7話までの補足説明+設定公開

 いつもお世話になっております。熊吉と申します。


 イリス=オリヴィエ戦記をここまで読んでいただいた方、どうもありがとうございます。

 何だか最終回っぽいノリになってしまいましたが、今後も本作は書き続ける予定ですので、よろしければお付き合いください。

 少なくとも、熊吉が一番書きたいと思っているシーンまでは続けようと思っています。


 以下は、物語の主要な出来事となっている第4次大陸戦争の経緯と、主要な機体の設定になります。


・第4次大陸戦争


 「第4次大陸戦争」は、現実における第2次世界大戦をモチーフにした戦争です。

 戦争は、おおよそ、誕暦3695年、主人公であるミーレスがパイロットになるために軍に志願しようと決心したあたりから不可避な情勢となってきます。

 それ以前に、大陸外の国家で、連邦と帝国の介入を伴った紛争があり、その紛争から国家間の緊張が高まっていきます。


 帝国では、先の第3次大陸戦争での大敗の原因を、自国を裏切った大陸東部の諸国家が原因と考えており、その諸国家を策略によって裏から支援していた連邦も対象として、挙国一致してその復讐を果たそうと決心していました。

 これは、ドイツ第3帝国内に存在した、第1次大戦の敗北を国内のユダヤ人のせいだとする考え方に発想を得た対立関係です。


 やがて、帝国はとうとう連邦に対する復讐戦を開始し、第4次大陸戦争の開戦となります。

 おおよそ、主人公が王立空軍に志願してから、1~2年以内の出来事となります。


 帝国は新戦術・電撃戦(ドイツ第3帝国で宣伝された電撃戦と同じ様なものです)を駆使し、第3次大陸戦争で自身を裏切って成立した大陸東部の諸国家を瞬く間に制圧し、旧領を回復するために連邦へと侵攻しました。

 連邦はこの攻撃に敗退し、エクラ河まで後退しますが、戦線はそこで、エクラ河周辺のインフラが貧弱であるために双方に補給線の限界に達して膠着状態に陥ります。


 戦争はお互いに勝利への道筋を見いだせない状態となったものの、両国とも元々不倶戴天の敵同士であり、終戦のきっかけをつかめないままに、戦争は徒に人命を消耗する凄惨で無意味なものへと様相を変えていきます。

 これが、およそ、誕暦3697年のことです。


 主人公の暮らす国家、イリス=オリヴィエ連合王国は伝統的に永世中立の方針を取り、今回の戦争でもその立場を守って国内の平穏を保っていました。

 しかし、主戦線で行き詰まり、勝ち筋の見えないまま、自国の国民の人命を徒に消耗する状態へと陥った連邦、帝国双方は、この、自分たちにとって無害であるはずの永世中立国へと視線を向けます。


 王国は緊張状態を緩和するため、第4次大陸戦争が開始されても国内での動員体制を取らず、未だに平時の態勢のままにありました。

 これは、連邦や帝国からすれば、攻め込めば容易に屈伏させることができる状態と映ります。

 特に、人民の権利を守ることを標榜する連邦では、その目的のためにかえって自国民の生命を失うという矛盾に直面していたこともあり、この無防備な中立国を利用して、一挙に帝国へ大攻勢を実施しようとする計画が持ち上がります。

 永世中立国、イリス=オリヴィエ連合王国を一挙に撃破し、主戦線となっているアルシュ山脈の北側を無視し、その南側から帝国本土を一挙に突こうという思惑です。

 一方の帝国でも、諜報網から連邦のこの構想を察知し、帝国本土への直撃を未然に防止するため、王国に侵攻して、占拠した王国領に防衛線を構築し、連邦の攻勢を迎え撃つという計画を立案します。

 これは、帝国領内に連邦の侵攻を許し、帝国領内に被害を出すことを防ぐためと、帝国領は不可侵であるべきだという特権意識による発想です。


 現実の第2次世界大戦でも、中立を表明しながら、戦火に巻き込まれていった国家は数多くあります。有名なところで言えば、ドイツ第三帝国がフランスの強力に要塞化された防衛線であるマジノ線を迂回するために、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクといった中小国家を侵略した例があります。

 また、他にも、スウェーデンからの鉄鉱石の安定供給のため(通常はバルト海の海運で運んでいましたが、冬季には夏季に使用していた港周辺の海域が凍結するため、ノルウェーを経由して運ぶ必要がありました)に、ノルウェーやデンマークがドイツ第三帝国によって侵攻を受け、占領された例があります。

