第85話
翌朝、昨晩はいろいろ頑張り過ぎて疲れたのもあり、活動を開始したのは昼過ぎからだった。
まずはギルドに行って素材を買い取って貰う。
といってもそんなに数はない。
皮だのなんだのと解体していたら時間が掛ってしまう。
それに──
この世界が少しゲームに似ているのは、倒したモンスターは放置しておくとそのうち消えてしまうこと。
きらきら光りながら消える訳じゃないけど、溶けるようにして消えてなくなる。
それまでに解体が出来なければ、土に還るみたいなものだ。
消えるまでの時間は、体の大きさにも比例しているとルーシアがいう。
ただし、モンスターはそうやって消えても、動物は消えない。腐って骨になって、長い時間を掛けて土に還る。
ここは地球と同じだ。
「一説によると、モンスターは交配による増殖以外に、ダンジョンから産まれるなんていう話もあるの」
「ダンジョンがモンスターを産んでいる?」
「そ。ダンジョンの出入り口は一カ所だけじゃないわ。見つけにくいような場所にもあって、そこから出てきているんじゃないかって言われてるの」
「実際に、ゴブリンの群れが穴から出てきて、それを退治した冒険者が穴を確かめると……その穴はすぐに行き止まりだったですの」
……ちょっとしたホラー話だねそれは。
でもまぁ、そうでもなければダンジョンなんて成立しないもんね。
交配でしか産まれない場合だと、ダンジョン内のモンスターはいつか枯れるはず。しかも発見されて、探索が始まれば早い段階でそうなるだろう。
そうなっていないのは、他の要因で数が増えているっていうことだ。それもある程度数が調整されて。
「ふふ。実際に壁からモンスターがひょこっと出てくるのを見た冒険者も、これまで数は少ないですがいますしね。嘘だという人もいますが、私はそれも真実の一つじゃないかなと思っております。では今回の買取金額は1250Lとなります」
「あ、ありがとうございます。やっぱり土の中からなのかぁ」
査定が終わり金銭を受け取る。
お金を鞄に入れるのを確認した眼鏡の女性職員は、身を乗り出して小さく囁いた。
「先日のポーション、もうお持ちではありませんか?」
「え、ありますけど」
眼鏡が光る。
「も、もう少しお売りいただけませんか? 先日の分が既に完売しちゃって」
5万円のポーションを買うって……どんなブルジョアなんだろう。僕には信じられない金額なのに。
でもまぁ買ってくれるっていうなら、あんなゴミポーション、いくらでも売るけどさ。
ポーションを取り出そうとしたとき、ルーシアにぐいっと引っ張られ「十本にしておいて」と言われた。
まだ900本以上あるから気にしないのに。
そう思ったけれど、一度に大量の課金ポーションは確かにまずいかな。
じゃあ製薬スキルで作られたポーションならどうなんだろう?
「べ、別の種類のポーションもあるんですけど。製薬で作られた」
「お、お見せくださいますか?」
こっちも食いつきがいいな。試しに取り出したのは1本だけ。回復量は数値固定で150回復だ。
レベルが高くなればなるほど、ゴミになってしまう奴。
魔導師はHPが元々低く、防御力も紙なので常にMAX状態を維持したい。あとちょっとを回復させたいっていう時に使っていた物だ。
露店で買うと50L。
それが──
「120Lでいかがでしょうか?」
倍以上になった!
「ポーションって、そんなに需要があるんですか?」
「もちろんです。それにタックさんが先日持ち込んだポーションは、古の遺産。あれを作る技術はもうこの世界にはないんですよ。どこで手に入れたか──とは聞きません。今でも入手する手段があるというのでしたら、お金を払ってでもその情報が欲しいですが」
だけど安い金額ではないから、結局は聞けないんだという。
あぁ、課金アイテムだもんなぁ。そりゃあ……この世界の人には手に入らないか。
製薬ポーションにしても、作る技術のある人が少なくなっているのだという。
「特にここ数十年は、帝国が手あたり次第作り手を囲い込んでしまって……困るんですけど、口出しをすれば──」
そう言って、眼鏡の職員は自分の首の前で手を、シュっと払う。
え、殺されるってこと?
「それで、おいくつ売ってくださいますか?」
「あ……こ、こっちの製薬ポーションを……30本」
ちらりと後ろを振り返ると、アーシアが指を三本立てていたのが見えてそう答えた。
「こ、こっちは十本で」
課金のゴミポーションも10本追加して、8600Lを手に入れた。
ダンジョンに八日籠って得た金額は1250L。それを遥かに凌ぐ金額を、ポーション取り出す程度で稼ぐって……。
ポーション御殿が建てられそうだ。
「あぁ、それと──先日いい物が入荷したんですけれど」
「良い物、ですか?」
なんだかセールスマン……いや、セールスレディみたいになってきたぞ。
「転送の宝珠というものです。ダンジョン内限定で使える、テレポートみたいなものです」
「転送の……聞いたことないなぁ」
「ここでしか産出されない貴重なアイテムなんですよ。ここは元々魔法の研究が盛んな魔法都市だったんです」
かれこれ500年前に栄えていた都市では、魔術師や魔導師、そして賢者が多く生活をしていたという。
賢者……やっぱり転生職にあったんだ!?
「まぁ研究に熱中するあまり、魔法を暴走させてああなったわけですけど」
そう言って眼鏡の職員さんは外を指さす。
遺跡と化した元魔法都市は、誰かが魔法の研究で暴走させ滅んでしまった姿だ。
うん。どこにでもある話だな。
でもダンジョン内をテレポートできるのは良いアイテムだ。移動の短縮にもなる。
「いくらですか?」
「フフ。お高いですよ。5万Lですが、どうされます?」
5万か、意外と安いな。帆船の修理費の方が高かった。
「買います」
「え」
「だから買います」
「……あ、ありがとうございます。え、えぇっと……ひとまず奥の部屋へお願いします。き、金額が金額ですので」
あぁ、宝くじ当たった時もそうだったな。金額が大きいから表では受け渡し出来ないっていう。
お互いアイテムとお金の確認を終えて取引終了。
調べてみたけどこれ、この世界オリジナルアイテムだ。
たぶんゲームではまだエリア解放されていない所で産出されるアイテムだから、未実装だったのだろう。
特に使用回数の制限もないけれど、ギルドではその辺りもちゃんと調べているようで。
「石の色が濃い青の物は、繰り返し使えるようなんです。絶対とは言い切れませんが。ですが色の薄い青の物は、何度か使うと黒く霞んできまして」
更に使い続けると真っ黒になって壊れる──と。
色が変色してきたら要注意ってことだな。
「これで二十階への移動が楽になるね」
今日、明日はゆっくり休んで、再攻略は明後日からにしよう。
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新作始めました。
Let's『錬成』!=初めてのVRMMOで不遇職『錬金術師』やってます♪=
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895079246
VRMMOを題材としたプレイ日記系のお話です。
女の子が主人公の、ほのぼの系・・・だろうか??
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