第26話○唐揚げ訪ねて…
目の前には唐揚げがあり、彼女がチャンスタイムと言っている。
それは即ち今から唐揚げを食うチャンスがあると言うことに他ならない。
絶対にモノにしてやる!
この時の俺は心の底からそう思っていた!
空腹の俺にとっては待ちに待ったチャンスに他ならない!
とうとう来てしまったのだ!
そう!
これは俺にとっての……
【負けられない戦い】に他ならないんです!
彼女が何をしてくるのか分からない?
そんなことは今に始まったことではないですよ。
仕掛けられているハードルの高さが普通じゃない?
何言ってるんですか。
要は最初にゴールをすればいいんですよね?
それであれば、やつのハードルなんて全部強引になぎ倒しちまえばいんですよ。
それにですね…
男ってヤツはハードルの高さが高ければ高いほどにヤル気がみなぎって来るんです!
本気を出した俺の姿、じっくりと見ててくださいよ!
そこにはかつてないほど気合いに満ち溢れている俺の姿があった。
はい!
ヤル気!元気!本気です!
三つ目が違う!
って思った方いますか?
もちろん、オリジナリティってヤツは大切ですから!
そして、そこまで本気と言うことなんです!
大丈夫ですよ!
俺も子供ではありません、分かってて飛び込むんです!
そして飛び込んだ結果、必ず無事に生還してくると約束します!
男に二言などありません!
俺はそんな意気込みで、彼女の言葉を一切聞き漏らさないように全神経を自分の耳と彼女の口へと向けた。
そのまま自分の中にあるエネルギーと言うのを視覚と聴覚に向け彼女に備え待っていると、彼女は左手の人差し指を俺の方へ向け、
そして…
「リピートアフタミー!」
妙に唇を意識して喋る彼女の仕草に一瞬、ムラ?
嫌……
ムカッときてしまったが、そんなことには気を止めている余裕はない!
先ずは集中。
集中だ!
そして……
その瞬間、どこからともなく【バーン】何て言う効果音が聞こえ、強烈な光に包まれた感覚に襲われたような気がした。
後から考えると、あの時の俺のハイテンションさは異常だったかもしれない。
卑怯な魔王のことだ。
恐らくは瞬間催眠でも仕掛けていたのかもしれない!
よし、自分の言ったことを繰り返せと言うことだな!
上等!上等!
オラー!バッチ来いやー!!
絶対にモノにしてやるぞ!
コラァー!
どんな罠でもかかってこいやぁ~!
毒を食らわば皿までじゃ~!
と思う俺と……
また同時に、お前手始めとは言え、先ほどと一緒の手口と言うのは嘗めすぎてるだろと思う俺もいた。
「リピートアフタミー!」だと?
何のために先ほどスルーしたと思ってるんだ。
お前のやり方と言うものを学習するためだぞ。
先ほど見せてもらって学習をしてしまった俺に、それが通用すると思うのか?
もし仮に言葉を変えるとしてもお手本にそっていくだけだろ?
そんなの難易度なんてものは、たかが知れているぞ。
多分、子供でもできるんじゃないか?
なるほどな、口や態度では色々と見せてきてはいるが、お前の中の本心としては、俺とのヨリを是が非でも戻したくて自分を見失っていると言うことなのだろうな。
かわいいヤツめ。
俺は絶対に戻すつもりはないけどな。
そう思いながら俺は自信満々の顔で頷く。
この時、俺は自分の心に神が宿っていると信じて疑っていなかった…
「アーユーレディ~?スリー、トゥー、ワン!」
元気一杯、左手を突き上げてからの秒読み。
チアリーダーのごとく左足をあげていたが、お前アイドルにでもなったつもりなのか?
と額の熱を測りながら言ってやりたかったのだが、そんなことをすると間違いなく目の前の唐揚げ様に被害が及んでしまう。
彼にまで被害が及ぶような未曾有の大惨事は絶対に避けなければいけない!
