第17話◎第二ラウンド前哨戦?
「ちょっと寄って行って良い?」
彼女はそう言いながらコンビニを指差してきた。
どうやら彼女の中では本日、俺の部屋に一泊すると言うことは決定事項らしい。
確かに先程の前哨戦の結果では、第二ラウンドの会場は俺の部屋に決まったのだが……
「あーっ、別に良いけど…何買うんだ?」
俺は一応今日、忌々しい過去をたちきるべく彼女を呼び出した。
御祓の対象にするべき期間と言うのは、そこそこの期間がある。
当然、彼女が俺の部屋に泊まりに来たのもこれまでに何度かあったので、それこそ着替えなど最低限のものはあるから、コンビニに寄る必要はないのだが……
「んー?色々とあるよぉ~」
何て事を可愛らしく言ってくるのだが……
「あー、まー。別に良いけど……」
いまいち彼女の狙いが掴めない俺は、若干ではあるが歯切れ悪い感じで返事をしていたと思う。
そして二人でコンビニに入ると彼女は、おもむろにではあるが最初にコンビニのカゴをとる。
「カゴ?えっ…そんな、買うものあるのか?」
俺は店内に店員を含めではあるが何人か人がいたのだが、思わず大きな声を出してしまった。
その瞬間、手の空いている感じの者が軒並み此方を向く。
そして…
そんな絶好のチャンスを魔王が逃すはずなどなかった!!!
「もー、信ちゃんってばぁ~。そんな大きい声出さないでぇ~!いくら見せつけたいからってぇ~」
何て事を言ってくるのだ!
俺は一瞬、自分の耳が可笑しくなったのかと錯覚してしまった……
だが、そこは数々の武勇伝を持つ俺、瞬時の早さで立ち直る!
そして、その直後に俺は理解したのだ!
これは、魔王が仕掛けてきた場外乱闘戦なんだと言うことを!
今いるこのコンビニ。
俺の部屋までは歩いて数分と言った距離でしかない。
そんな位置にあるだけあって、俺は仕事が終わった帰りなどに毎晩のように寄っている。
休みの日で寝て過ごすときなんかは朝と晩で一日に二回訪れたりもするほどの常連だ。
当然、お店の店員さんも俺と顔馴染みの関係、毎回ではないがレジ前で二言三言会話したりもする。
そして、そんな俺の様子を彼女の方も何度かは目撃しているわけで……
恐らく、ささいな見栄のような感情?
意地のような感情?
よく分からないが、そんな事から周囲に俺と自分の関係をアピールしておきたいと言うことなのだろう。
正直、今さらそんなことをしたところで何になるの?
とは思うのだが、俺としては彼女とは手を切るつもり。
なるべく痕跡を残したくはない。
なので彼女の狙いを阻止するつもり。
と思っているとカゴの中にふと目がいったのだが……
彼女が凄い勢いで商品を入れていた……
入れているものは、カット野菜、豆腐、牛肉……
と言った食料品が中心と言うか、彼女が選んでいるのを見て思ったのだが……
コンビニにこんな商品あったのか?
俺の中でコンビニの食料品と言えば弁当やおにぎりと言ったものが中心で……
と言うよりも普段、俺は自炊などは全くしない。
なので、知らなかったのも当然と言えば当然のことなのだが……
それにしても気になる点が一つある。
それは、彼女がカゴに入れている食料の数と量だ。
今日これから俺の部屋で第二ラウンドがあるのは分かる。
そして先程までいた居酒屋。
俺はほとんど口に入れていないのはもちろんだが、あそこでのお会計を見るに彼女の方もまた多少の酒は飲んでいるようだが、食べ物はそれほど頼んでいないようだった。
そこから考えると、俺の部屋で何か料理をして食べるんだろうという予測はつく。
別にそれらに関して俺の中で異論など無い。
食料を選ぶことに関しては異論など無いのだが…
問題なのはあの量だ。
今日、一泊するということは恐らく、今日これからの一食。
そして朝起きた時の二食を彼女と共にすることになるとは思う。
両方が俺と彼女の二人。
そこから考えると明らかに多い。
男と女の二食でキャベツ二玉なんているか?
