第102話

「も、もう結構です。お三方が夫婦だというのは、十分分かりました」


 職員の女が顔を真っ赤にしてそう言ったのは、アーシアとルーシアが僕にちゅっちゅしまくって、危うくその先に二人が進もうとしたときだった。

 ゆうに10回以上はキスしていたぞ。もう少し早く止めてくれよ。


 あとスキンヘッドとその仲間たち。

 お前たちはダメだ!

 羨ましそうに指咥えて見てるだけかよ!


「いいなぁ。俺も嫁さん欲しい」

「恋人すらいねーだろ」

「お前もな」

「悲しいな」

「ああ」


 悲しい会話すんな!


「そ、それで。いったい何なんだこれは」

「はい。試させていただいたのです。お二人が奴隷なのかどうか」

「試す? いや待ってくれ。もしアーシアとルーシアが奴隷だったとして、その……キスを拒んだりとかしないのでは?」


 性奴隷なんて言葉もあるぐらいだ。ヘタすりゃそれこそ、人前でセ……セッ……だって、やれと言えばやるだろう。

 奴隷ならね。

 

 いや、あのまま続けたら、この二人はやろうとしたかもしれない。

 実際に服を脱ごうとしていたし。


「そりゃあ坊主。奴隷として『やらされている』のと、愛情があって『やっている』のとじゃ、違うからなぁ」

「その違いって、見て分かるものなのかよ」

「おう」


 即答しやがったスキンヘッド。

 まぁいいとして、奴隷じゃなかたらどうなんだって話だ。


「この国は奴隷制度を承認していたはずだ。わざわざ奴隷かそうじゃないかを確かめる理由は? なんで地下室なんかに?」


 アレスのいたジータから南のこの国では、奴隷制度は禁止されていない。

 でもまぁ東の大陸に比べると、奴隷というよりは働き手だ。

 それでも手足は鎖で繋がれているし、人間族より労働条件は悪いだろう。


「奴隷を連れた冒険者……は、少なくはありません。奴隷を前衛で戦わせる方もいれば、女の奴隷を──」


 夜の相手にするってことなんだろう。

 いった、奴隷がどうしたっていうんだ?

 アーシアとルーシアは奴隷ではない。奴隷狩りにあったけれど、僕が解放した。


「あなたは、奴隷制度についてどう思われますか?」

「え? 奴隷制度……どうって……」


 日本人として育った僕にとって、奴隷は物語やゲームの中の存在だ。

 そりゃあ外国では、それこそ性奴隷なんてのは裏の世界では存在していたようだけど。

 正直、あんまり気持ちのいいものじゃない。


 だから僕は、


「嫌な制度だ」


 そう答えた。


 ひと呼吸ほどの間をおいて、職員の女がほっと胸を撫でおろす。


「嘘ではありませんね?」

「それを証明するものがないだろ」

「その通りですが……」


 職員の女がスキンヘッドを見る。

 男が頷くと、部屋に用意されたソファーへ座るよう勧められた。


「これまでの失礼をお詫びいたします。私たちは……革命軍のメンバーなのです」


 あぁ、なんか変な組織に目を付けられてしまった……。






「ブフォッ。リ、リーダーがブレッド!?」

「ご存じなのですか? おかしいですわね。革命軍の存在は、まだ表では知られていないはずなのに」

「内通者がいて、実はもう世間では俺らの存在は知れ渡ってるのかもしれねーな」

「リーダーに報告しなければ」


 真剣な顔で職員とスキンヘッドが話している。

 そうじゃない。

 いったい何がどうなっているんだ?


「ブレッドさんとは、以前一緒に海を渡った中なのです」

「東の大陸からこっちに船で来た時、一緒だったのよ」


 アーシアたちがそう説明し、彼らは顔を見渡してぽんっと手を叩いた。


「なるほど。確かにブレッドさんは、東からこちらへ渡るときに、面白い人物と一緒だったと仰っていました」

「お、面白い……。ってことは、やっぱりあのブレッドなんだ」

「あのとは?」

「いや、名前が一緒だけかもと思ったんだけど……ところでそのブレッドってのは、その──白タイツ?」


 頷く職員とスキンヘッド。あと後ろの冒険者たち。

 あぁ、やっぱりだ。

 やっぱりあのブレッドだ。


「ブレッドは獣人の国を作るとは言っていたけど、革命軍を作るとは言ってなかった。どういうことなんだ?」

「国を作るために、まずこの世界の奴隷制度を廃止しようとしているのですよ」

「そのためには帝国をぶっ潰さなきゃなんねぇ。分かるだろ。全ての元凶は帝国なんだよ」


 帝国──復活した邪神がいる国。

 だけど不思議と邪神は、表舞台には出てきていない。

 何故?


 それも帝国が何か絡んでいるんだろうか。


「タックさん。リーダーとも旧知の間柄といいますし、どうか……どうかぜひ、私たちに力を貸してください!」


 それが僕たちにも、革命軍に加わって欲しい──という話だった。



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