第12話◎迫り来る恐怖
「あー……、うん……そうだね……」
絶対に片道しか販売していない地獄ツアーと言うものが現実にあるとするならば、絶対にこれのことだと俺は確信を得ながら、彼女の自分の家へ行こうと言う提案に賛成したのだが……
どうやら彼女は、そんな俺の何かが気に入らないらしい……
全く理不尽な話だ……
俺は彼女の全てが気に入らない。
そして、そんな俺の態度には完璧な演技で完璧に対処できている。
この演技が完璧であるがゆえに、俺の内心には御天道様でも気づいていないと言うのに……
彼女の質問に答えながら俺は立ち上がり、彼女の方へ顔を向けたのだが……
彼女の顔が怖い……
ん?
怖いのは今に始まったことではない気がする……
と言っても、そう言うことではない!
右こめかみに青筋が浮いているのは今日散々見たとして……
それ以外にも明らかにというか…
表情が何となくなのだが、憮然としているのだ。
多分、自分の右手以外に何か引っ掛かりと言うのを感じているのだろう…
本当なら右手を離せばスッキリするのでは?
何て事を言いたい!!
だが仮に言ってしまったとしたら……『スッキリしたいのは、お前だろ?』とか言われた後、俺はブラックホールに飲み込まれることになってしまうだろう。
一度ブラックホールに飲み込まれてしまったら最後、全てを吐き出すと言われるホワイトホールが見つかるまで俺は望みもしない所業に挑まねばならなくなる。
勿論、そんなこと俺は望んでいない。
だから下手に刺激しないように俺は遠く離れた場所から彼女の様子を観察しようと思ったのだが……
「おい、何だ?その返事はぁ~!嫌なら別にいいんだよ!別にこっちは一切強制しねーからな!帰りたいなら帰れよ!ほら帰れ!」
何てことだ……
核実験の影響により生まれて来たと言われる、あの伝説の怪獣マナゴンと俺は遭遇してしまった!
もう少し、後ほんの少しで自国の援軍と合流できるところまで来ていたのに何てことだ!
予想遭遇地点というのは排他的経済水域よりも外だったはず。
だから俺はここならばと言うことで様子をうかがっていたのだが……
とは言っても今は遭遇して間もない。
まだ取り返しはつくはずだ!
「えっ……、どうした?真奈美。別に嫌とかじゃないぞ。そんな事一言も言ってないだろ?」
「嫌じゃない?嘘つくなよ!アンタのその様子、喋り方や態度、全てにあらわれてんだよ!こっちもそんなアンタと一緒に居ても嬉しくねぇーっつーの!」
嘘だろ?
お前、もう演技をする気力も無いというのか?
俺を見ろ!
彼女の問いに対しては、ちょっと反応に困り、どもってしまって、顔がひくつき目線がそれ、汗が出て、手足が微妙に震え、スマホで時間を確認した程度。
こんな完璧な演技、バレるはずがない。
「ヤるか……」
盛大な舌打ちの後、彼女は鋭い眼光と一緒に一言だけ吐いた……
先程とは明らかな違いを見せる彼女のその雰囲気に俺は焦りを覚える。
えっ?
何?
もしかして……
本当にバレたのか?
何故、俺が嫌々だと言うのが分かったんだ?
俺の演技は完璧だったはず……
あの程度の綻びでは絶対に誰にもバレないはずだったのに……
「嫌だなぁ~、そんなほんと信じてくれよ!俺が真奈美を嫌う理由なんてなぁ……(今となってはありすぎて答えきれないんだから)」
それでも俺は限界ギリギリまで攻める
だが、それでいて彼女には決してバレないように細心の注意をはらうのも忘れない!
「ふーん、まーだ、そんなこと言ってるんだ…これなら謝って仕切り直しとかの方がまだマシだとは思うんだけどな……」
謝る?
彼女は何を言ってるんだ?
俺が、そんな背を向けるようなことをできると思うのか?
良いか、真奈美よ!
よく聞け!
『人の瞳が前についているのは、後退と言うものを望んでいないからなのだよ!』と彼女にはそんな言葉を叩きつけてやりたかった。
だが、そうまで完璧な理屈を叩きつけられてしまったら…
彼女は間違いなく、とんでもない暴挙と言うものを行ってくるはず。
いや、もしかしたらこの怪獣のことだ!
手続きなんて吹っ飛ばしてやると考えるのかもしれない!
もしそうなら、どうする?
