第24話○お願い!一口でも…
「えっ…?ケーキ?」
ケーキを見た後、俺は彼女が発した言葉が信じられなくて彼女に聞き返した。
「そう!ケーキ!」
俺の言葉の後、彼女は嬉しそうに頷いて言葉を返す。
彼女のそんな仕草に俺は、一瞬『ほんと?ヤッター!食べ物だ!』と無邪気な喜びを露にしそうにもなったのだが直ぐに思い直す。
彼女は目の前の料理ではなく【ケーキ】を食えと言っている。
空きっ腹のこの俺に……
おいおい、お前ふざけんなよ!
と思いながら再び彼女が指していたケーキに目を向けると……
『はい!カモン!準備オッケーでぇ~す!バッチこーい!』と言っていた。
おまけにどこかのプロレスラーが提唱したとか言う構えを全面に押し出しながら俺を見ている。
おい、お前!
そんな強そうな姿で構えられたら逆に食えねーじゃねーかと思ったのだが…
違う!
そう言うことではない!
俺が食いたいのはケーキじゃないんだ!
……
魔王よ。
お前は、一体いつ生まれたどこの王妃様なんだ?
年齢は24?
それは絶対にないだろう……
360年ほどサバよんでいないか?
だってそうだろう!
「パンがなきゃ ケーキを食べれば いいじゃない」だと?
国民は必死の思いで税を払っているのを尻目に、そんなことは我関せずとばかりに自分の道を行きたいって言うことなんだろ!
よくもまー、目の前で困っている人を尻目にそんなことが言えるよな……
最初に言い寄ってきたのはお前からだと言うのに……
だから魔王とか言われるんだよ……
そんなことばっか言ってると本当に処刑されちまうぞ!
ん?
お前、これじゃー処刑宣言をくらわしてやろうと思った俺が、見事にカウンターで処刑宣言をくらってんじゃねーかよ。
それに、あの言葉は本人が言ってないらしいじゃないか……
そりゃそーだろ、国民にそんな言葉を叩き込む王妃様なんているわけないよな……
普通は言わないよ……
普通はね……
だけど魔王よ。
お前は違う、お前の場合は今、俺に言ってるんだぞ。
もしかしてあれか?『言うだけならタダだしぃ~』何て事を軽く考えてねーか?
だとしたら、それは違うぞ!
魔王よ!
言葉と言うのは時として、どんな鋭い刃物よりも強い武器として他人を傷つけることもあるんだ!
俺は、そんな気持ちで……
あくまでも気持ちでね。
彼女を見ると……
彼女は軽くゲップしてたよ……
そして、そのまま鼻の穴を広げながら左手にパンをもって、あろうことか俺の方に向けてくる始末……
そう……
「ホレ、食え!」
「ヨシ、食え!」
「ヤレ、食え!」
何て言葉を言いながらですよ。
明らかに挑発しているのはみえみえですよね……
そして、そんな彼女の行動なんてもちろん俺も挑発だって言うことには気づいていますよ!
気づいていますけどね……
彼女のその動作につられてしまう自分がいるんです……
彼女が動かすパンの動きに合わせて俺の顔の動きも、それに連動するように動いちゃうんです。
そして、その度に大爆笑の彼女。
俺もこれじゃーいけないと思って、一応は抵抗してみるんですけど……
やっぱ、空腹には勝てないんですよね。
全くこちらの事などは一切、気にも止めないと言うような残虐な行い。
目の前の魔王の行動には、やることなすこと全てに人としての体温を感じることができない……
それも彼氏?
元彼氏?
じゃなかったのか……?
確かにこの格差社会と言われる中で、俺も今まで色々と言われながら社会の荒波と言うものを経験してきたつもりだ。
つもりだけどな、ハッキリ言って今のお前ほどに激しい勢いというのを俺は見たことないぞ。
誰がどう見たって今のこの場面で必要としている食事はケーキじゃないだろ?
そのことは俺の目の前にいるお前が一番分かっていることではないのか?
