第16話◎抜けた先に見えなかったもの

 エレベーターを抜けると駐車場であった。


 あれ?

 なんで?

 俺は、この時かなりの違和感を感じていた……


 と言うのも、エレベーターの中で当然のごとく魔王と二人きりになった俺だが、特に会話もなかったせいで列車に乗っているかのごとくエレベータの時間が長く感じたわけではない。

 かといって俺の出身が雪の降る地方と言う事も関係していないはずだ。


 しいていえば何故、駐車場に来たのかと言う違和感と言えばいいのだろうか……


 俺と魔王は今日、居酒屋に来た。

 今日は飲まなかったが、いつもなら俺も当然のごとく酒は飲む。

 その事は彼女も知っているので、いつも俺が居酒屋に来るときにはマンションに車を置いてくる。

 だからいつもは地下一階の駐車場ではなく、一階の入り口を出てそのままタクシーと言う流れのはずなのだが……


「なー、なんで駐車場なんだ?」

「えっ?今日車じゃないの?」

「今日車じゃって……、いつも置いてきてるの知ってるだろ?」

「いつもは知ってるけど……でも今日はいつもじゃないし……」

「ん?いつもじゃない?どいうこと?」

「だって……最初からお酒飲まない気なら別に車でもってぇ……まっ…、まぁ~…、いいよ。車じゃないなら…ね。一階に戻ってタクシーだね。今日金曜だし時期もね…すぐ来てくれるかなぁ~」


 なんだろう……

 俺が車で来ていないと知った時の彼女の顔なのだが……

 それが、そんなに意外なのか?

 と言うほどの表情を彼女は露にしていた。


 俺は彼女の予想外の表情に、どういった表情をすれば良いのか分からず、思わず顔をのぞき込んでみたところ、彼女は照れ臭そうに俺から視線をそらす。


 一瞬、ドキッとしてしまった感じはするが、すぐに俺は彼女の臭そう繋がりから、自分が気絶した時に彼女が散々飲んだお酒を連想させ、自分だけ酒臭いのが照れ臭いのだろうと名推理を働かせた。


「年末、忘年会シーズンだし時間が早いとは言っても時間かかるかもしれないね。もしかしたら俺の部屋に戻って車で向かった方が早いかもね」

「だよね……ん~……」

「何考えてるの?」

「いや、全く信ちゃんの考えてる通りなんだろうなと…」


 彼女が小さく、そして細かく首を振り何か考えながら俺に答えてくれる。

 正直、こういった仕草は可愛らしく思うのだが……


 そんなことで負けるわけにはいかない。


 今日と言う日を冷静に考えた場合。

 別れ話をしようとした俺、そして相手となる彼女の状態をここで考える。

 彼女は俺の知らぬ間に酒というガソリンをチャージしている。

 どのくらいの力を蓄えている?

 恐らく競技面も技術面も違反などは関係ないというスタンスを見せている彼女だけに、積んでいるエンジンも相当なものなのだろう。

 それこそ俺のような一般人であれば「詰んでますね!」

 と笑うしかないほどに……

 

 と言うことはだ……

 エネルギーフルチャージの悪魔のエンジン。

 それを遺憾なく発揮するつもりで、彼女は俺を自分の巣へと呼び込もうとしたのだろうか?

 おいおい、そんなことは勘弁してください!

 耐えられるわけはないだろう!

 俺は常人なんだぞ!


 まさに寸前と言ったところで、俺は彼女の策略に気づくことができたわけなのだが……


 気づいたらその瞬間に頭を回転させて対策を打たねばならない。

 今日と言う日、俺は散々そのことを思い知らされたのだが…… 


 さて困った……


 時は第三次世界大戦が起きようとしているパラレルワールドなどではない。

 しいて言うなれば、大惨事世界大戦とも言うべき真奈美の恐怖から逃れようとしている俺の心。


 それならば「逃げ出せば良いじゃん!」と言う声が聞こえてくるのかもしれないが……


 俺には天から与えられた使命と言うものが存在する。

 その使命と言うのが、悪の組織が保管していると言うデータを奪還。

 そして速やかに削除と言うものだ。

 これが成されない内に俺は安心して過ごすことはできない。

 それも出来るのであれば、早い段階で!