恐らく、怪獣は自身の通称スマホと呼ばれる異次元空間から放射能を凌ぐほどの強烈な広範囲攻撃と言うものを仕掛けてくるに違いない。
あの威力はハッキリ言って洒落にならないものだ。
とんでもない感染力なのは勿論のこと、症状も実に多岐にわたる。
あの感染を受けることで、あるものは俺を笑い、軽蔑するかもしれない。
もしくはザマアミロなどと影ながら大爆笑をする者もいることだろう。
ここまでは正直良い。
鋼のメンタルをもってすれば何とか耐えることはできるだろう!
だが、人によっては真偽を確かめずに俺におめでとうと言う言葉を投げ掛けてくるのかもしれない。
そう……
真偽を確かめず……
この言葉が最大限に問題なのだ!
この言葉が示す方向いかんでは後戻りが不可能になってしまう!
目の前にいる俺の方としては、当然そんな鬼畜所業など見過ごすわけにはいかない。
当然対策をとろうとは考えるのだが……
怪獣の性格を考えるとターゲットを俺だけに決めると言うことは考えにくいだけに…
自分一人がターゲットというのであれば、何とか怪獣の攻撃にも耐えられるのであろうが…
一般人にも間違いなく向けてくる。
その事は宇宙の心理と言われるほどに確実だ。
恐らくその時には俺が持っているワクチンと言うのは意味などなさないだろう。
俺が次、また次と対処する間、怪獣の攻撃による二次被害と言うのも増えていく。
そしてそのスピードは明らかに俺の対処できる時間を越えることになる。
と言うことは……
その暴挙を防ぐために、ある程度ではあるが彼女用の逃げ道を用意してあげて話すと言うことも優しさなのではないだろうか?
そう!
先ずはソフトタッチに責める必要があるのだろう。
いきなり大振りの右からではない!
先ずは基本の左からだ!
細かく左!左!
先ずは基本。
細かく細かく、大振りは絶対にいけない。
世界を目指すなら細かい左を疎かにしてはいけないのだ!
「大丈夫だよ」
余計な言葉はいらない。
そう考えた俺は、先ずは彼女の方を軽く叩きながら反応をうかがったのだが……
顔も勿論、笑顔。
ほら!お前が望んでいたのは、こう言った俺の笑顔なのだろう?
と言わんばかりに、俺は満面の笑みを彼女に送った!
作り方は簡単!
自分の彼女への憎悪をそっくりそのまま正反対にすればいいだけの話なのだから、全くもって問題ないのだ。
100回やれと言われたら、100回できる自信がある!
それなら最初からやれよと言う声が聞こえてきそうだが……
それは……
うん……
やはりプライドもね……
持っていたいのだ(願望)……
「うん、信ちゃんありがとう!信じるね!」
俺は彼女のこの言葉を聞いた瞬間、正直自分の勝ちを確信した。
彼女は、それほどの表情をしている。
俺の計算された一言に彼女は魅了されたのだろうと、そしてそのまま彼女は俺の言うなりに落ちていくはずだと思ったのだが……
彼女の次の言葉と行動に俺は戦慄と言うのを覚えてしまうことになる。
「じゃー、信ちゃん。ここ出る前に、おやちゅ~ね」
そう一言言ったかと思うと、彼女は自分の左手で俺の右手をとる。
そして、そのまま俺を見上げるような形に自分の顔を合わせた後に……
目を瞑りやがったんだ!!!!!!
正直、ふざけんな!
とは思った俺だが、今の状況を冷静に見ると神の右手はいつでも臨戦態勢OK!
そして彼女の左手は、俺の行動を制御するべく俺の右手をしっかりとロックしている。
もはや、彼女の左手は悪魔の左手と化しているようである。
そんな状況で彼女は最後に『信じるね!』と言って目を瞑りやがった……
でも考えてみると信じると言う言葉は普通、俺と彼女の間で生まれる感情のはず。
だが今のこの状況、神の右手と悪魔の左手を発動させている現状。
それは信じるとは言わないだろう!
脅迫と言うのだ!
本来であれば、目を瞑っている彼女の顎を俺の右手で掴み上げ2時間ほどの説教をかました後。
無防備となっている彼女の体へと、俺は大きな踏み込みを入れながらの左のボディブローから右ストレートへと見事なコンビネーションを決めてやるべきと言うのは自分でも分かっている。
分かってはいるのだが……
彼女は、先にそうはさせじと先手をうっているのだ。
そして彼女は己の勝ちと言うのを確信している。
絶対に……
と言うのも彼女は先程から目を瞑ってはいるのだが若干、目や口の端などが小刻みに動いていた。
恐らくなのだが、自分の勝ちと言うのを信じて疑っていないのだろう。
隠しきれないほどに自身での喜びと言うのが溢れている状況と言うのは黙っていても感じることができる。
最早どうしようも出来ない絶体絶命の危機的状況なのだが……
事態と言うのは、それだけに収まらなかった。
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