クリスマス終了のお知らせ
十二月二十五日 午後一時三十分
「……なるほど。それでそんなに雪まみれなんだ?」
スズキのオフロード四駆で雪道を下りながら、
白いスキーウェアのファスナーを口元まで引き上げ、ガチガチと歯を打ち鳴らす様子は遭難者のそれだ。ニット地のベレー帽は雪の重みでペチャンコに潰れ、ウェーブがかった髪の毛からは溶けた氷が雫となって滴っている。
創介は苦笑しながらヒーターの温度を上げた。
「笑いごっちゃないデスよ。下手したら私と
「またまた〜大袈裟だなぁ、探偵サンは……初心者コースでそんなにスピードなんて出ないし、アタシの特訓のおかげで最後は止まれるようになったじゃん?」
バックミラーには得意顔の彩夢と恨めしそうに睨んでいるアリアの顔が対照的に映つていた。
「だいたい、スキーは九野さんが教えてくれるって話じゃなかったんですか?」
「ゴメンね。俺も最初はそのつもりだったんだけど、同じバイトの娘がイヴを彼氏と過ごすからって、代わりを頼まれたんだ」
〈フン、そのせいで私はクリスマスの貴重な時間を妹のスパルタ特訓で浪費させられたわけか……〉
別に、この主体性の欠如した優柔不断の朴念仁と二人きりのクリスマスなんぞコッチから願い下げだが、なんとなく面白くない。
そんなアリアのむくれ顔を見て、彩夢が意地の悪い笑みを浮かべた。
〈フフーン、兄サンと二人っきりになろうなんて、いくら探偵サンでも見過ごせないもん♪〉
〈うぁ〜殴りたい、この笑顔……!〉
いくらヒーターのつまみをいじっても一向に暖まらない後部座席の様子を見て、創介は話題を変えることにした。
「二人ともお腹減ってるだろ? せっかくだし、少し足を伸ばして
中澤峠と言えば、ホクホクの吹かし芋をドーナツ生地で包んでカラッと揚げたご当地グルメが有名だ。以前、真似て作ったものをアリアがいたく気に入っていたのを創介は覚えていた。
「ふ、フン! 傷付いたガラスの十代のハートを食べ物で釣ろうなんて実に浅はかーー」
訳知り顔で熱弁するアリアの声に可愛らしい虫の音が重なる。
「ふっふっふっ! 体は正直よのぉ!」
彩夢はもちろん、創介もカンペキすぎるタイミングに笑いを堪えられなかった。
〈いぃい゛やぁ〜あああ! どっかに犯人が居るならもういっそ、私を殺して!!〉
ベレー帽を深くかぶり頭を抱えるアリア。ちょうど車が長いトンネルにさしかかったことで、橙白色の光が真っ赤になった顔を隠してくれる。
そのまま車に揺られること数十分。アリアも立ち直りかけた頃、ようやく前方に目的地が見えてきた。
三角窓の特徴的な建物に、一面の銀世界――。
ところが、駐車場には予想よりも多くの車が止まっていた。
どの車も白と黒のツートンカラーで、鮮やかな赤色灯で雪原をライトアップしていた。
「これは間違いなく、殺人事件ですね!」
〈クリスマスは終わりだ! 浮かれ気分のパリピどもは震えて眠れ!〉
運転席と助手席の間から身を乗り出しながらアリアは駐車場に集まった警察車両と野次馬を眺める。
その先では丈の合ってないトレンチコートとサングラスを身にまとった殺人課きっての
「日野刑事! 従業員と遺族の聴取、完了しました!」
「うむ、ご苦労」
日野刑事は雪原に照り返す陽光をレイバンのサングラスで遮りながら仰々しく頷いた。
「第一発見者はこの道の駅のパートタイマーで、名前は
「またどの従業員も昨夜の十時過ぎに退勤した時には被害者の車を目撃していないと証言しています」
「つまり被害者は昨日の夜十時から今朝の八時半の間に立ち寄ったということか」
日野刑事は部下の話を聞いてそう結論付けると今度は被害者の情報について報告を求めた。
「被害者の名前は
「神宮部……? なんか聞いたことある名前だな?」
日野刑事がだいぶ袖の余ったトレンチコートの腕を組みながら首をひねると、答えは意外なことろから聞こえてきた。
「……神宮部って言ったら、確かあのお菓子メーカーの
「ああ! あの筋肉モリモリマッチョマンの俳優がブッシュドノエルを肩に担いでるCMでお馴染みの? ってことは、被害者は金持ちのボンボンですか」
「ねぇねぇ! それよりも二人とも見てよあの真っ赤なスポーツカー! めっちゃくちゃカッコ良くない!?」
ベレー帽を被った死神と愉快な仲間達が
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