 これは、枢軸国によって実施されたものですが、連合国の側でも、中立国への派兵を実際に計画したことがあります。例えば、それはノルウェーです。イギリスはドイツへの鉄鉱石の安定供給を断つために、中立国であったノルウェーへ派兵する計画を立てています。

 この他にも、ソ連によって占領されたエストニア、ラトヴィア、リトアニアといった国々や、「冬戦争」で有名なフィンランド、ミュンヘン協定によって大国から一方的に切り売りされたチェコ=スロバキアの例など、大国の一方的な都合にその運命を翻弄された中小国家は数多く存在します。


 この様にして、連邦、帝国双方が王国への侵攻作戦を構想し、偶然の一致で、誕暦3698年5月22日正午、同日、同時刻に王国に対して宣戦を布告し、侵攻を開始します。


 永世中立国として、国際法や慣習を厳格に守って来た王国が、大国の都合によって一方的に戦火に巻き込まれる。

 単純な綺麗ごとでは済ますことのできない、戦争という、暴力による問題の解決手段の理不尽さと、その理不尽がまかり通る世界の中で主人公たちがどの様に生きていくかが、この作品におけるテーマとなってきます。


・開戦初日で、王立空軍が壊滅した原因


 小説中で既に言及した事ですが、王立空軍がほとんど何もできずに壊滅した理由は、王国が最後の瞬間まで対話による事態解決を模索し、連邦、帝国双方との緊張状態の緩和のために王立空軍全てに飛行禁止命令を発令していたためです。

 この命令のため、王立空軍は開戦初日の攻撃に対応できず、その多くが飛び立つこともできないまま撃破されてしまいます。


 設定上は、他にも理由があります。

 それは、王立空軍の防空体制の不備です。

 王立軍は、伝統的に、東西の国境地帯の防衛に注力していました。そのため、王立空軍の防空体制も、東西からの侵入機に対するものが主であり、初期の防空レーダーや人力による監視網を国境地帯方面に向けて構築していました。一方で、北方、アルシュ山脈の方向へは、弱体な警戒監視網しか構築していませんでした。


 それは、アルシュ山脈の様な高い山を越えてくる航空兵力が、それまで存在しなかったからでもあります。

 しかし、第4次大陸戦争の開戦に前後して、航空機の性能は飛躍的に向上を果たし、アルシュ山脈を越えて王国への侵攻が可能となっていました。


 王国への攻撃を決意した帝国は、開戦の1週間前に、銀色の双発機を、王国内の偵察のために派遣しました。この際に、帝国は、王国北方の防空網が非常に弱体であることに気が付きます。

 帝国は主戦線に配備していた航空戦力を抽出し、アルシュ山脈を越えて王国領、首都フィエリテ近郊の空軍基地に奇襲攻撃を実施します。


 こうした事情から、王立空軍は開戦初日であっけなく壊滅し、その戦力損失を補うために、ミーレスたちの様なパイロットコース未終了のパイロット候補生を戦場に投入することになります。


・主要な機体説明


:F3692「エメロード」

 王立軍が3690年に策定した「誕暦3690年航空整備方針」に基づいて計画され、3691年より試作開始、3692年に初飛行した、単発単座複葉の戦闘機です。

 3693年より制式化され、王立空軍の主力戦闘機として生産・配備されました。

 しかし、登場当時から既に設計が旧式であり、連邦、帝国が整備しつつあった新鋭機とは対抗できないと判断され、改設計機の「エメロードⅡ」、新型戦闘機「ベルラン」の開発に移行します。

 開戦時(3698)年時点でも、王立空軍の拠点防空部隊である防空旅団等にいくらか配備されていました。

 複葉機故に小回りが効く、運動性能の高い機体です。機関銃の射撃専用の、スコープ状の照準器を使用しています。

 以下、主要諸元

 ・搭載エンジン 空冷星形14気筒「カモミ」M11 機械式一段一速過給機 キャブレーター方式 900馬力

 ・最大水平速度 毎時404キロメートル 高度3000メートル

 ・燃料搭載量 巡航600キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分

 ・武装 7.7ミリ機関銃(機首)×2、7.7ミリ機関銃(下側主翼)×2

 ・爆装 なし

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対7.7ミリ機関銃弾相当)、消火器×1


:F3695「エメロードⅡ」A型

 国際情勢の緊迫化と、王立空軍内の装備の急速な陳腐化を受け、臨時に策定された「誕暦3693年航空整備方針」に基づいて計画された「次期主力戦闘機」として、3694年より試作開始、3695年に初飛行した、単発単座単葉の戦闘機です。

