがに場合が場合ですからね我慢しますよ身の安全を考えてね!
はい、もちろん我慢をするんですけどね、敵も強かなもので次なる手を打ってくるわけです。
敵の次なる手!
俺の方としては、敵の次なる手は【たこ焼きの悪夢】による物量作戦だと思っていたんです。
恐らく次に一個を餌にもう一問。
そして、それが終わったらもう一個を餌にもう一問。
俺の反応を楽しみながら、徐々に懐柔していってやろうと言う魔王の何とも嫌らしい魂胆を俺は予想していたわけですよ。
特に徐々に問題のハードルを高くしたりとか
スパンを長く取りながらの微調整とか?
そう言う人のいやがるような作戦って好きそうなやつですからねぇ~。
俺も、その辺りのことを考えながら魔王の出方を探ってみたんですけど……
敵の考えと言うのは全く逆のものでしたよ。
と言うのも、彼女は俺に賞品を渡した後
「ふー」
と一息ついて、テーブルの下に予め用意していたタッパをテーブルの上に出して、その中に料理を詰めていくんですよ。
最初、彼女が何をやっているのか俺の方でも分からなくて、恐る恐る聞いてみましたよ……
もちろん怖かったですよ!
怖かったですけど、彼女が俺の前で行動するからには何か訳があるに決まっています。
今までないためしがなかったですから。
そして、彼女の行動と言うのは今までも俺の理解の外側から一気に押し寄せてくることがほとんどで、気がついたときには手遅れなんてことばかりでしたからね。
なので、こちらとしてもなけなしの勇気を振り絞って早めに彼女に聞いてみたんです。
そうしたら、彼女……
「うん、もう気が済んだから料理の方は片付けちゃうね♪」
何て事を笑顔で言い出すんですよ…
えっ?
片付ける?
なんで?
食事はまだでしょ?
だって、俺……
腹減ってるよ……
一瞬、彼女が言ってきた言葉が分からなかった俺は心の中で、そんなことを自問自答を繰り返していたのですが……
そんなことを意味もなく繰り返していても、目の前では料理と言う料理が彼女の手引きによりタッパの中に詰め込まれていきます。
あー、あの唐揚げの残りがあれば、一体どれだけの飢えが救えるのかとか……
あー、あいつはアジフライなんて言う未知の美味なる料理を一口も手につけていないのか……
彼女の囁きによって罪もない料理君達が狭い牢屋の中に押し込められていく……
お前たち、騙されてはいけないよ。
甘い声をかけて、お前たちを連れていくその者は、一皮むけば冷酷無慈悲な恐怖の大魔王なんだぞ!
後々になって後悔するのはお前たちだ!
手遅れになる前に戻ってこい!
いつしか俺の頭の中では、そんなことばかりが駆け巡るようになっていったんです。
いやー、ビックリしましたよ。
そして、そんな俺の様子と言うのが彼女にとっては偉く期待通りの反応だったらしく、彼女はご満悦と言うような表情をしながら
「んー?信ちゃん、どうしたのぉ~?」
何て言葉を俺にかけて来たんですよ。
ハッキリ言わせてもらうと、この時の彼女の言葉。
俺にとっては、どうしたのも何もないですよね。
俺が腹を空かせてひもじい思いをしていると言うのは、彼女自身も気づいているはずなんですよ。
じゃないと鼻をピクピクさせたりなんかしないでしょう。
下卑た笑みの方は我慢しているようでしたがね、それでも彼女は自分の左目尻の辺りをピクピクさせてましたから、下卑た笑みをしたいのを我慢しているんだってのが一目瞭然って感じでしたよ。
まー、そんなゲスな魔王だからこそ先ほど「ケーキ食え」何て言う暴言も出ているんでしょうけどね。
ただ、そうは言っても俺がケーキじゃなく料理を食べたいと言うことは彼女の方にも、これまで散々アピールをしてきましたよ。
そして、その訴えはめでたく伝わったはずです。
だからあの唐揚げ様降臨していただいたわけで、唐揚げ様降臨した後に料理に後輪つけて後退させようと言うんですか……
それはあまりにもひどいと思いませんか?
さすがの俺も彼女がここまでの暴挙に及ぶと言うことは考え付きませんでした。
このままでは自身の身が危ういと感じた俺は、もう一度彼女にお願いすることにしたんです。
「真奈美、お願いだ。正直、あれだけじゃ足りない!もう少し食料を分けてください」
と誠心誠意お願いしましたよ。
その他にも俺は、彼女(の料理)がほしくて、それこそ彼女にありとあらゆる事を言いました。
ひたすらに誉めて持ち上げて持ち上げて、そのまま一気に叩き落とせば気持ちいいだろうなぁなんて考えましたけど…
もちろん、そこは我慢しましたよ。
我慢しましたよ。
もう、自分の命全てを懸けるほどの思いで我慢をしました。
この勝負だけは絶対に譲れない!
そう言う気持ちで、俺は彼女にお願いし続けたんです。
だって俺のプライドなんて、まだロープにぐるぐる縛られている状態ですからね。
やつを助け出すのなんて、すべての安全が確認できてからでじゅうぶんなんですよ。
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