第4話 色々あった

 ……それから数ヶ月。紆余曲折あった。練習に練習を重ね、夏休み中も部室を借りて必死に曲を合わせた。

 途中、クルマの上に乗って遊んでいたユイルドが落下して全身を複雑骨折したり、タイナカイネンが方向性の違いで脱退した。

 結果「ラウドパークは無理じゃね?」となり、諦めた。

 うん……だって、そうじゃん。ドラムは居ねーし、ギターは骨折してんだもの。

 ムーデスだけは「諦めるなよ!」とか言ってやけに食い下がってきたが、アイツは熱血だからな……。プログレの聞き過ぎで頭がおかしくなったんだ、きっと。

 しかし俺は違う。俺は現実主義なんだ。全く、バンドやってる奴なんて、どうかしてるぜ!

 そんな訳で、ラウドパーク出場は素直に諦め、十月に行われる文化祭のステージで演奏するのが目標だったのだが、現在のメンバーはベースの俺、そしてキーボードのムーデス。二人のみだ。ギターボーカルのユイルドは病院で療養中。はっきり言って詰んでいる。

 唐突ではあるが目下、文化祭の前日なんだよね。実を言うと、出演はキャンセルしていない。と言うのも、ユイルドの退院日が開催日と一緒だったから。「アイツは必ず来ます! だからキャンセルは待ってください!」と教師に涙ながらに訴えかけた所、応じてくれた。

 アイツならきっと病室でギターを掻き鳴らして練習している筈だ。それに最悪、ユイルドが間に合わないならムーデスと二人で漫才でもすりゃあいいだろう。文化祭なんてそんなもんだ。

 タイナカイネンに関しては……脱退してから一度も会っていない。でも大丈夫だ。<同期音源>といって、生演奏に合わせて別の音声を流す方法がある。

 つまりあらかじめ録音しておいたドラムの音をスピーカーから流せば、俺たちはそれを聞きながら演奏できる算段なのだ。

 アイツと一緒に本当はやりたかったけど、仕方ないよな……。


「アキヤマイアン君……明日は大丈夫かな」


「それを心配しても未来は変わんないからなぁ」


「そうだね。でも――」


「それに駄目だったら二人で漫才やればいいし」


「え!? 初耳だけど!?」


 やれる事は全てやった。後は本番を待つのみだ。努力したらきっと、報われる。毎日八時間は練習したし、クラス会に呼ばれなくなるほど教則DVDを見漁った。それに文化祭というこのステージに成功すれば、もしかしたらラウドパークへの光明が見えてくるかもしれないしね。

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