第104話

「ほ、本当に、仲間に加わってくれるのですか!?」


 翌朝、どうするか尋ねられて答えた結論は、YESだ。


「いや、そのつもりで僕らをここに連れてきたんだろう? 変なお芝居までしてさ」

「は、はい。その通りなのですが……実はこれまで声を掛けた冒険者のほとんどに、この話を断られていまして」


 あぁ、それで必死だったのか。同時に泣いて喜ぶ奴らがいるわけだ。


「ところで、ひとつ分からないことがあるのだけど」

「はいっ。なんなりとお尋ねくださいっ」

「なんで僕らに声を掛けたの? 獣人と一緒だから?」


 ブレッドの知り合いだったから──ではないのは、昨日の会話でも分かる。

 じゃあなんで?


「それもございますが、タックさんを鑑定したときの数字が……」

「あぁ、レベルが高かったからですか」

「えぇ──って、レベルをご存じなのですか!?」


 あ、しまった。

 レベルの概念が無い世界だったんだ。

 そっか。鑑定持ちには見える数字を、便宜上レベルと呼ぶんだな。


「あなたの鑑定スキルでは、レベル以外に何が見えるんです?」

「レベルと職業。あと称号です。称号はご存じですか?」

「知ってる。そっか。僕はね、鑑定スキルも持っているんだ」


 正直に言えば嘘になるのかもしれない。

 インターフェースを開いて見る行為が鑑定スキルというなら、嘘ではなくなるけれど。


「そ、そうだったんですか。では話が早いですね。タックさんには『賢者』の称号がございました」

「うん。わりと最近得たものなんだ」


 これは本当。


「高レベル。そして『賢者』。そのうえあなたはお連れの獣人族のお二人と、とても仲睦まじくしておられました」

「俺らは鑑定なんざ持ってねーからな。まぁエイミーが鑑定して、こいつだと思った奴らを勧誘するしかねーんだわ」

「なるほど。じゃあレベルの低い冒険者なら勧誘しなかったと?」

「いえ、そういう訳でもありません。レベルは鍛えることである程度は上げられますし」


 その鍛えるメンツがスキンヘッド──ケビンたちってことのようだ。

 僕ら三人は、人間と獣人でお互いを尊重しあっているように見えたし、そのうえ高レベル。更には『賢者』だ。


「どうしても仲間にしたかったのです。ですので今日ここでお断りされても、時間をかけて説得するつもりでした」


 まぁその都度、記憶を消す鏡を使うことになったけれど──とギルド職員のエイミーが言った。


「それで、仲間ってここにいるメンバーだけ……なんてことはないよね?」

「はい。西大陸の、特に中央から南の町にある冒険者ギルドには、私のように勧誘メンバーがいます」

「だいたい全部で300ぐらいか?」

「そのぐらいじゃないっすかね」


 たった三百人か。


「私たちが声を掛けているのは、直接戦闘の出来る冒険者たちだけです。実際には賛同してくださる一般市民も多いでしょう」

「帝国は最近、妙な動きをしているからな。警戒している奴らもいるのさ」

「そういう点では東大陸の南側国家なんかも、冷や汗もんっすね」

「妙な動き?」

「戦争の準備だ」


 ケビンはあっさりとした口調で、恐ろしいことを口にした。

 帝国が戦争の準備をしているってことは、どこかに仕掛ける気だろう。

 もしくは脅しか何か。


 なんにしても、対象となる相手がいるわけで。

 帝国の相手ってことは、そっちも国だってこと。


「じゃあその国と手を結ぶとか?」

「いえ、それではダメなんです」

「どうしてなの? 同じ帝国を目の敵にする者同士じゃない」

「ですの」


 たった数百人で帝国を倒そうなんて、かなり無茶だと思うんだけどな。

 帝国から狙われている国があれば、僕だって同盟を呼び掛けて一緒に打倒しようって持ちかけるかも。


「一時同盟を組んで帝国を打倒したとしても、帝国を滅ぼした後でその国は手のひらを返さないとも言い切れません」

「それにだ。東側の国は、どこもかしこも奴隷制度を採用している国だ。西側のそれより、奴隷に対する扱いはひでーんだよ」

「革命軍の力だけで帝国を打倒してこそ、奴隷制度廃止を呼びかかけ、受け入れてもらうための抑止力になるのです」


 そっか。

 自分たちの力だけで帝国を破り、そんな革命軍の言葉だからこそ従わせることが出来る……ってことか。


「そういえば、ブレッドさんはどうしていらっしゃるですの?」

「リーダーは新米の育成訓練だな」

「ふぅん。育成訓練かぁ」


 獲得経験値が50%アップする『祝福の巻物』と、100%アップ、つまり二倍になる『超祝福の巻物』。

 どっちを大量購入しようかなぁ。



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