六日目 フロリダ北部 オーランド、タンパにはアリゲーターいなかったよ

フロリダの朝 ネズミよりマナティだ!!


 本日の予定は朝早く起きて決めようと思っていたのに……。

 ということで華麗に二度寝を決めました。


 7時に起きた記憶もないまま、気付けばアラームが止まっていて9時でした。なぜか全くやり方の分からない今の遊戯王を教えてもらいながら、初期デッキで友達を倒しかけるという謎の夢を見ました。倒せたら嬉しいけれど、友達の必死の言動を聞いていると申し訳なくなるというジレンマに苛まれ、地味に後味の良くない夢でした。


 さて、寝坊したことでNASAに行く選択肢は消滅。強制的にもう一つの案を決行することになります。


 それは「マナティに会いに行く」というもの。


 僕が泊まっている家から北に30分ほど走ると、Blue Spring State Parkという州立公園があります。その名の通り毎日100万ガロン(380万リットル)もの水が湧き出ているという泉です。

 フロリダは湖や泉が点在してるため地図を見ると穴ぼこだらけに見えます。その中でも、この泉には冬の時期、寒さから逃れるためにマナティがやってくるというのです。


 マナティは18.8℃以下の水温では生きられないと書いてありました。そのため、海水よりも温度が高いこの泉にぷかぷか避寒しにバカンスに来るのだそうです。


 15分で支度を済ませて、外に出ると晴天ではないものの、雲の切れ間から青空が覗き、太陽に照らされると温かさを感じる陽気。天気が悪かったらNASAと考えていたのですが、幸運にも問題はなさそうです。


 何もない田舎道を軽快に走り、Blue Springに向かいます。今まで来たような観光地と異なり大きな看板等もなく、知らずに道を走っていたらこの近くでマナティが見れる清流があるなんて思いもしないでしょう。


 そして、ほどなく公園へ到着。


 入園料はなんと4ドル。国立公園が10~35ドルくらいとられることを考えるとかなり良心的ですね。規模が全然違うので当たり前と言えば当たり前ですが。規模だけを考えると国立公園が安いのか……?


 ワクワクしながら駐車場に車を止めて、川に近づきます。木で通路が組まれており、ところどころ川に突き出した展望スペースから川の様子を眺められるようになっています。


 昨夜の雨に濡れた苔むした鬱蒼とした木々。スパニッシュモスって言うのかな? ぼろきれのように木々からくしゃくしゃの植物が垂れ下がっています。まるでジュラ紀の森の中のよう。そのだらりと垂れ下がった幕の間から映るのは透き通った緑がゆらめく水面。太陽の光を反射してゆらゆらと揺らめいています。


 よくよく見てみると、水は川の底がはっきり見えるほど透明で、しばらく目を水中にぽとりと落としていると、そこに様々な生物がいるのがまじまじと見えてきました。

 細長い身体、長い顎、鋭い歯をもつフロリダガー、もしくはロングノーズガー。ティラピア、その他たくさんの魚たち。目を凝らすと稚魚でさえ、小さい身体をぴろぴろさせて群れているのが分かりました。

 

 お目当てのマナティはどこかな……。と目を凝らします。すると、それらしき影が!! しかし、大体が緑の川の底に沈んだ丸太ばかり……。人の眼は見たいものを見せますね。自分の眼のおめでたさに少し笑えてきました。

 入り口でも今日確認されたのは15頭だったらしいので、あまり多くないのかな、と考えます。


 見れたらいいなー、と考えながら場所を移動しながら川を遡上していきます。すると、人が集まっている……。


 これは! と思って川を見てみるといるじゃありませんか!!

 

 対岸の木の下でなにかずんぐりしたものがいる……。

 ひれがついている。間違いない、あれがマナティだ!


 そう思ってさっき見た場所をもう一度見ると丸太が二本なくなっています。どうやら、マナティを見つけたと思ったら丸太だった、と思ったそれがマナティだったみたいです。

 人の眼は真実をすぐに見落としますね。自分の眼のなさけなさに少し笑えてきました。


 

 わー、凄い! 野生のマナティって初めて見た!

 と、横にいる小さい子供と同じく心の中で無邪気な声を上げていました。


 少し上流では桟橋になっていて、Cautionと書かれた塀が。はっきりは分かりませんが、どうやらいつぞやの時期はこの川で普通に泳げるみたいです。自分からマナティに近づかないこと、餌をあげないこと等が書かれてありました。


 すると、そこにもマナティが優雅に泳いでいました。しかも、こちらのマナティは元気でサービス精神が旺盛。くるくると水面のしたで身を捩って回っていたと思ったら、ぐっと力を込めて潜水したり、と色々な動きを見せてくれます。


 二頭の内、一頭が川の中腹ほどに近く寄ってきました。お腹を上に向けたまますいーっと水面付近を滑っています。可愛いなー、と思いながらカメラを向けていると、不意に腹筋をするように身を立て、その頭を水上へと持ち上げたのです。


 その瞬間をたまたま激写した僕は歓喜して、おぉ! と思わず声が漏れました。動画じゃなくて良かったです。間抜けな声が入っていなくて。良い瞬間を取ることが出来ました。もちろん、インスタのトップに持ってきています。笑


 それにしても、フロリダの人はこういう風に人魚と普段から泳いでいるのだな、と生活文化の違いに驚きます。ちなみにアリゲーターに注意とも書いてありました。普段は魚や亀を食べるそうですが、鹿などの大型の動物にも食いかかるらしく、人間も同様だということです。アメリカ人もその標識を笑っていたので、やはりフロリダ特有の警告板なのでしょう。


 さて、木で組まれた通路は木々の間を縫って更に奥に続いています。僕は薄い日差しの中、木々の香りと湿気を感じながら奥へと進みます。

 それにしても、どうして木の通路ってワクワクするんでしょうね! コンクリの通路とは趣が段違い。匂いと踏んだ時の柔らかく軋む感触も相まって、冒険感を高めてくれますよね。

 

 そして、5分ほど歩いて行くと、ぽっこりと穴をあけた緑の底から次々と水が湧き出ている窪地にたどり着きました。


 数分間、僕はその泉を眺めました。


 とめどなく溢れ出る清流。さわさわとなる葉擦れの音。はらはらと落ちるカーキ色の木の葉。水面を跳ねる魚。身体を包む匂いと湿気。


 何だかとんでもないものを眺めているような。どこか自分の存在が薄く薄く透明になっていくような感覚を覚えました。


 癒されるというのはこういうことを言うのでしょうね。


 体の空気が入れ替わる感じ。

 朝からとてもすっきりした気持ちになれました。



 壮大な景色ではなかったですが、とてもいい場所です。カヤックとかシュノーケリングをしなければ、一時間もあれば十分ですしお手頃ですね。

 


 さて、僕は満足して芝生の上に置かれた木のテーブルに腰掛け、午後の目的地を入力します。向かう先は車で二時間。フロリダ半島を横断して西側。タンパという町です。そこにあるダリ美術館。


 それを目指して車を出しました。

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