12話ネタバレ回+航空燃料小話

 お疲れ様です。熊吉です。

 イリス=オリヴィエ戦記の12話ですが、いかがだったでしょうか。

 本話では、小説家になろう様の方で厳しい評価もいただいてしまいましたが、熊吉の作品をきちんと読んでくださった方からのお言葉であり、熊吉の作品に対して正面から向き合ってくださったものと考えております。厳しいお言葉をいただいてしまいましたが、ご期待に沿えなかったこと、改めてお詫びを申し上げます。また、熊吉の作品をきちんと読んで評価を下していただいたことに、感謝を申し上げます。


 また、熊吉のイリス=オリヴィエ戦記に新たに評価を下さった方々、ブックマーク、フォローをして下さった方々全てに、お礼を申し上げます。

 まだまだ至らぬ点の多い熊吉ではありますが、少しでも楽しんでいただけますよう、これからも努力をして参ります。

 今後とも、熊吉とイリス=オリヴィエ戦記を、よろしくお願いいたします。


 本節は、熊吉が当初予定していた12話の構成を変更したことについてのネタバレと、戦時中日本の航空燃料事情についての小話になります。

 本筋とはあまり関係のない話になりますが、興味があるという方はどうか、おつき合いいただけますと幸いです。


:12話のネタバレ


 12話ですが、この話では、当初、キャラクターの死亡を予定していました。

 その死亡予定だったキャラクターというのは、カイザーこと、フリードリヒです。


 これは、熊吉が、カイザーと、エルザというキャラクターを設定した時から決めていた役割でした。

 カイザーが本物のスパイではなく、誰かをかばっているだけだというフラグを熊吉が立てまくり、それを救おうとする主人公たちや、カイザーの意図などお見通しで捜査を続けるカミーユ少佐とモリス大尉など、「無実のカイザーをみんなして救う」という筋書きに乗せていたのは、彼の死の唐突さをより印象づけるための作戦です。


 こういった筋書きを作っていたのは、「死ななくていいはずの命が、何の脈絡もなく唐突に失われる」というのを書きたかったからです。

 そして、失われる命は、「いい奴」であるほどいい。


 そうしてでき上ったのが、カイザーという、優秀な整備士で、誠実な性格をした、帝国2世という分かり易い特徴を持ったキャラクターでした。

 熊吉が彼の生存フラグをせっせと積み上げていたのは、こういう展開を予定していて、全部強引に引っ繰り返す予定だったからです。

 ちなみに死に方ですが、「帝国の侵攻によって故郷を追われてきた人々によって結成された自警団によって、帝国人らしい特徴を持つカイザーは話し合う間もなく槍で刺されてしまう」という、偶発的な事故に近いものとなる予定でした。


 公開した方のストーリーでは、エルザは逃走の困難さから、両親を救える確実な方法を選び、銃口を自身へと向けますが、当初の予定では、理由もよく分からないまま自分のことを助けようとしてくれた、窮地の自分を救おうとしてくれた唯一の存在であるカイザーの死を聞いて、無関係であるはずの彼を死なせてしまったその罪悪感から銃口を自身へと向ける、というものでした。


 戦争が無ければ、両親を人質に取られて仲間を裏切るというスパイ行為を行う様、エルザが追いつめられることも無かったですし、職人気質で仲間のためだという理由だけで躊躇なく行動できるカイザーが死ぬようなこともありません。

 そういう理不尽さを表現しようと思い、熊吉は本話のストーリーを組み立てていました。


 熊吉が書きたいのは、単純な英雄物語ではなく、傷だらけになりながらなんとか生きて行こうとする誰かの物語です。

 その誰かにトラウマものの経験をさせ、読者様にも同様の体験をしていただき、「えー、何でそうなるの? 」と思っていただくのが、熊吉の狙いでした。


 しかし、書いている途中で、熊吉は思い直しました。

 どうにも、これじゃぁ、報われない。

 それに、読者様にカイザーの死の唐突さを印象づけることはできても、それは熊吉が意図している「どうして」にはつながらないと思えたからです。


 カイザーが無実なんてことは分かりきっているので、主人公たちは彼を救おうと行動しますが、そんな行動も何の意味もなさず、カイザーが死ぬ。

 エルザは自身をかばったカイザーが死ぬことで、そのことに一生、克服できない負い目を感じ続ける事になるでしょう(ちなみに、カイザーが死んだ場合、エルザは戦後教会に入って一生贖罪を続ける、という予定でした)。

 カイザーというのは「いい奴」として書いて来たので、そんな彼が、死ぬべき理由も無いのに死んでしまうというのは、作中に登場するキャラクターたちは誰も幸せになれない。


 しかし、彼が生きていれば、ハッピーな方向に変えることができます。

 主人公たちは優秀な整備士に支えられてこれからも戦い続ける事が出来ますし、エルザだって立ち直って前向きに生きていく事ができます。

 カイザーとエルザの間に、この事件をきっかけとした恋愛が成立してもいいでしょう。


 熊吉が本来考えていたストーリーとはだいぶ変わりますし、結果として、ありきたりな展開になってしまいましたが、こっちの方がいいんじゃないかと、12-10を書いている辺りで思い至りました。

