第89話:神殺しの武具
杖はくれる──ということで、僕は地縛霊と化している幽霊と一緒に神殿へと向かった。
その神殿がそもそも隠し部屋になっていて、開くための言葉を知っているのはこの幽霊だけ。
最深部にあったボス部屋から出て、上り階段へと戻る途中で通路を逸れ、行き止まりのそこで──。
『神は死んだ』
「おいーっ! 神殿の扉開くのにその合言葉っていいのか!?」
『神を冒涜する言葉が、隠された神殿への扉を開く言葉だとは誰も思うまい』
ぐ、そうかもしれないけど……。
「でもどうして隠し扉の先なんかに、神殿があるのよ」
『うむ。魔法都市の者はな、自らの魔法に溺れ、神への信仰も失くした者が多かったのじゃ』
『神を信仰する者は下等で野蛮だと、信仰を禁止されてもいたのだ』
「それで隠し神殿を、ですの?」
『その通りじゃよお嬢さん』
壁の一部がスライドして、地下へと続く階段が現れた。
階段はそれほど深くもなく、直ぐに下の階に到着。
長い廊下を過ぎると広い場所に出た。
『"ライト"』
幽霊になっても魔法は使えるようだ。
いくつも浮かぶ光の玉が辺りを照らす。
「まるで礼拝堂ですの」
『まるでじゃなくて、ここは礼拝堂じゃよ』
『わしらの心残りは祭壇の奥にある。左脇に通路があるので、そこへ行ってくれい』
杖を持ったまま言われた通り祭壇の左から通路に出て、奥の部屋へと入る。
中には神殿に似つかわしくない、武具が納められていた。
しかも一つや二つじゃない。
まるで全職業の装備一式が並んでいるようだ。
「この装備は?」
『これは神殺しの武具じゃ』
「神を祭ってるんじゃないのか!?」
信仰の対象を殺すための武具を隠し持ってるなんて、魔法都市の住民の信仰心はどうなってんだよっ。
『待て待て。早まるな。何も善なる神を殺めようというんじゃない』
「じゃあ誰を殺すための武具なんだよ」
『そりゃあ神じゃ。ただし、悪しき神じゃよ』
悪しき……それって──
「邪神のことなの?」
「だけど邪神は三百年前に封印されましたですの」
『封印なんぞ、もう解けておるわ』
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
え?
『ボワンドとの同化が解けた瞬間、成仏できるわいと思ったら邪神の気配を感じての』
『だから成仏できなんだ』
「気配って……」
『わしらこれでも魔法都市で評議会の議員するぐらいには、力のある魔導師じゃったんよ』
「ま、待ってくださいの。邪神の封印が解けているって、い、いつからですの!?」
アーシアの必死な問いに、二人の幽霊は申し訳なさそうに首を振る。
ついさっきの瞬間までは意思を持たない怨霊だったんだ。
『わしらが信仰する神は、いずれ邪神が復活するだろうと啓示なさった』
『世界が滅びるかもしれぬその啓示に、我らは神殺しの武具を作って備えたのじゃ』
だけど邪神が復活した三百年前には、魔法都市は滅んでいた。ボワンドのせいで。
『お前さんらの話じゃと、三百年前に一度は封印されたそうじゃの?』
頷くアーシアたち。
『じゃが今この瞬間に邪神は復活しておる。北東の方角じゃ』
「北東……」
「帝国がある方角だわ」
『わしらが長年かけて作り上げたこの神殺し……お前たちよ、この武具を勇ある者の手に渡してはくれぬか?』
『お前たちのような──勇者となりえる者たちに』
ゆ……勇者?
いやいや、勇者って……はぁあぁぁっ!?
アーシアとルーシアが、まんざらでもなさそうな顔してる!?
「い、いや僕は……賢者になりたいだけで、その……」
勇者とかそんなんじゃ。
『わしらは神の啓示を受けたのじゃ。時がくれば、神の使いが現れ邪神を滅ぼすだろうと』
『そう。その時のためだけに、我らはこれらを作り上げたのだ』
神の使い……どこかで聞いたような?
するとさっきまでまんざらでもない顔をしていたアーシアたちが、僕の顔をじっと見つめた。
そうだ。二人から聞いたんだ。
アイテムボックスを使う僕を見て、神の使いみたいだと言ったんだ。
……え
「僕ううぅぅぅ!?」
──そう。この時をお待ちしておりました。
突然そんな声が聞こえ……そして……。
MMO『Lost Online』のログイン画面にもあった、浮島に建つ神殿にいた。
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