第6話
「え! あんたが男性の生徒を? ついに男性恐怖症克服できたん?」
「いや、そういう訳じゃないんやけど……」
中学時代からの親友、相原佳代との久々のランチで、私は細見さんのことを報告した。
佳代は、きりっとした目元が印象的な黒髪ショートカットの美人さんだ。東京の大学に進学し、一年ほど大阪で就職していたが、去年転職して香川県に戻ってきた。
東京にいた時から、佳代はバリバリの方言で話していたが、大阪での一年でさらにパワーアップした気がする。
私は元々そんなに方言がきつい方ではなかったので、標準語に近いと自分では思っている。とは言え、家族や地元の友人と話す時はやっぱり無意識に方言が出てしまうが。
「梨衣を傷つけるような最低な男やったら、私が徹底的に追い詰めてやるきん、いつでも言いなよ」
きらりとジャケットの襟に光る弁護士バッチを見せつけて、佳代は笑う。
男前な性格の佳代は、昔から男性よりも女性にモテていた。密かにファンクラブができていたことに気づいていないのは本人だけである。
「ありがとう。こんな私のこと、本気で心配してくれて……」
私の性格も、事情もすべて把握している佳代は、本当に心強い親友だ。
「当たり前やん! 梨衣は、自分のこと卑下しすぎ。梨衣はちゃんと可愛いし、人の痛みが分かる優しい子やん。他にもええとこようけあるんやから、ね? いい加減あの最低クソ男のことなんて忘れて、梨衣は梨衣の人生を楽しまんと。いつまでもあんな男のことで悩むんはもったいないよ」
「うん、本当にいつもありがとう……うぅ」
「もう、泣かんとってよ~」
本気で案じてくれる、親友の優しい言葉が心に染みた。
佳代にハンカチをもらい、涙を拭うが、一度流れ出した涙はすぐには止まらなかった。
今こうして私が普通の生活に戻れたのも、佳代のおかげなのだ。
(あの時、佳代たちがいなかったらと思うと、本当にゾッとする……)
本気で心配してくれる友人たちのおかげで、私はDV彼氏と別れられた。
あの時から、佳代には感謝してもしきれない恩がある。
「すぐには無理かもしれんけど、その細見さんとのレッスンが良い意味で梨衣を変えてくれたらええなぁ」
優しい人たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。
自分に自信は持てなくても、大切な人たちのあたたかな言葉が力をくれる。
佳代の言葉に、私は大きく頷いた。
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