第10話・スライムの狩り方


う~……眠い……。


夜明け前に目が覚めた。

初の野宿で眠れなかったわけじゃない。

ちゃんと獣対策もしたし、寒さ対策の焚き火も万全だった。

ただ万全じゃなかったのは、寝床。地面に直寝。

これがいけなかった。地面は冷たいわ、体はイタイわでほとんど眠れなかった。

この世界には「寝袋」なんて気の利いたモノなんてない。

毛布はあるけど、今回の手荷物の中には入ってなかった。

だから地ベタに葉っぱを敷き詰めたんだけど、あまり効果はなかった。


寝不足の上に体中がイタイ。体調ボロボロだけど、やることはやらないと……。

まずは顔を洗って目を覚まして、携帯食料で栄養補給と水分補給。

最後に軽いストレッチで完了。


そして焚き火の始末をしてから、行動開始だ。

いきなり森に突入するのは、ちょっと怖いので森には行かず、少し離れたところにある草原に行ってみた。

臆病者と笑わば笑え。いくらレーダーがあるとはいえ怖いモノは怖いのだ。

それに、とある両肩にキャノン砲のあるロボットの操縦者が「臆病なくらいが、ちょうどイイのよねぇ」なんて有り難いことをおっしゃっていた。


さて、草原に着いたのでレーダーで獲物を確認する。ウサギかどうかはわからないけど数匹の動物がいるらしい。


「検索機能」とかあると楽そうだなぁ。あとで、レーダーを改良しよう。


そんな事を考えながら、少しずつ場所を移動しつつウサギを探す。

いた!そこそこデカいから簡単に見つかった。


ここでちょっと、こっちの世界の「ウサギ」について説明しよう。

元いた世界の「ウサギ」とは少々の違いがあるんでね。


まずは、大きさ。こっちの「ウサギ」はデカい。体長50cmくらいが普通の大きさらしい。

そして、特徴的な耳だが長くない。丸く大きな耳をしている。

で、ジャンプしない。走るのが得意らしくやたらと早く走る。

もう見た目は「ウサギ」というよりは、小さい鹿って感じだが、こっちの世界ではこいつを「ウサギ」と言っている。


いっそのこと、角とかキバとかついて人でも襲うくらい凶暴ならファンタジー感があると思うんだが、そんなことはなく、いたって臆病な動物だ。

ただ、ファンタジー感溢れるのは「色」。

白、黒、茶色は普通として、グレー、緑色とくる。しかもここで迷彩柄が絡んでくるからファンタジーだ。

どういう進化の仕方かわからんが、生き残るためには迷彩色があってもイイんじゃねって感じ。


で、今目の前にいるウサギは緑の迷彩色。平和な顔して草を食んでいる。

つぶらな瞳でちょっと可愛いなんて思ったら負けだ。

こいつは、これから狩る獲物なんだから。


ん~?……かわいい……かな?


迷彩柄の生き物が可愛いか?まぁつぶらな瞳ってことでハードルが少々上がったかもしれないが、しかし、狩らないという選択肢はない。


何せウサギはこの世界での貴重なタンパク源、村長さんとこで食った肉料理はほぼウサギだった。

他者の命を喰らって己を生かすのは、どっちの世界でも真理なんだし、ここは心を「鬼」にせねばなるまい。


……南無三……。


ポツリと呟いて、木の矢を射出。狙いたがわずウサギに命中した。

死への痙攣をしているウサギをそのままにしておくのは不憫だ。

楽にしてやるために、素早く心臓にナイフを突き立てる。

これは血抜きも兼ねている。


ん~……さすがにメンタルにくるなぁ……


しかし、これも生きるためだ。

無駄なく美味しく食ってやるからな。

ちょっと震える手で軽く拝んでから、DELSONに収納した。


思ってた以上に簡単にウサギは狩れた。とどめを刺す時の感触はかなり精神面にキツいけど、これはこの世界で生きていく為には慣れていくしかない。


初めての狩りで緊張していたのか、カラカラになった喉に水を流し込みながら、そう気持ちを切り替えた。


それからしばらく休んで、移動を開始した。


次の狙いは「スライム」だ。

スライムはどこにでもいる魔獣だ。ただ、湿気を好む性質があるので草原より森に多く分布している。


動きはひどく鈍いが、身体が柔らかいゼリー状なので物理攻撃には強い。

このゼリー状の物質がいろいろと役立つので、村でも定期的に狩っている。


狩り方にはいくつかの方法があるけど、一番簡単なのは「核(コア)」を破壊する事。コアが破壊されたり取り除かれたりすると、スライムが死にゼリー状の身体が溶け出す。そこを素早く容器で掬い取るってのが正攻法らしい。


