第3話 ラウパ
暫くすると普通に意識が戻った。モッシュにダイヴした所までは覚えてるんだが、そこからの記憶がない。
確か、近所のスーパーに買い出しに行った所、偶然行われていたタイムセールでババァ達に心と体を蹂躙され、ボロボロになりながらそのまま部活へ向かったんだっけ。
……え、全然モッシュじゃない? いや、あれはモッシュだったね。まるで餓えた獣ように、目を血走らせたババァ共が争い合っていた。
ちなみにモッシュってのはロックフェスとかコンサートで、密集した状態の観客達が体を激しくぶつけ合う事を指す。誰が始めたのか分からないが……イベントによっては危険なので禁止されている事もある。
俺には世界のあらゆるものがヘヴィメタルに見えてくる。
例えばさっき買出しに行った時。すれ違ったハゲはきっとハイトーンボーカルだし、コンビニで立ち読みしてた冴えない長髪のおっさんは実は凄腕ギタリストだし、昼間から公園でビール飲んでるあの髭モジャはメタラーかもしれない。
実際は順番にただのハゲ、リーマン、ホームレスだと思うが。俺は物事をメタル的な目線でよく見ている。
先ほど部活中に倒れてしまったが、どうやら貧血だったようである。保健室で見てもらい、その後すぐに部活へ復帰できた。
「で、ピックは?」
「え?」
「ピック買いに楽器屋まで行ったんだろ?」
そう聞かれて、一瞬思考が停止する。尋ねたタイナカイネンは残念そうに溜め息を吐いた。そう、ピックを買ってくるのを忘れていたのだ。
バンドマンは貧乏な奴が多い。俺もそうなんだが、貧乏ゆえ特売とか安売りとかの文字に弱い。それに、今月は金銭的に余裕が無かったから食費を切り詰めてたんだけど、そうしたらいつの間にかスーパーへと入店していたらしい。楽器屋に行く予定だったのに、だ。
勿論ピックも買ってないし、指弾きは練習してないのでピックが無いと弾けない。さてこの状況、どうしたものか。
いや、待てよ……。これ、使えるんじゃないか?
「アキヤマイアン君、それは……! <バッグ・クロージャー>!?」
「ムーデス、お前よく知ってんな!」
そう、確かにピックは忘れた。だけどこれならある。――食パンだ。タイムセールで買った食パン。そしてこの、食パンの袋をとめるアレ! プラスチックの留め具! これを使えばきっとイケる!
「じゃあ練習再開すっか!」
「目指すはラウドパークだね!」
「いや、だから指ケガしてんだって!」
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