第11話・探検は危険がいっぱい


森に入って数時間がたった。レーダーを見ながらの行動なので、それほどの危険性は感じない。その間にスライムを4匹ほど狩ってDELSONに貯め込んだ。


「スライムゼリー 119.7」

「スライムコア 5」


たぶん、ゼリーの単位は「リットル」だな。


そんな事を確認しつつ、歩き疲れたし小腹も減ってきたので適当な木の根元に腰掛けて簡単な昼食にした。

携帯食をモソモソと食べ、水分補給もする。

正直言ってこの携帯食はそんなに美味しくはない。腹が膨れてある程度の栄養が取れれば良いって感じの物だ。

村長さんとこの飯が恋しくてしょうがない。

いくら耐久試験とは言え、この飯はかなりキツいわ。あと2日も我慢しないといけないとは……。この携帯食は改善するべきだと思うな~。


さて、安全マージンを広く取っているとは言え、森の中の探検だ。危険が無い訳じゃない。スライムだって油断をすれば危険だ。

「森の掃除屋」の異名を持つスライムだが、餌となる動物の遺骸や排泄物が少なくなる秋の終わり頃から冬場には生きている動物を襲う事もある。

襲い方は木の上などの高所から落ちてきて、敵の頭部を包み込み窒息させるという方法。


今の時期(春の終わり)だと、そういう襲い方をするスライムは、ほとんど無い言え絶対じゃないので、油断できない。


それにこの時期の森は、他にも動物や魔獣の繁殖期も近いから、そいつらにも気を付けないといけない。縄張り争いで気が立ってるヤツも多いからね。


レーダーの反応に気を付けて、さらに森の奥に進んで行くと、群れでこちらに向かってくる反応が出た。


向かってくる方向に目を凝らすと、何やら叫び声を上げながら猿みたいな奴らが木を伝って来る。

こいつらは、「ゴブリンモンキー」と言われる猿の魔獣だ。

体長70~80cm程度で見た目は毛の無い猿、余程の事がない限り人は襲わないが、たまに引掻いたり噛みついてきたり魔法を放ったりする事があるので要注意だ。

収穫時期になると村の畑を荒らしにくるので、村では討伐対象になっている。


ゴブリンモンキーたちは何かに追われているようで、俺のことを無視して威嚇するように吠えている。

レーダーで注意しながら、その原因がいる方に向かって行ってみる事にした。


樹木の影に身を隠しつつ慎重に向かって行くと、そいつが見えた。

そいつは角の生えたイノシシだった。ヘイゼル爺さんの話に出てきた「電撃猪ライトニングボア」っていう魔獣だ。


かなりデカい、体長は5mってところだろうか。体中の毛を逆立てて威嚇の声を上げている。

かなり興奮していて、角からは電気がショートしているみたいにバリバリと火花が散っている。


電撃猪ライトニングボアは縄張り意識が強く気性が荒い。しかも魔獣特有の魔法を使う。電撃猪ライトニングボアはその名の通り雷系の魔法、ゴブリンモンキーは風系の魔法だ。

一発触発の状況だ。下手をすると魔法の撃ち合いが始まる。


「好奇心は猫をも殺す」とはよく言ったもので、かなりヤバい所に来ちゃったな~。

ここはバレない内に逃げ出すのが賢い選択だね。

そう考えて、ソロリソロリと後退すると。


パキっ……


足下で折れる小枝。その音に気が付いたのか、こちらを睨み付ける電撃猪ライトニングボアとゴブリンモンキーたち。流れる冷や汗……。


こんな所でテンプレがキター!!!


きびすを返して一気に走る。必死に走る俺を追いかけてくる電撃猪ライトニングボア。なぜか知らんがそれに加わるゴブリンモンキーたち。


「だぁ~!!っざけんなよ!!こっち来るんじゃねぇよ!!」


なんて叫んだところで通じる相手でもなく、挙げ句の果ては魔法まで撃ち出しやがった。

ゴブリンモンキーの風魔法は体格が小さいせいか威力は弱い、だけど「かまいたち」みたいな魔法なので当たれば怪我をするし、電撃猪ライトニングボアの雷魔法に至っては言わずもがなで、当たればただでは済まない。


俺は右に左にと蛇行を繰り返し、必死に魔法を回避していく。

そんな必死な状況の中。


ピロンと気の抜けたアラーム音と共にメッセージが表示された。


「魔法 エアカッター 威力 弱 4」

「魔法 ライトニングボルト 威力 中 2」


???……ん?なんじゃい、このメッセージ!?