大根一本なんているか?
浅漬けでも漬けて余った分は自由にお食べ!
なんて事をしてくれるのか?
いや、ナナの月に来ると言われた恐怖の大魔王がそんな優しさを見せてくれるわけがない。
そう思った瞬間、彼女が前哨戦で俺にやった悪魔の所業がよみがえってきた!
あの、思わず俺がたこ焼きに対して一生トラウマを背負いそうになったほどの大事件が!
そう考えると……
明らかに何も考えていない感じで食材を選んでいるように思えたのだが……
あれもヤツの作戦か……?
時空や言語も超越したコミュニケーション能力を持つと言われた俺!
そんなの持って、どうすんだ?
なんて事も思うのだが…
とにかく、そんな新しい人類と言われた俺だからこそ、この時閃いたのだろう!
もしかして……
アイツ……
俺の家に二泊するつもりなのか……?
俺がそう思った瞬間、彼女は俺の方を見てニヤっと笑い再び前を向く!
あの笑い……
間違いない!
ヤツは俺の家を乗っ取るつもりだ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
そう思った俺は、全力でヤツの狙いを阻止するべく彼女に再び近寄った。
「なー、真奈美。お前、ちょっと食料多すぎないか?」
ここはコンビニ、いきなりの威嚇行為はいただけない!
先ずは相手の出方を見るべく優しく自然に俺は彼女に声をかける。
「えっ?月曜のお弁当も考えると少ないと思うよ!」
………
コンビニにいたはずの俺だが……
あれ?
ここはどこだ?
知らない場所。
暗くじめじめした場所で目の前に川が流れていて、ちょうど反対側で誰かが俺に対して、こっちに来いとばかりに手を振っていた…
あれは誰だ?
見覚えがある?
確か…
3年前に亡くなったお婆ちゃん?
ってことは三途の川かい!
全てを悟った俺は次の瞬間、後先など関係ない。
思いっきりパワーを放出して地獄から元いたコンビニに舞い戻ってきた!
だが、そこは現実……
地獄から無事に生還できたとしても、目の前には下卑た笑みを浮かべる魔王がやっぱりいた。
「いやいやいや、真奈美。泊まるの今日だけでしょ?」
もう恥も外聞も俺には関係ない。
手心なんてものを見せると、目の前のエイリアンはどこまでも食らい付いてくる。
そう思った俺は、彼女に精一杯の抵抗をすることにしたのだが……
彼女はそんな俺の言葉などどこ吹く風という雰囲気でチラッと一別した後、正反対を見ると急ぎ目に俺から離れていく。
おいおい。無視は止めろよ!
「なー、真奈美。聞こえてるだろ?」
そう言いながら俺は彼女の右肩を掴むが、彼女はピクリともこっちを向こうとしない。
それどころか、俺の手をはねのけようと俺と一切視線を合わせないで右手を振り上げてくる始末。
正直、これほど自分勝手に行動されると俺もどうしたものかと考えたのだが……
「もー、別にお金は自分で払うから良いでしょ!」
なんて事を彼女は強く言ってきた。
正直、この言葉を聞いて俺は一瞬、怒ってるの?なんて事も思ったりして彼女にかける言葉というのが分からなくなってしまったのだが…
彼女の方は違った。
強く言ってきたのは考えた末の行動だったのだ!
強く俺に言ってきた後、たたみ掛けるように更なる言葉を投げつけてきた!
「ねー、信ちゃん!今日、サックさんはどうしたらいいのぉ~?」
コンビニで、まるで恥ずかしがる様子もなく声高々に宣言する彼女!
両足を揃えて真っ直ぐ立ち右手を斜め45度に綺麗に真っ直ぐあげる。
その姿は運動式の開会式で行う選手宣誓のようだ!
周囲にどれだけ人がいても関係なし!
いや、印象づけることを第一に考える彼女にとって、周囲に見ず知らずでも人がいるということは、彼女のモチべアップに繋がるということなのかもしれない。
そして彼女のこの言葉を皮切りに俺は、この世のものとは思えないほどの恥ずかしさを経験することになる。
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