第3話・サバイバルは無しの方向で


「おまえさん、初めて見る顔じゃの?」


これから、お魚さんとの死闘を開始しょうかという時に突然、声を掛けられた。

まったく気がつかなかったが後ろを振り向くと、そこには小柄な婆さんがいた。

優しそうな笑顔が印象的な婆さんだった。


「あ…ども…はじめましてぇ~」


異世界で言葉が通じたのには少々驚いたが、どうにか愛想笑いはできた。


「おまえさん、こんな所で何してる?」


そりゃ、河原で掃除機を振り回していれば疑問も持つだろう。どうにか上手く誤魔化さないとな。


「え~とですね……、俺は旅をしている者でして、そろそろここら辺りで野宿でもしようかと思っていたところなんですよ」

「こんな所で野宿か?そら難儀じゃろ。すぐ近くにアタシの住む村があるから、そこに寄ると良いじゃろ。」


お!ラッキーなことに村の近くに居たようだ。だがしかしこちらには少々問題がある。


「そうですか……ありがたい話なんですが、ちょっとした事情がありまして俺は今無一文なんですよ……」

「なんだ?金の心配か?そんなもの気にせんでエエよ。小さな村じゃからの、金なんぞ無くても大丈夫だ。」


これはさらにラッキーな事じゃないのか?サバイバルしなくても済みそうだし。

まぁ、疑わしいところはあるけれど、そんな事は気にしていても仕方がない。

その時はDELSONで対処すれば良いんだしね。ここはお言葉に甘えてみよう。


「じゃ、お言葉に甘えてお世話になっちゃおうかな。あ!俺、ユウキって言います。よろしくです。」

「そうか。たいしたもてなしもできんがの。それがエエじゃろ。アタシはミイシャ、アサイ村のミイシャっちゅうもんじゃ。よろしくな。」


そういうとミイシャ婆さんは「こっちじゃ」と村までの道案内をしてくれた。

案外おしゃれな名前の婆さんだね。見てくれは全然ミイシャ感ないけど……。


ミイシャ婆さんの後について河原を離れ、森の小道を5分も歩くと畑が見えてきた。

こんな近くに村があったのねぇ……。


「ここがアサイ村じゃよ。」


そこかしこに家が見える。人口40~50人の村って感じかな。

ミイシャ婆さんとゆっくり歩いて田舎道を歩いていると、畑から声を掛けられた。


「ミイシャ婆さん!後ろの若いのはなんだ?いい歳してナンパでもしたか?」

「何言ってんだい。バート!旅人さんが困ってたから、連れて来たんだよ!!」

「がははは!そうかそうか。新しい旦那にでもするのかと思ったよ」

「冗談ばかり言ってないで、ちゃんと仕事をおし。また嫁さんにどやされるよ」

「そりゃぁ、おっかねぇなぁ~、がははは!」


そんな感じで、ミイシャ婆さんは村のみんなから慕われているようで、あちらこちらから声を掛けられた。

そのほとんどが、俺がミイシャ婆さんの旦那さん候補になるって言われた。

う~ん、さすがに旦那さん候補にされるのは勘弁して欲しい。

あいにくと守備範囲はそう広くないもんでね……。


ミイシャ婆さんの家は村の中ほどにあった。他の家より大きめな造りをしていて、なんか小綺麗だ。

もしかして、村のお偉いさんかな?


「今、帰ったよ」


ミイシャ婆さんの後について家に入ると、そこには大柄なおっさんが書類を片手に何やら作業していた。


「お帰り、母さん。……で、そちらはどなたかな?」

「旅人さんじゃよ。河原で困ってたもんだから、拾ってきた」


人を捨て犬みたいに言うのはいかがなものかな?


「はじめまして、ユウキと言います。お世話になります」

「こちらこそ、村長のパレオだ。ま、人助けは母さんの趣味みたいなものだからな、くつろいでくれ」


なんと、ミイシャ婆さんは村長さんの母親かい!なんか怖いくらいラッキーが続くな。

ここはお世話になるついでに、ダメモトで相談してみるかな。

なんて厚かましく考えていると、お茶の用意をしながらミイシャ婆さんが質問してきた。


「おまえさん、なんぞ目的があって旅をしているのかの?それとも冒険者かなにかか?」

「いや、冒険者ではないんですが、街にでも行って何か仕事でもあればと思って旅に出てきた次第でして……」


「冒険者」か!良い響きだね。異世界ものの定番ではあるがヘタレの俺に冒険者が務まるかは、やや疑問だけど……。


「ユウキ君は何か手に職とかはあるのかな?あれば街での仕事も探しやすいんだが」


すると、パレオ村長が仕事の手を止めて聞いてきた。

親子揃って世話好きらしい。


「いや、別に何ができるって訳でもないんですがね。背中に背負ってるコイツが役に立たないかな?なんて考えてるんですよ」


そう言って、俺はDELSON掃除機について軽く説明した。


「便利な道具もあるもんだねぇ」と、ミイシャさんがしきりに関心していたが、村長が思いついたように言ってきた。


「なら、冒険者になると良い。低レベルの仕事ならそう危険な事はないし、村の連中も農閑期には出稼ぎで冒険者をやってるヤツらもいるからな」


案外簡単に冒険者になれるらしい。仕事も安全とは言わないまでも、危険度の低いものを選べば死ぬ事はまずない。

それに贅沢はできないが、食うには困らない程度の稼ぎにはなるらしい。

それに冒険者なら、行動に自由が効きそうだ。元の世界に戻るためのヒント探しにも都合が良いだろう。

ならば、即行動開始だ。すぐにでも街に向かわなくては、と立ち上がると……。


「何をそんなに慌てとる。もう日が落ちる。それに街に行くにも時間も金もいるんじゃぞ。しばらくこの村に落ち着いて路銀の一つも貯めてから動きなさいな」


ミイシャ婆さんの言う通りでした。今の俺ってば、無一文だったのよねぇ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る