この大変な時に訳わからんぞ!!

なにをふざけているんだ!!こっちは必死に逃げ回っているっていうのに!!


そんな悪態をついている間もメッセージ内の数字は少しずつだが、増えていっている。


「魔法 エアカッター 威力 弱 8」

「魔法 ライトニングボルト 威力 中 3」


へ?もしかして、DELSONが魔法を吸ってる?

必死になっていて気がつかなかったが、俺はDELSONのトリガーを握り締めていたようだ。

それでDELSONが吸引範囲に入ってきた魔法を適当に吸い込んでいたらしい。

おぉ~、さすがDELSON!高性能だ!

と、感心していても状況は変わらない。


ひたすら逃げ回って、魔法を吸い込み、吸い込んだ魔法を眼暗滅法に撃ち返す。

その内の何発かの魔法がゴブリンモンキーに命中したらしく、徐々に猿共が俺を追うの止め始めた。

だが、電撃猪ライトニングボアは追うのを止めてくれない。

何度目かの、イノシシの突撃をかわしたあと、俺は体力の限界を感じて最後の対決をする事に決めた。


「……はぁ……はぁ……勘弁しろってぇ~の……こっちは……まともに……運動すらした事ない日本人やぞ……」


息も絶え絶えに毒づくも、電撃猪ライトニングボアは足で地面をガリガリしながら突撃の機会を伺っているようだ。

そのうちにイノシシ野郎の角が青白く輝き出した。


ヤバい?!突撃かと思ってたら魔法攻撃かよ!


俺はDELSONを構えて覚悟を決める。


「勝負じゃ!!来いや!イノシシ野郎!!」


正直、こんな勝負はやりたくない。土下座して許してくれるなら、額から血が出るくらいの土下座だって出来ない事もない。

しかし、そんな事をしても許してくれそうもないし、ヤツは土下座の文化すら知らないだろう。

もうこうなったら、一か八かの勝負しか道は残されていない。もう、やるしかないのだ。


電撃猪ライトニングボアが一気に雷の魔法を放つ。俺は横に飛ぶように避けながら、魔法を吸い取る。

次の瞬間、俺がさっきまでいた場所を電撃猪ライトニングボアが駆け抜けた。

やっぱり、そうきたか!ヤツは雷に撃たれ動けなくなった敵を突撃して撃退する。

ヘイゼル爺さんの言った通りだ。


俺はすぐさまDELSONをヤツ向け小石の弾丸を連射した。

狙いなんてつけるヒマなんてない。転がりながらの連射だ。一発でも当たればこっちのもの、怯んだ隙に逃げるなり反撃するなりできれば良い。


「どうだ?!」


俺は突撃を急停止した電撃猪ライトニングボアを睨み付けた。

強者の余裕だろうか?ゆっくりと振り返り睨み返してくる電撃猪ライトニングボア


「ちぃっ!はずしたか……」


舌打ちしようが毒づこうが、はずれたものは仕方ない。

次は確実に仕留めなければ、ゲームオーバーだ。


俺はDELSONを構え直して、電撃猪ライトニングボアと対峙する。

永遠とも感じられる緊張の一瞬が流れていく。


次の瞬間、電撃猪ライトニングボアはプツリと糸の切れた操り人形のように唐突に倒れ込んだ。


「???!」


へ?どうした?何が起こった?

混乱する頭で恐る恐る電撃猪ライトニングボアに近づいていく。

落ちている小枝でツツいてみたり、つま先でツツいてみたけど電撃猪ライトニングボアは動かない。

どうやら、死んでいるようだ。


「た……助かった……」


俺はヘナヘナと腰が抜けて座り込んだ。

ラッキーなことに、さっきの乱射がヤツの急所に当たったらしい。一生分の運を使い果たしたって感じだ。


「今日は働き過ぎだよ……」


今日はこれで終わりにしょう、さっさと森を出てシェルターの場所に戻ってのんびりしょう。

明日も何もしないで良いでしょ?今日、死にそうになるほど働いたんだからさ。

そう自分に言い訳して、電撃猪ライトニングボアをDELSONに収納してから、さっさと森をあとにするのだった。


森って怖い!

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