第106話

 悪いのは僕ら地球人──プレイヤーだった。

 獣人は全て奴隷なんて……。


「あ、そういえば……もしかしてその皇帝って、その……ケ、ケモナーじゅん……って名前だったりしない?」

「どうしてそれを? そうか、元の世界で曾祖父と知り合いだったのか」

「ちちちち、違う! 僕はあんな奴と知り合いなんかじゃない!?」


 あんなのと知り合いなんて思われたら、反吐が出る。


 ケモナー純。

 キャラクターネームの通りケモナーだけど、獣人系種族で愛でるタイプじゃない。

 リアルで絵が上手いらしく、同人誌の販売もしているとかで。

 よく掲示板なんかにも奴の漫画が出回っていたりした。


 獣人を蔑み、奴隷のような鉄の首輪を付けさせ、従え、犯す。

 短剣で切り刻みながらレイプなんてのもあった。


 正直、絶対に関わりたくないプレイヤーのひとりだ。

 獣人プレイヤーにしつこく付きまとって、一定期間アカウントの凍結処分も食らったことがある奴だ。


 アーシアやルーシアに会わせたくはない。

 幸い、彼はこの世界でもう死んでいるけれど……。


「知り合いではないけど……いろいろそいつの問題行動を知っているから……」

「そうか……」

「あ、ごめん。ブレッドにとっては──」

「いやいいっ。ボクも……あんな男の血が流れていると思ったら反吐が出るよ」


 ブレッドがまともな人物で良かった。


「それでブレッド。あ、いや王子」

「よしてくれ。これまで通りでいい。ボクと君は心の友なのだから☆」


 ……まとも……ってなんだろう。

 まぁ王子様なんて、気心の知れた友人とか作れないんだろうし、名前で呼び合うことにあこがれているのかもしれないな。

 じゃあ。


「じゃあブレッド。ケモナーはなんで邪神なんかを。一歩間違えれば帝国を、いやこの世界を破壊しかねないんだし」

「完全に復活させるのではない。邪神の魂が封じたまま、その力だけをほんの少しずつ引き出すためだ」

「うへぇ。それってまかさ、自分の──いや自分の子? とにかく一族の為に?」

「そうだろうな。奴は世界征服を唱えていた男だったから」


 東西の大陸両方を支配下に置き、やがて海を越えて他の大陸も……。

 ゲームでは実装どころか存在も語られていない他の大陸。

 僕も知らないそれは、ブレッドのアリアさんの話で存在することを知った。


「小さな大陸ですと、ここから南西の方角とその真逆の南東に。大きな大陸はずっと西にございます」

「そうなんだ。僕はまったく知らなかった」

「そうらしいね。君たちが来た『ろすとおんらいん』では、ここの東西の大陸しかなかったそうだね。ケモナー皇帝も世界地図を見て、その全ての征服をもくろんだそうだから」


 だけど寿命が来て、最後は帝国の地下の神器安置所で息絶えたと。

 

 ケモナーのことで知っているのは、キャラクターの容姿だけ。

 キモスレによく画像が貼られていたから。

 でもそれだけだ。


 それだけなのに、奴が死んでいると知ってこれほど安心するなんて……。

 僕はよっぽど、奴が嫌いだったんだな。






「え、えぇぇっ!?」

「ブ、ブレッドさんが……て、帝国のっ」

「二人とも。これは一部の者以外しらないのですから、声は低くっ」

「「は、はい」」


 アリアさんに言われて、アーシアたちは手を口に添えてつぐんだ。


「はっはっは。すまないね二人とも、黙っていて」

「い、いえ。当然だと思うですの」

「タックがそれでもここにいるってことは……ブレッドは味方ってことでいいのね?」

「そう思ってくれたまえ」


 二人にも事情を全部話し、その上でこれからどうするべきか話し合うことにした。


「正直なところだね、メンバーをなかなか集められていないんだ」

「三百人ぐらいだってね。帝国兵の総数は?」

「約十五万」


 ……勝てる気がしない。


「東のユラシア大陸の最北西の国カディナダと、秘密裏に連絡を取っていてね」

「協力してくれると?」

「あぁ。それと最南端のチャイネスも、協力を申し出てくれている」


 おぉ!

 二か国も協力してくれるなら、行けるんじゃないか?


「しかし、帝国側に従属する国が出てくるかもしれませんし、カナディアとチャイネス、合わせても十万ほど。戦力差は歴然としています」

「だが正面から戦を仕掛けようって言うんじゃない。現皇帝と主だった側近。奴らを倒し、地下の神器を奪って再封印すればそれで勝負がつく」


 更にブレッドは、それらをやるべきは自分たちでなければならないと。


「そうでなければ、その後の奴隷解放宣言に強制力を持たせられないからね」

「そっか……他人の力でそれを成しえた者の言葉に、重みはないもんね」

「そうなんだ。だから今はメンバーの選定と同時に、仲間の個々の戦力強化もしているんだよ」


 戦力強化か。

 うん、だったらこれを使うべきだろう。


「ブレッド、良い物があるんだ」



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  ↓↓【連載中】↓↓


『錬金BOX』で生産チート+付与無双~無能と罵られ侯爵家を追放されましたが、なんでも錬成できちゃう箱のおかげで勝ち組人生を送れそうです~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897457813


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