 厳しい評価もいただいておりますので、いっその事12話自体を省いてしまった方が良かったかもしれませんが、変更を思いついたのがストーリーの後半になったことからそれはやっちゃいけないなと判断いたしました。


 以上、ネタバレという名の、熊吉からの言い訳になります。

 こんな熊吉ですが、今後も、できればより多くの方に、熊吉の作品を読んでいただけるとありがたいです。


:航空燃料小話


 今回は、日本軍が使用していた航空燃料についてと、その燃料事情が戦局にどのように影響したかについて、なるべく簡単にご紹介したいと思います。


 戦時中の日本の軍用機に使用されていた航空燃料についてですが、これには、いくつかの規格が設定され、品質管理が行われていました。

 その規格というのは、以下の様な種類があります。

・航空八七揮発油

・航空九二揮発油

・航空九一揮発油

・航空九五揮発油

・100オクタン燃料(規格名称はないっぽいです)


 以下、これらの燃料について簡単にご紹介をして、ちょっとしたミリオタ小話をご紹介します。揮発油というのはガソリンのことです。


・航空八七揮発油

 これは、オクタン価87のガソリンで、練習機など実用機以外の機種に使われていたガソリンです。

 国産の設備と技術だけでどんな種類の原油からも精製することができた様です。どんな種類の原油からも、というのは、原油と一口に言っても産地によって性質が異なるらしく、条件次第では同じ精製法を使ってもオクタン価が異なる燃料になる場合があるからです。


・航空九二揮発油

 オクタン価92のガソリンです。当時の日本で供給された燃料の主力で、実用機向けに主に供給されていました。零戦とかはこれで飛んでいました。

 ただし、日本の持っていた設備と技術では、アメリカのカリフォルニア産の原油からしか精製することができず、戦争の途中でカリフォルニア産原油の備蓄を消費しつくしてしまったため、供給困難となっていった様です。


・航空九一揮発油

 戦争中に供給されるようになった燃料です。

 91とありますが、実際にはオクタン価は92程度あり、オクタン価だけで見れば上記の航空九二揮発油とほとんど変わらなかったそうです。カリフォルニア産の原油が尽きたため他の産地の原油を用い、人工生成されたイソオクタンを混合し、さらに添加物を加えるなどして作られていました。

 オクタン価はほとんど変わらないのですが、燃料の性質が悪く、気化しにくいなどの特徴があって、エンジン不調の原因になったりもしたらしいです。


・航空九五揮発油

 オクタン価95の燃料です。

 日本では少量が生産され、1000馬力以上のエンジンなどに使用されたみたいです。しかし、あまり量が作れなかったため、一部は本土決戦用などとして温存されたりもしていた様です。


・100オクタン燃料

 これは、日本が戦時中に占領したインドネシアにあった、外国が設置した精製設備で作られた高品質燃料です。

 主に南方に展開した日本陸軍機などに供給されました。陸軍ではこの燃料を長距離進出時の燃費改善用として位置づけていたようで、ポートダーウィン空襲などの長距離進出が必要な作戦に特別に利用していたらしいです。


 戦時中の日本軍は、これらの規格の燃料で戦っていました。


 こういった規格が作られたのは、原油の産地や精製設備などによってオクタン価などの燃料の性質が大きく異なり、それによって同じエンジンでも性能が発揮できたりできなかったり、ということが起こっていたためです。

 規格ができる以前は、乗用車用のガソリンよりもオクタン価が低い低品質なガソリンが使われていたり、品質がまちまちであったりと、いろいろ問題があった様です。


 高オクタン価の燃料を使用するとエンジンの燃焼効率がそれだけでも向上するので、同じエンジンでもより高出力が発揮されました。また、高オクタン価の燃料は異常燃焼を起こしにくいため、ブースト圧(エンジンの要目などにのっているもの)をより大きくすることができ、より高性能なエンジンの開発と運用には必要不可欠な物でした。

 身近なところだと、一般的な自動車はレギュラーガソリンで十分なのに対し、スポーツタイプの自動車など、高性能なものはハイオクガソリンを必要とするのはこの辺りが原因です。(やったことが無いので分かりませんが、レギュラーで走れる車はハイオクを入れるとちょっと調子がいいかもしれません。逆に、ハイオク指定の車にレギュラーを入れるとトラブルの原因となるはずです)


 こういったことから燃料の品質の確保と向上は重要なものであり、日本軍でも規格化が行われていました。


 この燃料事情ですが、戦争末期に日本軍機の性能向上が連合軍機に対して遅れ気味だったのにも大きく影響してきます。


 例えば、日本側の高性能発動機として有名な誉ですが、その不調に日本側の燃料事情がけっこう関わって来ている様です。


 高性能発動機の完成には、それに見合った品質の、高オクタン価の燃料が必要とされていましたが、その開発と生産は難航していました。

 日本の100オクタン価燃料への取り組みについては、歴史群像という冊子の、2019年12月号(No.158)に良いまとめ記事がありますので、もし機会がありましたらご覧になっていただけますと分かり易いです。


