第81話

 僕らはさっそく、ダンジョン探査に乗り出した。

 店をどこに出すか、まずそこが重要だからだ。なんせキャンピングカーを出さなきゃならないんだから、広さの確保が大事。

 どうしてもダメだった場合は、作り置きのみを売る方法になる。


「地上のお城部分にお店を出しても、あんまり意味ないわよね」

「そうだね。容易に外へ出られる場所だ。だったらゆっくりご飯が楽しめる外に出るだろうし」

「それだと地下の、出来るだけ深い所ですの?」

「うーん。深すぎると今度は、お客が減るんじゃないかなぁ」


 利用している冒険者がみんな高レベルなら、下層のほうに人がいっぱいいるだろう。

 だけど入ってみて思った感想は──


「地下七、八階でお店を出すのが良さそうだね」


 だった。


 メガネのギルド職員にも聞いたけど、買取依頼で持ち込まれるアイテムは地下十階前後の物が多いという。

 利用者がそこに集中しているってことだ。

 一階辺りの大きさは、モンスターとの戦闘を考えなければ徒歩で二時間ぐらい。

 戦闘をいかに早く終わらせるか、また遭遇頻度で時間は変わって来る。


「この辺りのモンスターは、タックさん的にはどうですの?」

「地下三階のここは、レベル25だね。弱いだろ?」


 二人は頷く。

 アーシアはアレスがうっかり海に落としたレジェンド武器を。ルーシアはバラモンが残したレジェンド弓を、それぞれ装備している。

 防具もアレス邸にあったレジェンド装備を貰ってきて、必死にロック解除したものを着ているから、正直攻撃面も防御面も、最高ランクだ。

 二人のレベルはもう少しで40になるぐらいだけど、装備のことを考えるとレベル50のモンスターとだって対等に戦えるだろう。


 その日一日で地下四階まで到達。

 各階層にはどこか一カ所に冒険者が集まって、それぞれ休憩するときにはお互い助け合って見張りを立てる場所があると聞いた。

 僕らはそこを探して歩き回ったけれど、途中で他の冒険者と遭遇。

 更に他のパーティーも発見し、彼らが同じ方角に向かっているのを見た。


「ついて行こうか」

「きっと休憩所でしょうね」


 後を追うと案の定だ。

 通路の途中にあった袋小路。そこを利用して壁と、そして扉まで人工的に造った休憩スペースがあった。

 中へ入ると受付があって、そこでパーティーリーダーの人数とリーダー名を申告することになる。

 見張りの順番を決めるためにだ。


「ん? 新顔か」

「はい。今日が初めてなんです」

「そうか。メンバーは……三人。若いな。まぁ初めてだし、今回はクジも引かなくていい」

「クジですか?」

「そうだ。休憩所の人数が多い場合は、クジで見張りを決めるんだ。一度の見張りに五人も十人も必要ないだろう?」


 そっか。人数過多なら、そのうちの何パーティーかで回すことになるんだな。

 新顔ってことで、そのクジも引かなくて済んだ僕らは、さっそく周りの状況を確認した。


 うん。

 キャンピングカーなんて、出す余裕はないね。


「車は無理ですの」

「うん。作り置きの販売だけかな」

「綿菓子は無理ね」


 そもそも屈強な冒険者に、レインボーな綿菓子は似合わない気がする。


「ねぇタック、見て。誰も火を起こしてないわよ」

「ん、そういえば……」


 休憩所だというのに、火を起こして食事の準備をしている人が誰もいない。

 みんな硬そうなパンと燻製肉を黙々と食べているだけだ。


「あぁ、ここでは火は厳禁だ。他の階の休憩所でもだ」

「火はダメなんですか?」

「そうだ。考えてもみろ、こんな狭い所に大勢集まってんだ。そこで火を焚いて飯の準備なんかしたら、煙だらけになるだろう」


 袋小路を利用した休憩スペースだから、空気の心配もある。

 そういえばダンジョン内の酸素って、どうなっているんだろう。


「アーシア、ダンジョンの中で僕らの呼吸に必要な空気がどうなってるのか……知ってる?」

「え、はい。ダンジョン内の苔は、汚れた空気を吸って、新鮮な空気を吐き出すですの」

「タックは知らなかったの?」

「そりゃあまぁ……」


 そういや壁とかによく苔がくっついてるな。

 でもびっしりって程じゃない。この程度の苔で大丈夫なのかな。


 そんなことを思って壁の苔に手をかざすと──めっちゃ呼吸してるのが分かるぐらい、息を吹きかけられているような感触がある!

 え、苔の呼吸量、半端なくない!?


 なんか変に感動しちゃったよ。


 苔に感謝しつつ、僕らは適当に空いた場所でレジャーシートを広げた。

 分厚いクッションを置けばごつごつした床でも痛くはない。


「はぁ、お腹空いた。タック、たこ焼き食べましょうよ」

「そうだね。火が使えないなら、作り置きした奴か僕が持ってる料理物を食べるしかないからね」


 ミーナに作って貰った料理も、ここに来るまでに結構消費したなぁ。

 補充が効かないのが残念だ。

 この世界で作られている料理は、特にステータスの補正はない。いうなれば普通の料理だ。

 だからこそ、彼女が残してくれたものは貴重だともいえる。


 ミーナ……まだこの世界に来れてないのかな。


 一部のプレイヤーしかこの世界に来れていない。

 あの瞬間、ログインしていなかった……もしくは途中で接続が切れた人たちは……いない。

 ミーナは僕の記憶では最後までいたと思う。


 無事だと良いけど。


「タ、タック」

「タックさん、あの……」

「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事──うえぇい!?」


 たこ焼きパーティーとしゃれこもうとしていた僕らの周りと、何人もの冒険者が取り囲んでいた。

 な、なんですか?

 なんなんですか!?


「いい匂いがするな。それに……温かそうだ」

「ジータで見たことがある。たこ焼きっつんだっけ?」


 まさかの……たこ焼きフィーバー!?




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たこ焼きはダンジョンを救う?


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