第105話

「やぁー、我が心の友タックゥ~っ」


 金発碧眼の、絵に描いたような王子様ルックが走って来る。

 両手を広げて。

 僕はそれを華麗に回避した。


 おっとっとと前のめりになるブレッド。

 振り向いて、物凄く寂しそうな顔をする。


「酷い」

「僕はそうは思わない」

「アリアァ、タックがこんなこと言ってるんだぁ」

「タック様は酷くありません。ブレッド様が鬱陶しいだけです」


 相変わらず辛辣だなぁ。でも、それだけ仲が良いってことだよね。

 

 僕らが革命軍に参加することを承諾して一カ月。

 大陸の南に、いくつかが連なる山々がある。その中に革命軍の本拠地があるという。

 ブレッドはそこから僕に会うためにやって来た。


「ふふ。だけど君はまたボクの下へやって来てくれたのだ。やはり運命の糸で結ばれているのだよ! あ、赤い糸はアリアと結んでいるので、青にしてくれたまえ」

「何色でもいいですが、今すぐぶった切っていいですかね?」

「はっはっは。さて本題だ」


 いったいどこまでが本気で、どこからが冗談なのか。

 

 ブレッドから個人的に話があると言って、地下の部屋には僕とブレッド、そしてアリアさんの三人しかいない。

 アーシアたちも「一応」といって部屋から出て貰っている。

 いったいなんの話なんだろう?


「ぶっちゃけるとねタック。ボクは帝国の人間なんだ」

「……は?」

「ブレッド・ヘルムック・ブリズナー。ブリズナー帝国の第五王子だ」

「……は?」


 いやいや、唐突過ぎるでしょ!?

 確かに王子様ルックだったけどさぁっ。


 アリアさんを見ると、彼女は真顔で頷いていた。


 マジで?


「な、なんで帝国の王子が……」

「簡潔に言えば、ボクの曾祖母が獣人族でね」

「え」

「外見ではまったく区別が付かないさ」

「じゃあ他の王子も?」


 その言葉にブレッドは首を振る。

 帝国には王子が五人、姫が三人いる。全員腹違いなのだとか。

 つまり獣人の血が流れているのはブレッドのお母さんだてことか。


「だからというのもあるし、だからという訳でもない。ボクはね、今のこの世界は間違っていると思うんだ」

「間違っている?」

「そう。邪神を封じた三百年前のあの時から、間違った歴史を積み重ねてきたと思っている」


 あの時、帝国は邪神を封じるために獣人族の王と同盟を組んだ。

 だけどそれは、多くの獣人族を──


「生贄にして、邪神に力を乞うたのだよ。時の皇帝は」

「え!? ま、待ってくれっ。じゃあ今、帝国の地下にいるっていう邪神はっ」

「ん? タック、何故それを知っているのだい? 帝国でも極一部の重臣しか知らないことだよ」

「あー……それはそのぉ」


 女神から聞いた。あ、いや。帝国にいるっていうのは魔導師の幽霊からか。

 そんな話、信じると思う?


「ふっ。タック、君はやはり、ボクが思っている人物なのかもしれないな」

「君が思っている?」


 ちょっと背筋が寒い。


「まぁその話をする前に、先々代皇帝の話をしようか」

「先々代というと……曾祖父?」

「そう。かの皇帝には不思議な力があったんだ。あ、ちなみに先々代は婿養子でね」


 歴代皇帝の血を継がない、突然ひょっこり現れた男だったとブレッドは言う。

 不思議な力って?


「突然、空中からアイテムを取り出したり、マジックアイテムをぽんぽん出したり。死んだと思ったらその場で蘇ったり……ね」


 ブレッドは僕を見てそう言った。

 それはどれも心当たりのあることで、僕のようにゲームから転移してきた者だけが出来る内容。

 まさか先々代皇帝って──


「その皇帝は……異世界……人?」


 ブレッドは神妙な面持ちで頷いた。


「『ろすとおんらいん』。そう呼ばれる物を介して、この世界にやっていた者なんだよ」

「帝国の皇帝が……日本人だったなんて……え、でもそれじゃあ帝国は……」


 なんて言えばいいんだろう。

 ゲームをプレイしていて、獣人族を虐げている今の状況って納得しないと思うんだけど。


「その先々代の皇帝は、獣人族の扱いについては?」

「これまで通り。いや、ある意味余計に悪化させた張本人かな」

「悪化?」

「そう、悪化だ。邪神戦争以来、奴隷制度が取り入れられるようになって──けれど二百年もすると、それは衰退しはじめていたのだが……」


 転移者は獣人のレジスタンスから帝国を守り、その功績で皇女と結婚。

 更に他の帝位後継者を味方につけ、敵となるものは暗殺し、そして皇帝の座についた。


「そして──全ての獣人は奴隷にせよと、そう帝命を出したんだよ」


 ブレッドは大きなため息を吐き捨て、それから目を閉じ、再び口を開いた。


「元獣人族の国、その王城の地下に邪神を封印していた神器を掘り起こし、帝国に持ち帰ったのは先々代の皇帝なんだ」


 そして邪神復活を指示した。

 自分の代でそれは叶わなかったものの、何十年も研究は続けられ35年前にそれは実った。


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