 簡単にまとめますと、日本は戦前に、高性能発動機に必要な高オクタン価の燃料の製造法をアメリカから買おうとしていたのですが、日米関係の悪化などで製造法の購入に失敗し、国産の100オクタン燃料の開発にも失敗してしまいます。


 誉は日本側の2000馬力級発動機として、陸軍、海軍に供給されたものですが、こういった発動機は100オクタンの高品質燃料を必要としていました。エンジンの高出力化にはブースト圧を上げて、燃料をより濃くした状態で燃やさなければならなかったのですが、高品質の燃料でなければ異常燃焼が発生してしまうためです。


 誉発動機は最大2000馬力を発揮できるエンジンとして開発されましたが、高品質燃料の開発失敗も一因となり(日本の当時の工業技術の問題や、誉自体の設計に起因する問題もありました)、当初1800馬力の発動機として実用化され、改良されて2000馬力が発揮できる様になったはずのものでさえ、1800馬力の運転制限がかせられていました。

 四式戦闘機「疾風」の水平最大速度624キロメートルというのは、この、1800馬力に制限された状態での計測で、2000馬力全力が発揮できるなら660キロメートルを発揮できる予定となっていました。


 この様に日本軍機の速度性能が計画値に達していなかったりするのは、燃料事情が悪く、高性能発動機に対応した燃料を十分に供給できず、その性能を十分に発揮できていなかったことが一因としてあります。(ちなみに、よくカタログ値として乗っている速度性能は、開発途中に計測したものをそのまま転用して記載しているなど、その機体の実態を正しく表していないことがある様です。隼の最高速度が零戦に劣るのはこの辺が原因で、試作途中でまだ不完全な状態での計測数値があちこちに転用されています。ゲームとかあちこちで影響を受けていたりします。カタログ値は公式資料を基にしているので、あまり疑われることが無かったようです)


 航空九二揮発油が供給されている内はまだ良かったのですが、戦時規格として作られた航空九一揮発油が供給されるようになると、状況は悪化していきます。

 オクタン価はほとんど変わっていないのですが、気化しにくいという特性を持つ航空九一揮発油は、発動機に供給される混合気の濃度が一定にならず、様々なトラブルを引き起こしていた様です。


 航空九五揮発油も実用化はされていましたが、供給量が少なく、戦争末期の日本軍機は、本来必要とされていた燃料を得られないまま戦うことになりました。

 例外的にインドネシア付近に展開した日本軍機には100オクタン燃料が供給されましたが、輸送経路の問題と生産量などから日本本土には輸送できず、あくまで例外的な使用に留まっていた様です。


 こういった状況を改善するために導入された装置が、水メタノール噴射装置です。

 これは、水を噴射することで、その気化熱によってシリンダーの温度を緩和し、オクタン価不足による異常燃焼の発生を抑制するためのものです。メタノールは低温になる高空での凍結防止剤として混合されたものです。

 連合側でも同様の装置を採用していますが、こちらは、戦時緊急馬力と言って、戦闘中のここぞという場面でエンジン出力を向上させるブースターみたいな役割で使用されていた様です。

 WTとかのゲームで、WEP何分、とか言っているのは、この水メタ噴射を利用して一時的にエンジンを過負荷運転し、戦時緊急馬力を発揮できる時間のことである様です。(※作者はプレイ動画を視聴しただけで実際にプレイして遊んだ事は無いので、間違っていたらごめんなさいです)


 同じ2000馬力発動機でも、水メタ噴射装置の使用を前提としてようやく2000馬力という日本軍機に対し、連合軍機はここぞという場面で水メタ噴射を利用し、エンジン出力をブーストして襲いかかってくるわけですから、日本軍が苦戦したのも当然と思えます。


 台湾沖航空戦の際に疾風を装備した日本軍の部隊が、米軍のF6Fの部隊との交戦でほぼ一方的に壊滅させられていますが、その結果には、こういった燃料事情に加えて、十分な訓練時間を設けた米軍側パイロットの技量向上や、耐Gスーツの配備開始に伴う運動性の向上など、様々な要素が影響した結果によるものです。


 ちなみに、疾風を捕獲した米軍が計測した際に、最大時速680キロメートルが発揮されていますが、これは米軍が使用していた高品質燃料を使用し、水メタ噴射を利用した戦時緊急馬力で一時的にエンジンを過負荷運転することによって達成された数値である様です。


 当時の燃料事情というのは、あまり世間に紹介される機会が無いようで有名では無いのですが、けっこう航空機の性能発揮に大きく影響していた様です。

 もし、読者様にもこういったことに興味を持っていただけましたら、幸いです。


 以上、航空燃料についての小話でした。

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