だが、そうは言っても今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた俺だけに今の彼女がどれ程上機嫌なのかは手に取るように分かる。
だからここは、そんなお前の心というのを逆手にとってやるよ!
どうやら心は躍っているのかもしれないがな、その傲慢さを逆手にとって目にものを見せてやるぞ!
見ていろ魔王よ!
目にもの見せてくれるわ!
とは言っても、俺の考えが彼女に読まれるのは避けたい。
ここはいたって冷静を装いながら俺は手でオーケーと答えるだけにしといた。
我ながらクールな対応に惚れ惚れしてしまう。
「アーイ……ニードゥ~♪」
ん?彼女の言葉が先ほどと一緒だ。
先ほどは言葉を変えるかも何てことを考えては見たが、どうやらそれは杞憂にすぎなかったらしい……
恐らく魔王の方で問題と言うのは複数用意されているのだろう。
そして、これは最初の一問で所謂サービス問題と言うやつなのだろう?
魔王!
恐れるに足らず!
先ずは最初の一つ目、無事に救出させてもらおう!
「アーイ、ニード」
俺は、こんなの余裕とばかりにニヒルな笑いと共に彼女に続く。
どうせ次に続く言葉はケーキなのだろう?
分かっているんだよ!
直後彼女の口から放たれた即死魔法……
「ユー!」
「ユー…?」
ん?
えっ?
I need you.だと?
えっ?ちょっと待て、おい!
この瞬間、俺は彼女にはめられたとハッキリ認識した。
逆手にとってやるなんて言っていたのは誰だ?
俺だ……
子供でもできる?
……俺は子供以下ですね……
勿論はめられたのにはすぐに気づいたので、すかさず俺は彼女に待ったをかけるべく右手をつき出すのだが……
彼女は卑怯にも唐揚げ様を人質……
いや、
ん?
あれか……
様々なプロの目によりって……
それは、
ややっこしいので、ここは人質としよう。
家賃12万ほどのマンションに唐揚げを人質として立てこもる魔王。
もしも、俺がやり直しを申し立てれば、冷酷非道な彼女のことだ。
恐らくは、一思いにパクッとやっちゃうのが目に見えている!
そうはさせん!
そうはさせんぞ!
その唐揚げ様は俺の手により救出させてもらおう。
お前は正直欲求の限りを尽くした後なのだろう、それであれば俺にもよこせ!
何てことを考えていると、多分俺の考えは彼女にも通じたのだろう。
「はーい。良くできましたぁ~。正解でぇーす!」
と言いながら彼女は俺の目の前に笑顔で唐揚げ様を差し向けてくるんですよ。
一瞬、あれ?
嘘だろ?
あの魔王がそんなに優しいのか?
あまりにも拍子抜け……
何てことを考えたのですけどね、考えるよりも俺の行動と言うのは早くなっていまして、気がつくと彼女の箸ごと唐揚げ様をパクッといっちゃってました。
一体どれ程の旅を経て俺は唐揚げ様と出会うことができたのでしょう!
恐らく……
OH!
えーっ…
そうですね~
多分……
三千里位?
いや……
多分、そんなものでは済まないと思います。
そんな涙なくしては語れない俺と唐揚げ様の感動のヒストリーの最中。
それを快く思わない者が約一名存在していたのだ。
もちろん……
そう!
そいつの名は
長きに渡って多くの者を恐怖のどん底に陥れてきたアンゴルモアの魔王のことである。
そしてこれはあの大予言者の予言書にも記されているとか、いないとか……
何度も何度も手段を問わない卑怯な手段を使うことにより、これまで数えきれないほどの回数、多くの民を苦しめてきた彼女。
正直、唐揚げ様とのあまりの感動の再会に俺は彼女のことなど忘れてしまいました。
ですが、そんな魔王は俺に安息の日々というのをもたらしてくれるわけがありません。
ここでも魔王は俺を貶めるために様々な手段を行ってきます。
と言うことは勿論、頭の中では分かってはいるんですけどね。
分かっちゃいるけど、やめられないんですよねぇ~
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