 複葉のエメロードが登場当時から設計が旧式となっていたため、急ぎ新型を開発する意図からエメロードを単葉化する様に改設計して開発されました。

 3697年に制式採用され、王立空軍の主力戦闘機として生産・配備中だった機体です。

 照準器が改良され、射撃・爆撃両用で、光像式の射爆照準器に変更されています。

 連邦、帝国に対して対抗可能な性能を有しているものの、優位に立てるほどの性能は無く、王立空軍は苦戦を強いられます。

 小説中では、訓練飛行で教官役のレイチェル中尉が搭乗し、帝国の黒い戦闘機と交戦した際に撃墜されています。


 本当は、熊吉は英軍のハリケーンの様な機体を考えていたのですが、空冷エンジン使用という設定と武装から、もう、日本の一式戦闘機みたいなイメージになっちゃってます。

以下、主要諸元(A型)

 ・搭載エンジン 空冷星形14気筒「カモミ」M21 機械式一段二速過給機 キャブレーター方式 1000馬力

 ・最大水平速度 毎時516キロメートル 高度5000メートル

 ・燃料搭載量 巡航600キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分

 ・武装 7.7ミリ機関銃(機首)×2、12.7ミリ機関砲(主翼)×2

 ・爆装 50キロ爆弾×2

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関銃弾相当)、燃料タンク半自動消火装置、消火器×1


:F3695「エメロードⅡ」B型

 A型の性能向上型です。

 小説中では、開戦時に敵機の迎撃に飛び立っているほか、主人公たちの搭乗機となっています。

以下、主要諸元(B型)

 ・搭載エンジン 空冷星形14気筒「カモミ」M22 機械式一段二速過給機 キャブレーター方式 1150馬力

 ・最大水平速度 毎時542キロメートル 高度5000メートル

 ・燃料搭載量 巡航600キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分

 ・武装 7.7ミリ機関銃(機首)×2、12.7ミリ機関砲(主翼)×2

 ・爆装 50キロ爆弾×2

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関銃弾相当)、操縦席前方防弾ガラス、燃料タンク半自動消火装置、消火器×1


:XF3696「ベルラン」試作型

 国際情勢の緊迫化と、王立空軍内の装備の急速な陳腐化を受け、臨時に策定された「誕暦3693年航空整備方針」に基づいて計画された「将来主力戦闘機」として、3694年より試作開始、3696年に初飛行した、単発単座単葉の戦闘機です。

 3698年時点でも開発が完了しておらず、マードック曹長、カルロス軍曹などがテストパイロットとして性能試験に当たっていました。

 急速に進化する連邦、帝国の航空戦力に対応するため、コアとなるエンジンを帝国から輸入、ライセンス権を購入し、自国で改良した倒立V型エンジンを使用します。日本で言うアツタエンジンなどと似た経緯を持ちます(というか、ベルランの搭載エンジンはDB601がモデルです)。

 モーターカノン(プロペラの回転軸に機関銃を納める形式)を使用し、高性能と重武装を狙った機体ですが、史実と同じ様に開発が難航し、実戦配備が遅れています。

 小説中では、マードック曹長とレイチェル中尉が共謀し、テスト飛行中にミーレス達のアグレッサー役として登場しますが、帝国軍機の領空侵犯に対応するために交戦、帝国の黒い戦闘機と交戦に陥って、2機とも撃墜されています。

 今後、改良型が実戦配備され、ミーレス達も搭乗することになります。

以下、主要諸元(試作型)

 ・搭載エンジン 液冷倒立V型12気筒「グレナディエ」M11 機械式一段二速過給機 キャブレーター方式 1200馬力

 ・最大水平速度 毎時564キロメートル 高度5000メートル

 ・燃料搭載量 巡航600キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分

 ・武装 20ミリモーターカノン(開発中、装備予定)×1、7.7ミリ機関銃(主翼)×4

 ・爆装 なし

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関銃弾相当)、操縦席前方防弾ガラス、燃料タンク半自動消火装置、消火器×1


 補足説明は、今回は以上となります。


 正直申しまして、ジャンルの設定が悪いのか、単純に熊吉の実力が無いのか、他作品に比べて人気のある作品とは言えない本作ですが、少しでも多くの方に読んでいただける様に今後も努力をして参ります。


 もし気に入っていただけたのなら、今後も熊吉をよろしくお願いいたします。


※エメロードⅡが装備しているエンジンにつきまして、「星形で12気筒なのは構造的におかしい」とのご指摘をいただきました。確認させていただいたところ、熊吉の勉強不足で12気筒としてしまっていたことが判明いたしました。このため、エメロードⅡが装備するカモミシリーズのエンジンですが、14気筒のエンジンとして修正させていただきました。

 ご指摘、ありがとうございました

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