 そう考えると、彼女との第二ラウンドというものを考えなければいけないのだが……

 今は年末の忘年会シーズンの金曜日。

 本来ならば、こんな日にプライベートの食事会で第二ラウンドを考える方が、問題なのかもしれないが……

 そんなことで諦めては世界の平和は訪れない。


 世のため人のために第二ラウンドの場所を考えなければいけないのだが……


 考えれば考えるほど、俺は自分の中で黒い闇が大きくなっていくのが分かった。

 

 と言うのも……

 考えれば考えるほどにハッキリすることは、移動手段がないと言うことだ。


 年末の忘年会シーズンの金曜日、タクシー呼んでも来ないだろうと言うのは想像できる。

 それは呼ぼうとする人が多いからで、それは勿論一晩中続くことだろうし夜が更ければ更けるほどにその状況と言うものは深刻になっていくことだろう。

 

 今から仮に二人で俺の部屋に戻ってから彼女の部屋に向かう場合。

 ある程度の時間が経過しているはずなんだ…

 マンションまで歩いて、二泊の着替えなどを準備して二人で車に乗り込み悪の組織の拠点に乗り込んでいく。

 早くて30分?

 もしかすると途中で何かあった場合、1時間?2時間はかかるかもしれない。


 そうなった時に、悪の組織の拠点へと向かえるほど道路の状況と言うのは……?

 

 もしかして……

 いや……

 きっと無理なのではないか……


 この周辺の……

 空いているところ?

 多分……ないだろう。

 

 と言うことはだ……

 俺は彼女を自分の部屋に迎えねばならなくなる……


 ん~……

 仮に今日別れ話をするつもりです。

 そんな女を自分の部屋に泊めました。

 大人しくしますか?


 だって見たでしょう!

 居酒屋での彼女。

 あれはまさしく悪の首領と言わねばならないほどに凄まじい所業と言うのものを行っていたのですよ。


 何人の男を「イーーーー!」と言わせたんですか?

 ……

 あれ?

 俺一人ですね?

 はい、すいません……


 とにもかくにも!


 そんな状態の彼女が俺の部屋に来た場合。


 何らかの形で爪痕というのを残していくのではないか?

 爪痕?

 もしかするとそんなものなど生ぬるいと言えるほどの何か。


 例えば……

 そう……

 携帯用核爆弾とか?


 はぁー?

 そんなんあんの?

 あるわけないでしょー!


 「ボタン一つで無差別に何人も!」とかそんなん手頃な装置……


 あー…、あった…。


 そう何人もどころじゃないね100人単位?ともすると1000人単位に対して何かをすると言うことも考えられますね……


 彼女なら……


 あれだろう……

 その内の僅か数%の人間が、興味半分と言う暴力を片手にリプライとか言う凶器に身を委ね見えないほど高い位置から俺を見下すのだろう……

 そしてそういった奴らは決まってこう言うんだ。

「俺らがやったことなんて、全体の数%だろ?そんなのは、たまたま蹴った石が当たるような確率でしかないんだよ。運が悪かったね、5963」

 とね……

 

 いいかい!

 数%というのは侮ってはいけないよ!

 カードやキャッシングの金利と言うものを考えてみなさい。

 これらは月に換算すると1%かそこらだろう?

 その僅か1%かそこらで多くの企業が利益を出しているのだよ!

 だから、その数%の人が【人の記憶が永遠かどうか】を【人の恥で】チャレンジすると言うことは、絶対にやってはいけないんだよ!

 

 だからそう!

 俺は、全力で声を精一杯振り絞って言ってやりたい!


「無差別攻撃だけは絶対に何があってもヤメロ!」


 と同時に……

 もちろん……


 もしかして俺が車で来ていれば……

 何事もなくとは言えないが、少なくとも第二ラウンドが俺の部屋なんていうことは考える必要なんて無かったのだろうなぁ……

 ということを思い俺は横の彼女を見たのだが……


 やはり彼女も同じようなことを思っていたのだろうか。


 「フハハ!主も詰めが甘いのぅ!我は残り二回ほど変身を残していると言うのに!」とでも言い出しそうな表情で俺を見上げていた。


 とは言っても、居酒屋なんだから車という考えは……

 いつもの習慣なんだから仕方がないだろう…… 

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