第5話 文化祭①

 なんやかんやで文化祭当日を迎えた。各クラス毎に出し物がしてあり、定番ではあるがメイド喫茶やお化け屋敷が散見された。校庭では屋台も乱立している。

 尚、本作はギャグ小説で且つ短編である為、そして気まぐれで書かれた為、時間の進むスピードについては考慮されていない。

 文化祭のライブ演奏は学校の体育館で行われる予定で、館内では既に準備が調えられていた。軽いサウンドチェックを行った俺たちは、楽器を楽屋に仕舞い込むと三人で椅子に座って休息を取った。


「ユイルド、間に合って良かったよ」


「ボクもそう思うよぉ」


 相変わらず間抜けな口調だが、元気そうで良かった。クルマから落ちてバキバキになった時、陸に上がった水棲生物みたいな動きをしていたから流石にヤバイと思ったけど、安心した。これなら本番もなんとかなりそうだ。ギターも練習し続けていたみたいだし。


「でも病院は出禁になっちゃったよぉ」


「いいんだ、ユイルド君。ケガしないようにすればいいんだよ」


 他愛の無い会話を続けていると、ホール内にアナウンスが流れてくる。


『次の演目は、バンドの生演奏です。開演まで、暫くお待ちください――』


 どうやら出番が回ってきたようだ。俺は楽屋を出るとステージに回り込んでみた。緞帳どんちょうが下がっており、客席からこちらは見えない。幕の袖からそっと客席を眺めてみれば、結構な数の人達が溢れていた。

 タイナカイネンは見に来ていない、か。そうだよな……。


「アキヤマイアン君、行くよ!」


 ムーデスに促されて、俺はベースのストラップを肩からかける。シールドよし、ピックよし。シールドをアンプに挿し込み、電源を入れた。

 俺は他のメンバーの様子を見てみた。ユイルドは相変わらず腑抜けた様子だ。シールドもストラップの周りを一回転させていないから、足で踏んで引っこ抜けるかもしれない。

 ムーデスは、必要なのか分からないがキーボードにワイヤレスを二つ挿し込み、ステレオで無線を飛ばしていた。しかも無駄にでかい筐体が一人で運べず、何人かに手伝わせているのが何だか腹立たしかった。今も、重量に見合っていないキーボードスタンドがゆらゆらと揺れ、本番中倒れそうである。

 一抹の不安を抱えた俺だったが、眼前の幕が上がっていくのに気付き、気持ちを切り替えた。


 間もなく幕が上がりきり、客席から拍手が起こった。照明が一斉にステージを照りつけ、顔が熱い。大勢の生徒がひしめき合い、期待の眼差しを向けていた。

 俺たちは軽くお辞儀をする。そしてユイルドがマイクスタンドからマイクを取った。


「放課後TEA PARTYです。よろしくぅ」


 再度拍手が起き、ユイルドがマイクをスタンドに戻す。そして一言「聞いてください。一曲目、ヘ〇トクルーデスロール」という言葉を皮切りに演奏が始まろうとした瞬間、暗かった客席に一条の光が射した。体育館の扉が開いたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれぇ!!」


 そこには一人の男の姿があった。男は大きな声で怒鳴ると、ステージ目掛けて走り始める。手にはドラムスティックを握り締めた――タイナカイネンだった。


「タ、タイナカイネン!?」


 思わず俺は声を上げてしまった。タイナカイネンは脇目もふらずに館内を駆け抜けると、ステージ袖にある階段を上ってこちらまでやってきた。


「オレ、やっぱ……ドラム叩くよ!」


「……タイナカイネン……!」


 息を切らしながら言葉を紡ぐタイナカイネン。事情を知っている生徒が何人居たかは知らないが、客席からはどよめきが漏れていた。傍から見れば、いや……俺にとっても感動の再会だった。目頭が熱くなる。照明のせいだろうか。顔の火照りも感じる。だが、そんな事は瑣末な問題だった。問題なのは――


「タイナカイネン……」


「あ、あぁ!」


「ドラムセット、用意してないよ……」


「え?」


 そう、ドラムセットを用意していなかった。

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