第87話

 部屋に入っただけなら特に動こうともしないボスモンスター。

 インターフェースで確認すると、モンスター名は『魔法実験に失敗した導師ボワンドと巻き込まれた導師たち』。

 リッチでもノーライフキングでもなく、魔法の実験に失敗した魔導師って……。しかも巻き込まれて死んだ他の魔導師の怨念も一緒じゃないですかやだなぁもう。


 それでも名前の前にはボスであることを示す、王冠を被った髑髏のマークがある。


 怨念=レイスとかのアンデット系か。

 アンデットなら聖属性か火属性が有効。だけど僕は魔術師と魔導師のスキルを持つエタノビだ。火属性はもちろんある。けど、一番効果のある聖属性は持っていない。

 懸念は……


「幽霊とはいえ、向こうも元は魔導士だ。魔法防御が高そうなんだよなぁ」


 課金リングの装備は『聖域サンクチュアリ』と『除霊ターンアンデット』をしてある。

 ショートカットは1から4が火属性攻撃魔法。5が回復用のヒール。6が聖域で7がターンアンデットだ。

 ものまねしたディフェンス・シールドは必要なさそうだよなぁ。相手は幽霊だし、物理攻撃なんてしてこないだろう。

 スタンは……物理攻撃なんて当たらないだろうし。

 ま、盾の装備だけはしておこう。


「さて、行くぞ」


 駆けながら戦歌を掛ける。


『ウグオォァァ』


 索敵範囲に入った途端、何故か魔法実験に失敗した……あぁもう名前長すぎ! ボワンドにしよう。うん。そいつが苦しみ始めた。


 ぼ、僕が音痴だとでもいいたいのか!?

 ムカつくなぁ。


「音痴で悪かったなF1《フレイムバースト》!」


 まずはCTの長いスキルから撃つ。


「続きまして、お前らが苦手なF7《ターンアンデット》!!」

『ヒギャアアァァァッ』


 うぅん、ダメージだけか。まぁボスだし、さすがに一撃即死はさせられないか。

 CTの長いスキル、短いスキルを使い分け、絶えずダメージを与え続ける。

 その間ボワンドの動きを注視しながら、外見に変化が生じないか見逃さない。


 今の所反撃は魔法攻撃のみ。火属性魔法がメインだな。

 ターンアンデット以外のこちらの攻撃もあまり効果がないけれど、それはこちらも同様。

 僕だって魔法防御力は高い。とうぜんダメージだって低いんだ。

 ヒールは使わず、今回はポーションで済ませた。


 ポーションもショートカットに登録してある。『ALT+1』だ。課金ポーションやMP回復ポーションもALTに登録してある。

 これで視線はずっと奴に向けていられる。

 さぁ、いつでもこい!


 最初のソレっぽい動作は、戦闘開始から十分ほど経ってから。

 霧のような体が四散し、奴の実験に巻き込まれて死んだのだろう魔導師の霊体が飛び交った。

 そいつらがボワンドの頭上をグルグルと回転しはじめ、ゆっくりと地面──つまり僕に向かって下りてくる。

 即死か──ダメージか──。


 盾を構えその時を待つと……。


【戦闘不能状態になりました。その場で復活しますか?】

【はい / いいえ】


 即死だった。

 身代わりの札を使って復活すると、速攻でポーションをがぶ飲み。

 その間も奴から目を離さない。

 四散していた巻き込まれ魔導師たちはボワンドに戻っている。

 次はあれを回避する方法があるのかを探らなきゃ。


 あの霧はボワンドの頭上をぐるぐる回っていた。その間に離れればいいのだろうか?

 それとも……。


 二度目の即死攻撃が始まったのは数分後。

 巻き込まれ型魔導師がボワンドから離れ、奴の頭上でぐるぐる回転を始める。

 まずは離れて回避できるかだ。


 ──が、これはダメだった。

 ボワンドが追いかけてくるからだ。上で回転する魔導師を連れて。


【戦闘不能状態になりました。その場で復活しますか?】

【はい / いいえ】


 ヨシ、次!






 三回目の即死攻撃で回避の仕方は分かった。

 四散した奴らは、ボワンドを中心にぐるぐる回転している。だけどボワンドから一定の距離を保っているので、隙間が生じていた。

 その隙間にあたる部分で待機すれば、奴らに触れることなく即死を免れる。

 この回避手段だとアーシアはいいけれど、後衛である僕とルーシアは急いで奴の傍に近寄らなければならないな。


 その後も暫く他の攻撃手段を確認すうと、即死攻撃はもう一つ。

 だけどこれはキャンセルが可能だった。


『ジッケンジッケンジッケンジッケン!』

「さぁ来い!」


 頭を掻きむしったあと、ボワンドが突進してくる。

 最初は気づかなかったんだ。これが即死攻撃だと。だって、盾を構えると、奴が接触した瞬間に──


『イギャアアァァァッ』


 と叫んで後ずさりしていたから。


「悪い。この盾、聖属性がついてたんだった」


 何気なく、弾いてばかりじゃ可哀そうだからと食らってみると即死だ。

 聖属性が付与されていない盾に持ち替えしてみると、それでも即死した。

 重要なのは聖属性だとうこと。

 

 じゃあ巻き込まれ魔導師のぐるぐるはどうなんだろう?

 だけどあいつらは上から下に、ぐるぐると回転して下りてくる。

 盾で守られていない部分に触れるので、効果はないようだ。

 ボワンドの突進は盾で弾く形なので、防げるのだろう。


「アーシアは普段通りに。ただし聖属性の盾を装備して! ルーシアはボスから距離を取り過ぎないよう、僕ぐらいの位置で。魔導師の幽霊が四散してぐるぐる回転し始めたら、アーシアの所まですぐに移動っ」


 アーシアはワンランク下の武器に聖属性が付与された物があったので、前もってそれを装備して貰っている。それプラス、盾もランクが下がるが聖属性のものに持ち替えるよう指示。

 ルーシアは弓は最高ランクのまま。矢の属性が聖である銀矢の矢筒を持たせてある。

 魔導師のぐるぐるはボワンドに近づくことで回避し、奴自身の突進は僕が盾を構えてルーシアを守る。


 僕の魔法攻撃ではそれほどダメージを与えられない。


 さぁ、ここからが本番だ。


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