第8話

 タキがマンションの鍵を開けて一歩下がると、屈強な若者たちが「失礼シャース!」「シャス!」「シャス!」と威勢よくドヤドヤとホシオを担いで室内へ入ってきた。ホシオをまるで神輿みこしのようにワッショイワッショイと担ぎながら狭い室内を一周する。

「そこのベッドに寝かせて下さ―い」

 タキが声をかけるとシャイシャイシャイという掛け声とともにベッドにホシオが横たえられた。新幹線の中でラガーマンの一団に遭遇できたのは幸運だった。有り余るエネルギーをタキのために消費したくてたまらないと筋肉をうねらせている。

「ここまでありがとうございました! じゃあ、解散!」

 というタキの宣言に対してやや不満げな嘆息たんそくが漏れる。

「ほかに仕事ありませんか? 冷蔵庫とかタンスとか動かして模様替えなんかどうスか」

「もっとお役に立ちたいス」

「この人、一階まで下ろして、も一度搬入はんにゅうしなおしましょう」

 口々に去りがたい心情を表すラガーマンに対してタキは鷹揚おうようにうなずく。

「その気持ちありがたく受け取ります。ですが今日はもう結構! また頼みにするかもしれないからその時はよろしく!」

 と両手で親指を立てると、一同素直にウェーイと返事をし、シタ! シタ! シタ! と小走りで部屋を出ていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る