第92話
「はぁ……全部入ったけど……僕のアイテムボックスはそろそろ限界だよ」
女神の下から戻って来た僕は、現実世界では気絶をしていた状態だった。
つまりVRゲームみたいに、精神だけがあっちに行ってたってこと。
目を覚ますとアーシアとルーシアの二人が大泣きしながら、僕のことを見下ろしていた。
『ほぉ、アイテムボックスを持っておるのか。どれ、見せてみろ』
「いや、見せてみろと言われても……」
幽霊の魔導師にそう言われたけど、ゲームシステム上のものだからなぁ。
でも……課金ショップで買った鞄は、ちゃんと目視で来てるんだよね。
ゲームの時は買ってからメールBOXに贈られて、開封するとアイテムボックスの中に移動。それをクリックすれば、自動的にアイテム枠が増える仕組みだった。
それ考えたら……
この世界に来て、システムが少しずつ変わっているのかも?
『さぁさぁ見せろ』
『じーちゃんに見せてみるんじゃ』
「誰が誰のじーちゃんだよ! 見せたくても見せられないのっ。そういう物なんだからっ」
幽霊魔導師二人が顔を見合わせ、それからもう一度僕を見て頷いた。
何が分かった?
『なるほどなるほど。不可視の鞄かの』
『ならばこうしてやろう』
二人の幽霊が指をパチンと鳴らす。すると突然、僕の肩と腰に何かが触れた気がした。
見るとダッサイ肩掛け鞄が。
え、これってもしかして、
「アイテムボックス!?」
『そう。お前さんのアイテムボックスじゃ。どれ、容量を大きくしてやろうかの』
は?
そんなことできるのか?
『この手のアイテムも、元々はこの魔法都市で作られたものじゃ』
そんな設定、どこにあったの?
『わしらにはもう必要のないアイテムじゃから、これを合成してやろう』
『これで3倍じゃ。3倍3倍~』
「え、3倍!?」
幽霊魔導師が半透明のダッサイ鞄を取り出す。そして自分の鞄を、僕の鞄に押し当てた。
小さく光って、半透明の鞄が僕の鞄へと吸い込まれていく。それが二つ──。
『ほれ、これで容量いっぱいじゃ』
『しかし無駄な物を買いこみ過ぎるでないぞ』
『そもそもこの容量があって圧迫するというのは、買い過ぎ、溜め過ぎじゃ』
「全くもって反論できない……」
にかっと笑ったじーちゃん二人。
その姿がどことなく薄くなっていく。
「成仏、するのですか?」
『んむ。わしらの望みは叶った』
『思い残すことはもうない』
『ただーし!』
「うわっ」
幽霊の顔がどーんっと巨大化して僕に迫る。
怖い。顔だけデカい。怖いっ。
『神殺しの武具。勇ある者に必ず渡してくれ。その武具に相応しい者たちを探すのじゃ』
『決して悪意ある者に渡してはならぬぞ。もし渡してしまえば、その時こそこの世界は終わってしまう』
「そ、そんなっ……。僕にそんな大役が務まるなんて……」
だいたい勇ある者なんて、そんな曖昧な。
考え込んでいると、アーシアとルーシアが僕の腕を取る。
「大丈夫ですの」
「そう。タックなら大丈夫」
二人の笑みが、僕に勇気をくれた。
そうだ。これがゲームなら、その勇ある者って……
必然的に僕の下に集まってきたりするよね。
うん。大丈夫。
僕はこのまま旅を続けよう。
きっと向こうからやって来てくれるさ。
差し当たってアーシアとルーシアの分はある訳だし、残りの職業の分が揃えばいいってことだよね。
よしよし、楽勝!
『あ、ちなみに世界が終わるってのは、ほんの冗談じゃよ』
『ではさらばじゃ』
え?
最後にそう言って、幽霊魔導師二人は光となった……。
・
・
・
おいーっ!
「はぁ……なんだかどっと疲れた気がする」
「お、お疲れ様ですぅ」
「ほーんっと。あのおじいちゃんたちには参っちゃうわよ」
課金アイテム『迷宮脱出オーブ』でダンジョンを出ると、冒険者ギルドから少し離れた所にキャンピングカーを出した。
中へ入ってソファーにふかーく腰を下ろす。
しばらく三人でぼぉーっとして疲れを癒した。
ほんと、最後の最後に冗談でしたーって……。
まぁでも──
拡張して貰ったアイテムボックスを見ると、僕としては凄く助かった訳で。
これまでの3倍になった容量のおかげで、空きスペースのほうが多くなったほどだ。
ただちょっと多くなりすぎて、ここから取り出したい物を探すのはちょっと大変かも……と思わなくもない。
「アイテムの整理方法も考えなきゃな」
「じゃあ普段使う食材に、戦闘中や準備に必要なものなんかは、こっちの小さな鞄に入れたら?」
「そうですわね。タックさんのアイテムボックスには、緊急性のないアイテムを中心に入れるとよいのではないでしょうか?」
こっちの世界に来て買った課金鞄をスッキリさせて、消耗品系はそっちに押し込むことに。
そうしてアイテム整理に数時間。
鞄から鞄にアイテムを移動させるのは、右から左へとはいかない。
一度出して、中に入れなきゃいけないから。
夕食を間で挟んで、遅い時間にようやく全部終わった。
僕のアイテムボックスがそれくらいスッキリしたかなと眺めて、幽霊魔導師から頼まれた神殺しの武具に目が行った。
そういやこの装備、勇ある者──勇者となりえる者にって言ってたけど。
まさか職業『勇者』限定装備とかじゃないだろうねぇ。
そう思ってアイテム詳細を見ると──
装備可能職業『騎士』とあった。
聖騎士は通常の上位職だ。
じゃあこっちは? トゲトゲしたごっつい装備。これは『狂戦士』。上位職だ。
いろいろ見てみると、上位職と大型アップデートで追加された職業の全22職業の専用装備みたいだ。
上半身下半身、手足の防具と、それぞれの武器。
しかも……
「装備可能レベルがカンストって……鬼かよぉぉっ」
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長らくお待たせしました。
近況に今後のことをupします。
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