キーウエスト、旅の終わり
目抜き通り、デュバルストリートを歩くときに至っては、もう汗をかき始めていました。半袖短パンでも感じる暑さ。気持ちが良いですね。日差しを受けていると何故かくしゃみが沢山出ます。……どうしてだろう。
南から北に向かう途中、一ブロック先に国道1号線の終わりの標識があるので、それをちゃっと写真に収めたあと、ヘミングウェイが通ったというSloppy Joe's Barへ――。
僕はカウンターに座って早速、Frozen "Local Rum" Rum Runnerを頼みました。ラム、キイチゴのブランデー、バナナリキュール、フルーツの果汁を加えた真っ赤なカクテル。Frozenの名の通り、飲み物というよりシャーベットです。その上には冷凍サクランボが乗っています。
なんだこれ。
めちゃくちゃ美味しい。
お酒とは思えない飲みやすさです。シャーベット状の氷が美味しく、飲み過ぎるあまり二~三回頭がキーンとなりました。一人でなると耐えるしかないので、辛かったです。
大きな木のプロペラが飾られてある濃い茶色の木のカウンターで雰囲気を楽しみながら早々に飲んでしまいました。これは真夏の海の家とかで売り出したら売れるんじゃないかな。そんなことを考えます。僕だったらこれがあれば女の子に奢りまくります。もちろん、下心しかありません。知らぬ間に女の子のガードが甘くなり、手でも繋げれば儲けものですね。それ以上は望みません。
運転まで時間があるとはいえ、もう一杯飲むのは流石に憚られたので、チェックを貰って店を出ました。家の近くにFrozen Rum Runner置いている店が欲しい。そう思えるほど気に入りました。
心なしか足取りが軽くなった僕が次に向かうのは、キーライムパイのお店「Kermit's Key West Key Lime Shoppe」。このデザートはキーライム、果汁、卵黄、コンデンスミルクをパイクラストに入れて作るお菓子です。
僕はアメリカに来るまでキーライムパイの存在すら知りませんでしたが、大抵のステーキハウスは置いてあるので、当初から気にせずに食べていました。
でも、その名の通りこのデザートのオリジナルはフロリダキーズにあります。
キーライムパイのお店はたくさんあり、その中でも味が全然異なるらしいのですが、今回はおススメ頂いたお店に向かいます。旅人ですから。
先ほどのバーから北に向かうとすぐに発見、目と鼻の先にありました。可愛らしい小さな青いお店ではショーケースにパイが並べられています。お年を召した女性の店員さんが笑顔で迎えてくれました。
「こんにちは。試食はいかが?」
買うつもりでしたが、もちろん頂きます。
「あなたはここに観光で来たの? それとも船員さん?」
思わぬ質問に驚きましたが、ついに海の男と思われるようになったかと、内心にやりと笑ったのは内緒です。
一つパイを買って、店の裏側の椅子に座って賞味します。
程よい大きさのパイは、オーソドックスなパイ生地に薄黄色のフィリングが詰められ、クリームが絞られています。
一口食べると柑橘系のキーライムの淡い酸っぱさが広がり、甘味を残してするりと溶けていきます。おいしい。
いつもステーキを食べてお腹いっぱいになった後に、誰かが頼んだものをつまむ位でしたが、お腹が減った状態で本場のものを食べると美味しいですね。
よく行くステーキハウスのものより小ぶりで、フィリングがとても軽いです。より酸味がふわっと口に広がる気がしました。
ぺろりと食べ終えると、僕は海岸沿いの公園で海を見ながらお昼ご飯のレストランを探し始めます。
もうあとは、お昼を食べて、要塞を見て帰るだけ。
最後のお昼ご飯は食べたかったものを食べよう。そう思って調べます。ご当地の海鮮料理でも、メキシカンでも良かったのですが、僕はまだ典型的な南部料理を食べていない。
ということで、名物であるコンク貝には目もくれず、僕はYelpで見つけた店に足を向けます。
着いたのは「Firefly Key West」というテラスを持つ二階建てのレストラン。落ち着いた良い雰囲気で、お昼時ですが、満席でもなく一人にはもってこい。評価が高いのに、意外でした。ラッキーだったのかもしれません。
そして、僕は「Chicken & Waffles」を頼むのです。
そうです、南部料理の典型。チキンとワッフル。
出てきたのはまさに想像通りの料理。ワッフルの上に大きなフライドキチンが乗っており、たっぷりとハチミツがかかり、白い粉砂糖でデコレーションされていました。
「これこれ!!」
と思いながら、かぶりつくとこれも想像通りの味でした。
旅の終わりも自分に甘く。
すべてが甘い旅は、甘さとサクサクのチキンで締めました。満足です。
腹ごなし程度に南北戦争時に築かれたという要塞を見学して、近くの海岸をぷらぷら散歩して、僕の全ての目的は達成されました。
空港までは4時間、そろそろ良い頃です。
僕は路駐した車に乗り込み、マイアミ国際空港レンタカー返却口を目的地に設定し、エンジンを掛けました。
……それにしても、今日の朝から歩きだしたらくしゃみと鼻水が止まらない。
これは、もしや……。
そう。僕は最後の最後で失態を犯してしまったのです。
”猫アレルギー”
僕は涙目になりながら、夏に合う曲をかけて、再び橋の上を走っていきます。
次に来るときは、ヘミングウェイの家は最後に行こう。
そんなことを思った、2020年の三が日でした。
何の問題も無くレンタカーを返却し、空港でチェックインをして飛行機を待つ。飛行機も遅れるどころか20分早く運航していました。最後の最後まで上手く回った旅でした。
くしゃみと鼻水は止まりませんでしたが、猫は可愛かったので、痛み分けです。
真っ暗な空に飛ぶ機体。
華やかな高層ビルが立ち並ぶ界隈を眼下に見下ろし、やがて光は小さくなっていきました。
そして、ついに僕は短い旅を終えたのです。
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