正直、非常に面倒くさい討伐方法だ。もっと楽な方法でもないもんかね。

などとダラダラと物思いにふけって歩くこと十数分、シェルターがある場所に戻ってきた。


ここでちょっとレーダー機能のバージョンアップをする事にしよう。

レーダーのレシピを開いて、ある機能を紐付けする。その機能とは「鑑定機能」だ。

この機能は基本的にストレージ内に保存してある物を鑑定する機能だが、レーダーに紐付けすれば、検索機能として使えるのでは?と思ったからだ。


機能を紐付けして、「レーダーVer.1.01」として登録、そして起動。

見た目は変わっていない。失敗したかな?なんて思いつつ。


「検索、スライム」


すると、レーダー上の光点に「吹き出し」付いてスライムが表示された。

やった!!大成功!!レーダーがさらに便利になって良かった。


ウサギ狩りと同じ要領で、レーダーを頼りにスライムに近づいていく。

すぐにスライムが見つかった。狩りの苦労の半分は獲物探しだとヘイゼル爺さんは言っていた。このレーダーさえあれば、狩りは随分と楽になるだろう。


さて、問題のスライムだけど、大きさは30㎝程度と小さめだ。

大きなものになると1mくらいには成長するらしい。

ゼリー状の身体の中に緑色をした楕円形の石がフヨフヨと浮いている。あれが「核(コア)」だ。

このコアの正体は魔石なんだそうだ。魔力を通すと治癒の魔法が発動するらしいのだが、スライムを倒すのにコアを破壊するから、なかなか手に入らないレアものという事だ。

稀に、寿命で死んだスライムから採取できるくらいなんだとか。


では、狩っていきましょう。さすがはRPGの初心者向けモンスター。気持ち的にウサギよりハードルが低い。あっさり狩れそうだ。


今回は昨日、制作した「迫撃砲弾型」の小石で狙ってみよう。速度はちょっと速めの秒速1000mで撃ってみる事にした。

スライムまでの距離は30m程、必中の距離だ。

コアを狙って一撃必殺!!

パ~ンって感じでコアもスライムも弾け飛んだ。


あちゃ~……これじゃ、ゼリー回収どころの話じゃない。

弾丸の威力が強すぎたんだな。うむ。失敗失敗。もう一度挑戦してみよう。

スライムには悪いけど、無駄な殺生をやらかしておいて心がちっとも痛まない。

こんなところでモンスターの有り難味がわかる。

やっぱりスライムは最強の初心者向けのモンスターだわ。


ってことで、スライム狩り第二弾。今度の獲物はさっきより大きめ。

矢じり付きの木の矢で狙ってみた。狙い違わず、コアに命中。


今回はうまくいった~。


なんてホッとしてたら、みるみるうちにスライムが崩れ始めた。

焦ってゼリー回収をしようとするが、こんな時に限って回収用の容器が見つからない。

肩掛けカバンの中をガサガサとかき回して、やっと容器が出てきた時には、もう遅かった。スライムゼリーの大半は溶けて土と混ざっている。これじゃ使えない。


また失敗した~。うまくゼリーを回収する方法を考えんとイカンな。

こうなんか……吸い取る感じ?で回収を……。

あ!そうか!!掃除機があるじゃん!!

よし!!上手くいくかわからんが試してみよう。


三匹目のスライムを探すこと数分。

居ました!!今回のスライムも30cm級。

ゆっくりと近づいて、ゼリー状の身体にブスっとDELSONのパイプを刺す。

すかさず、吸引開始!ここで注意すべき事はコアまで吸い込まない事、コアを一緒に吸い込むとスライム単体を吸い込んだとDELSONが判断して、ダストケースから吐き出されるからね。


焦らずに吸い取っていこう。ズコココって感じの吸い込み音はいただけないが、それは我慢するしかない。

そして、ゼリーを吸い切った後、コロンとスライムのコアが転がっていた。


よし!!上手くいった!


うれしい。ガッツポーズが自然に出る。

そして一応、確認しておこう。


「スライムゼリー 14」


ん~?相変わらず単位がわからんが、まぁいっか。ついでにスライムの核も回収。


「スライムコア 1」


あとは、スライムゼリーを保管用の壺に入れてと……

なんか、野球場でビールを売っているお姉ちゃんみたいなカッコになってるが、それは気にしないでおこう。


よし!これでヘイゼル爺さんの出した試験もクリアできた。

まだ試験第一日目の午前中。俺ってばかなり優秀なんじゃないの。


残り時間は単なる暇つぶしだ。少々怖いけど森に探検に行ってみる事にしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る