第84話

 地上に戻ると時刻は夕方。

 僕らはギルド二階の宿は利用せず、少し離れた所でキャンピングカーを出した。


「夕飯はどうする? たまにはアーシアもゆっくりしたいだろう?」


 ギルドには食堂もある。そこで食べようか? という意味だったんだけど──。


「タックさんが作ってくれるですの?」

「え、タックが手料理を?」


 ち、違う……違うんだけど、そんなにキラキラした目で見られると……。


「ま、任せてよ。はは」


 って言っちゃうだろうっ。


「ふふ、楽しみですね~ルーシア」

「んふふ。楽しみねぇ~アーシア」


 双子の奥さんの目が期待に満ち過ぎていて……辛い。

 はぁ、何を作ろう。

 正直な話し、具材から切って用意する料理は自信がない。

 チャーハンやみそ汁、カレーとかはまぁ出来ないこともなけれど、問題は調味料なんだよ。味噌とかカレー粉とか。


 そういえばキャンピングカーのオプションに何かなかったかな。

 運転席に座ってカタログを見ていると、やっぱりあったよ。

 そうだよな。紙皿とかコップ、割りばしに爪楊枝もあったんだ。

 キャンプの必需品みたいなものは、一通り揃っているんだよな。


 パラパラとしか見ていなかったカタログを入念に見ていくと、料理に使うようなものだと──


 しょうゆ。料理酒。みりん。白だし。ウスターソース。オイスターソース。

 マヨネーズ。ケチャップ。焼肉のタレ。オリーブオイル。サラダ油。ゴマ油。

 塩。砂糖。塩コショウ。合わせみそ。

 カレー粉は甘口、中辛、辛口まである。

 お、米もあるじゃん! しかもレンチンの奴。


 以上となるけれど、贅沢を言えばシチューの粉とかハヤシライスの固形とかも欲しかったなぁ。

 あ、あと麻婆豆腐の元かな。もちろん豆腐も。


 ま、これだけあればカレーが作れるな。


「よし。美味いもの作るから、期待してね」

「タックの故郷の料理?」

「うん。子供から大人まで、みんなが大好きな料理さ。作るのも簡単だしね」

「見ててもいいですの?」

「う、うん。で、出来れば野菜の皮剥き……」

「ふふ。お手伝いしますよ」


 結局アーシアとルーシアにも手伝って貰って、切った野菜をフライパンで軽く炒め、それからお湯を入れた鍋に投入。

 肉は豚バラ肉にして、こちらもカリっと焼いて後から入れることにした。

 カレーのルーは甘口と中辛を混ぜる。

 いきなり辛口は口に合わないかもしれないし、僕自身が苦手なのもあるから。


 あぁ、そういえば福神漬けとかは……。


 カタログを探してもない。

 米を用意してくれたんなら、漬物も用意してくれていればよかったのにー!






「あとはこのレンチンしたご飯に──どうせならお皿に盛ろう──で、ここにカレーをかけて……できあがり!」

「わぁ、美味しそうじゃないタック」

「ほんと。美味しそうですの」

「おっと、カリっと焼いた豚バラ肉を忘れることろだった」


 あとはこれにサラダも添えれば立派な晩御飯だ。

 ただ……。


「タック、ずいぶんいっぱい作ったわね」

「……否定はしない」

「いえ、どう見ても作り過ぎだと思うですの」

「……否定はしない」

「否定するもなにも、多いわよ」


 だって野菜切ってる間はどのくらいの量になるか、よく分からなかったんだよ!


「こっちからいい匂いがするな」

「おわっ!? な、なんだこの鉄の塊はっ」

「新種のモンスターか!?」


 そんな声が外から聞こえた。

 あぁ、また冒険者の方々が勘違いしている。

 そうだ。丁度いい。


 僕は窓を開け冒険者に挨拶をすると、作り過ぎたカレーを食べてくれないかと声をかけた。


「カレー? なんだそりゃあ」

「お前、ダンジョンでたこ焼きを売っていた坊主じゃないか?」

「そうだそうだ。じゃあカレーってのも故郷の味ってやつか?」

「えぇ、そうです。どうです?」


 冒険者は四人パーティーだった。彼らは相談しあうと「もちろんタダだよな?」と尋ねてくる。

 お金……取れるんだろうか?

 いた、でもカレーの販売はあまり現実的ではない。米は一食分×5パックセットでの販売だけど、課金オンリー。カレーのためにいくら使うことになるのか……。

 ワンセット三百円……百食で六千円か。


 たまにならいいかも。


「えぇ。タダでいいですよ。その代わり、宣伝してくださいね。それとお金を取るとしたら、いくらぐらいなら売れると思いますかね。その辺りも教えて欲しいんですけど」

「試食か。よし、任せろ」


 笑顔で頷く彼らに車の外で待ってもらい、急いでアウトドア用のテーブルと椅子を用意する。

 僕がそうしている間に、アーシアがご飯をレンチンしてくれて、ルーシアがサラダの盛り付けを済ませてくれた。


 たっぷり目にカレーをよそって四人の前に出すと、彼らはその匂いに刺激されてか鼻をひくひくさせた。


「いい匂いだ。ピリ辛か?」

「そうですね。すこーしだけですが」

「スープっぽいが……米に乗せて食べるのか。米は貴重だろう」


 米が貴重?

 そうなのか……。峠の村にいた獣人族のジャングさんは、故郷で米を作っていたと言っていたけど。税として納めるためにほとんど口にしたことはないとは言っていたっけ。

 富裕層だけが食べるようなものなのかな。


 一口ぱくりとカレーを頬張った冒険者らは、次々に無言でがっつく。

 どうやら異世界人にも日本のカレーが受け入れられたようだ。

 おかわりまで要求してくる彼らに、ちょっと笑いそうになるのを堪えご飯を追加する。


「もうちょいボリュームがありゃあ5Lでも安いと思うぐらいだ」

「原価がどのくらいか知らないが、俺は5Lなら喜んで注文するな」


 ボリュームかぁ。

 そうだ。唐揚げカレーとかカツカレーってのもあるな。

 店を出すときにはそうしてみよう。

   

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