あっ……、でも。
そうか……お前は分かっててやっているんだよな。
お前は俺に未練はないのか……?
俺は、お前(の料理)に未練があるぞ!
第一、ケーキワンホールなんて、そんな食えるか?
食えねーだろ!
俺にとってケーキワンホールなんて、大食い大会レベルの量だっつーの!
ケーキなんて1ピースあればじゅうぶんだっての……
それ以上は、多分口の中が甘くなってうけつけないんだよ……
そして、そのまま無理して食べているとどうなると思う?
多分、食べられる側のケーキさんの立場としてもいい気はしないと思うんだ。
途中から嫌な顔でケーキさんを食べている俺を見て、彼らはきっとストライキ起こすと思うんだよね……
そうなったらお前……
どうするんだ……?
胃や口、いたるところケーキさんがストライキを起こして、俺の中で暴れまわって俺がそれを上手く取り成せると思ってんのか?
リース料金の回収とは訳が違うんだぞ…
たった一人で団体交渉に立ち向かわなければいけない気持ちっていうのをお前はわかるのか?分からないだろ?
仕入れ先には円安の関係から仕入れ品の値段アップを匂わされ、出荷先からはさりげないプレッシャーをかけられる毎日。
『俺の仕事のモチベは、お前たち従業員の笑顔だよ』何て思っていた矢先に、組合から給料アップの交渉を要求される。
『確か半年くらい前に交渉しなかった?』何て言う忠告も無視。
『無理なら分かっていますね?』とばかりに見せるプレッシャー。
家に帰れば帰ったで、娘からは『お帰り』の一言もない。
嫁からはもう少し『仕事と家族どちらが大切なの?』と愚痴られる。
嫁には俺だって『家族が大切だから仕事を頑張るんだろ!』なんて強く言うが、もちろんそんなことは受け入れられず、いつしか家庭環境は冷めきっていくんだ……
そんなストレスに毎日さらされることで、俺の髪の毛はみんなキャリアアップをしたいと言い出し集団退職を希望するんだ。
もちろん俺も『急にそんなことをされると困るから』と引き留めるのだが、彼らはそんな俺の事情など関係なしとばかりに次々と俺の元から去っていく。
ふと気がつくと、自分の頭がバーコードのようにハゲあがっていることに気づき、狼狽してしまうがその時には後の祭り。
いつしか全てを受け入れた俺は、コーヒーを買いによったコンビニのレジで店員さんがコーヒーのバーコードと俺の頭を間違えて、俺の頭にバーコードリーダーを当てると言う現象をも受け入れていくんだよ。
だってしょうがないじゃないか、俺の頭にバーコードリーダーを当てるとコーヒー102円と表示されるんだから、そりゃー違和感なくお金を払ってコーヒーを鞄にいれてコンビニから普通に出て行くに決まっているじゃないか……
そんな逃げ場のなくなった環境というのを真奈美、お前は経験したことがあるのか!
もちろん、俺もそんな状況経験したことなどないんだけどね……
でも多分だけど、お前と一緒になったら今の俺の想像が……
いや、やめよう!
あまりにもリアルで不吉な想像はしないようにしよう!
だけど、そうは言っても腹が減っている!
お願いだ真奈美……
一口だけでいいから俺に料理を……
何でもいい少しでも口に入れることができれば、だいぶ違うと思うんだ。
そう思いながら、俺は彼女の方に再び目を向けるのだが……
彼女は、そんな俺に知ってか知らずか我関せずとばかりにサラダにマヨネーズをかけていた。
「そのマヨネーズは最初から冷蔵庫にあったものだろうが……」
そんな俺の必死の訴えなど自分には届いていないとばかりに彼女は美味しそうにサラダを食べていく。
「どうしたの?ケーキ食べないの?」
サラダを美味しそうに頬張りながら彼女は俺に訪ねてくる。
その微妙にニヤニヤしながら聞いてくる感じがね……
どうしよーもないほどに……
俺は、文句を言いながらも彼女の光景が羨ましくて目を離せなくなっていた。
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