第7話

 ホシオにまたがったまま、タキはフナムシの群れに命令を下す。フナムシの群れは、今度こそ遅滞なく二人をベルトコンベアのように陸地に向かって送り出した。遠目から見ると海も陸もなく波に乗って進む、美しい少女を題材にとった幻想的な絵ではあるが、近くで見るものはそのまま奇声を上げて逃げ出しただろう。

 道路脇でしばらく待つうちに、車のライトが近づき、白い軽トラックが姿を現した。タキが両手を振りながら飛び上がって合図を送ると、70歳ぐらいの老人が顔をのぞかせた。

「新大阪まで行きたいの」

 タキの言葉を聞いた老人の目は焦点を失い、間の抜けた微笑ほほえみを浮かべる。

「新大阪言うたら新幹線じゃな。倉敷から乗れるで」

「じゃあ送って頂戴ちょうだい。あと、この人荷台に積んでほしい」

「まかせ、まかせ」

 軽トラックの荷台に乗せられ、ブルーシートをかぶせられての倉敷までの2時間の間、ホシオは全く意識を取り戻す素振そぶりを見せなかった。倉敷では老人が軽トラックで新大阪まで送ると食い下がったが、タキは断った。あからさまに残念そうな表情の老人にホシオを背負わせ、改札を通すと、今度は老人と同じような表情を浮かべた駅員が老人の代わりにホシオを喜んで背負ってくれる。改札の向こう側で心配そうに見送る、まったく見ず知らずの老人に対して、タキは投げキッスを放った。すると老人は大きく手を振って涙を流しながらタキを見送るのであった。この娘はこれまでずっとこうして生きてきたのである。

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