第91話

 僕にだけ実装された称号。

 だけどステータス画面を開いても何も書かれていなかった。


「賢者とは、異なる形態の魔法を操る者のことを言います。称号システムは今実装しましたので、試しに形態の異なる魔法をお使いください」

「異なる……魔術師と魔導師の魔法では──」

「それは同じ形態の魔法です。タック、あなたはものまねによって神聖魔法が使えるでしょう?」


 戦歌か。

 朗読するように呪文を詠唱し、それが終わると魔術師スキルのファイアを唱えた。


【条件が満たされました。あなたに『賢者』の称号が与えられました】


 というシステムメッセージが浮かぶ。

 簡単なものだな……。


「こんなに簡単に称号って取れてもいいんですか?」

「称号は転生していることが前提になります。この世界の者であれば、それは決して簡単なものではないのですよ」


 この世界での転生職は、神へ祈りを捧げ、認められれば転職が可能になる。

 曖昧な感じがするけれど、簡単には認めてはやれないと女神は言った。

 レベルがカンストしていて、NPCの話かけるだけのお手軽転生とは違うってことだな。


「称号で得られたスキルは既にセットされているはずです。念のため確認してください。もしされていなければ修正しなければなりませんので」

「不具合の修正ですか」


 どことなくゲームっぽい感じがして、思わず笑みが零れる。


「はい。不具合の修正には数週間から数カ月を要しますので」


 と、女神も笑みを浮かべてそう言った。

 いや、笑えないからそれ。


 確認したスキル一覧に、僕が……僕がこのゲームでずっと待ち望んでいたスキル名があった!


【メテオストライク】


 隕石を召喚するこの魔法は、MMOに限らずコンシューマーゲームやファンタジー系アニメでも破壊力抜群で有名なものだ。

 これなんだよ。僕が欲しかった魔法は!


 他にも【竜牙兵召喚ドラゴントゥース・ウォリアー】と【ギガント・クエイク】【ライトニング・プラズマ】なんてものがあった。

 竜牙兵召喚にはドラゴンの骨がいるらしく、すぐに使えるものじゃない。

 メテオ他の攻撃魔法は広範囲効果力魔法だ。ダンジョンでこういうの使うと、どうなるんだろうな。


「スキルはありました。大丈夫なようです」

「ふふ、それは良かったです」


 と、どこか明後日な方向を見ている女神さま。

 システムの不具合修正は大変らしいことがよく分かる。


「ところで、僕に称号システムを実装したのって……やっぱり邪神を倒すためですか?」


 魔導師の幽霊曰く、どうやら帝国領内で邪心は復活しているとのこと。

 だけど女神は首を振る。


「そういう意図はありません。せっかく作ったシステムですもの。実装してみたいじゃないですか」

「もうまるっきり開発者視点ですね」

「ふふ。地球で開発されたMMOの半数は、どこかの世界の神々が手掛けたものですのよ」


 その事実がわりとホラーな気もする。


 話は邪神のことに戻るが、女神はちょっと困惑気味らしい。


「復活しているようなのですが、していないようにも感じるのです。なんといいますか……気配が少し小さいというか」

「あの幽霊はよくそれを感じ取れましたね」

「幽霊だからかもしれませんよ」


 にっこり微笑む女神。

 邪神が復活したのは35年ほど前だけど、何も起きていない。


「何も?」

「はい、何も。そこが不思議なのですが……理由は私にも分かりません」


 薄っすらと気配は感じるものの、それから脅威のようなものは感じられないらしい。

 不思議に思うものの、それを直接調べることは女神には出来ない。

 神ゆえに、直接何かをすることができないのだとか。

 難しい話なんだけど、神が直接何かをすることで、世界のバランスが崩れてしまうんだとか。

 それは世界の破滅を招くことにもなる。

 それを気にしない邪神だからこそ、世界に直接干渉したりもする。


「それすら、邪神は何もしていません」

「なんなんでしょう。心を入れ替えた……なんてことはないですよね」

「そうだととてもいいのでしょうね」


 少し寂しそうに女神はそう言って笑った。


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