第103話
答えを出すのはすぐにとはいかない。
「もし断った場合、僕らはどうなる?」
「どうもいたしません。ただここでのことは忘れて頂きます」
「忘れるつっても、本当の意味でだぜ」
スキンヘッドが少し大きめサイズの手鏡を持って来た。
一目で分かる。
これ、魔法アイテムだ。
なんかもやもやっとした怪しい光を発しているのが、普通に見える。
「ただの鏡じゃねーのは、一目瞭然だろ?」
僕らが頷く。
スキンヘッドは満足気に笑うと「これは記憶を奪う鏡だ」と、物騒なことを口にした。
「といっても、丸一日分の記憶です。これを使用すると、前一日分だけがすっぽり抜けてしまう感じなのです」
「まぁだから日常生活には支障はねぇ。それでも勝手に声を掛けて、勝手に記憶を弄るなんつうことをしてすまねぇと思ってる」
今のセリフから分かるのは、過去に僕たちのように誘って、断られた経験があるってことだ。
「一日分の記憶を消すってことは、答えを出すのにもう少し考える時間があるってことだよね」
「はい。明日の朝までにお返事を頂ければ結構です。ですが今夜はここに泊まって頂くことになります」
「町の観光は出来なくなっちまったが、その分美味いもんをご馳走する」
「え、まさかあなたの手料理なの?」
と、嫌そうな顔でルーシアが言う。
スキンヘッドはひと呼吸おいて笑いだした。
「可愛いお嬢ちゃんにお願いされりゃー、やらんでもないぞ」
「奥さん、止めときな。うちのリーダーの飯はクソなんてレベルじゃないほどマズイぜ」
「あぁ。死人が出そうなほどにな」
「テメーらは余計なこと言ってんじゃねー!」
なんだろう。
厳つくて、やってることは人攫い同然なのに。
何故か憎めない人たちだな。
その後、僕らは広い部屋を与えられ、そこで三人で話し合うことにした。
途中、宣言通りスキンヘッドとその愉快な仲間たちが、町の屋台で買った食べ物の差し入れが。
「あ、この肉柔らかくて美味い」
「え、本当?」
「ん、あーんして」
「あ、あぁ~ん」
串焼きをおすそ分けするのに、ルーシアの口を開けさせてかぶりつかせた。
すると右隣に座るアーシアに肩を突かれ、振り向くと彼女も口を開けて待っていた。
結局僕も一切れ食べただけで。
「それで、どうしよう? 僕は正直異世界人だし、第三者的な意見しか出せないと思う。そりゃあ獣人族の解放というか、みんなが平等になるのは良いことだと思う。だけど分からないのは、何故彼らが獣人解放の革命軍なんだろうってこと」
獣人がそれをやろうとしているのは分かる。
ブレッドみたいに、獣人を愛している人もだ。
でもギルドスタッフもスキンヘッド軍団も人間だった……と思う。
「あら、気づかなかったのタック」
「ギルドの職員さんは、半分は獣人ですの。冒険者の方々も、獣人族の血が混じった感じでしたの。あ、もちろんそうでない方もいらっしゃいました」
「え、そ、そうなの? 全然気づかなかった」
「あの人、帽子を被ってたでしょ? たぶん耳があるのよ」
確かに帽子は被ってたけど、耳って──あ、横髪で人間の耳の位置は見えていなかったっけ。
でも冒険者軍団のほうは、完全に人間と同じ姿だった。
血が薄くて、外見上は分からないってことなのかな。
「彼らにはそうしたい理由があったのか」
「ですです」
「アタシたちだって、奴隷制度なんてなくなればいいって思ってる。獣人だけじゃなく、人間族の奴隷だっているわ。奴隷制度自体がなくなればいいのよ」
「うん。僕もそう思う。お金のために売るんじゃなく、ほら、峠の村で出会ったジャングみたいにさ。お金のために働くのがいいと思うんだ」
貧しくて、またはお金が欲しくて身内を奴隷商人に売る連中がいる。
お金を手に入れるのは売られた人じゃなく、売った側の奴だ。
そして奴隷となった人は一生タダ働きさせられる。
そうじゃない。
ちゃんと賃金を払って働いて貰えばいいじゃないか。
奴隷制度なんて一部の金持ちの承認欲求を満たすだけの制度だろ。
「必要ないんだ。奴隷制度なんて」
「私もそう思うですの」
「僕がゲームとしてプレイしていた三百年には、奴隷制度なんてなかったんだ。お互いの種族の仲がちょっと悪かったってだけで」
「じゃあ世界を元に戻しましょう。そして仲良くなればいいのよ、今度こそ」
邪神を隠し持っているかもしれない帝国が相手だ。
気を引き締めなきゃな。
あ、課金チャージしておこなきゃ。
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↓↓【連載中】↓↓
『錬金BOX』で生産チート+付与無双~無能と罵られ侯爵家を追放されましたが、なんでも錬成できちゃう箱のおかげで勝ち組人生を送れそうです~
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