第80話

 そんな……こんなことってあるだろうか……。


 移動販売──町の中で勝手にお店を開くのは、日本でだってダメなことぐらい常識として分かる。

 異世界でもそれは同じ。


 門番の人にどこで許可を貰えばいいか教えて貰った、商工組合という所に行くと──


「出店料として1000L支払ってもらう」

「分かりました」

「許可が下りるまで二週間待つように」

「え……に、二週間!?」


 なんでそんなに!?


 と思ったけれど、話を聞けば仕方ないなとも思う内容で。

 要は領主の印が必要なんだけど、ここはジータ領でもなければ領主はここから三日の距離にある屋敷に住んでいると。

 往復で1週間。

 じゃあ1週間でいいじゃないかと言えば、領主の仕事は商工組合から出される許可書に印を押すだけではない。

 だから二週間は待たなければならない、と。


「悪いな。決まりだからよ」

「い、いえ……」

「で、待つのか?」


 僕は二人を振り返り少し考える。

 僕の感覚で言えば、さらっと立ち寄った町で移動販売車を開店させ、一日二日で次の町へと出発する。

 そんなつもりだったのだけれど。


「町以外の……例えば街道でお店を出すとしたらどうでしょうか?」

「はぁ? どこに客がいるんだよ。そりゃあ街道を歩いてる奴はいるだろうが、のんびり飯なんか食っていかねーだろ」


 それにモンスターはどうするんだと組合の人は言う。

 街道はモンスターが寄り付きにくい。だけど食べ物の匂いがすれば、近づいてくるだろう。

 そんな危険な場所で店を開くなんて、正気の沙汰とは思えない。


 なるほど。だったら先に周辺のモンスターを全て排除してから開けばどうだろう。

 そう提案すると、


「へっ。それが出来るならやりゃーいいさ。いや、寧ろそれが出来るならダンジョンの中で店を開けばいいんじゃねーか? 儲けるぞきっと。がっはっはっはっは」


 ダンジョンの中……。

 そ・れ・だ!






 ダンジョンは町の西にある山の中にあった。

 山の斜面をそのまま削って建てたような建造物があって、地上三階、地下三十階構造。

 ゲームにはなかったダンジョンだ。


 遺跡のようなお城のような建造物の入口がある地上部分には、それとはガラりと形式の違う木造の建物がある。

 これはダンジョン探査を目的とする冒険者が利用する冒険者ギルド。宿泊施設も兼ねているらしい。


「ねぇタック。どうせならいらないって言っていたアイテムを、ここで売ってしまったら?」

「そうですねぇ。ポーションなどはここだと歓迎されると思うですの。ダンジョン探査に必要ですから」

「うん、そうだね。ついでにダンジョン内の情報も聞こう」


 中へと入ると、受付カウンターは閑散としている様子だった。

 実は不人気ダンジョン?


「あ、あのー……か、買取をお願いしたいのですが」


 暇そうにしている眼鏡をかけた受付の女性に声をかけると「おや」と珍しそうに僕らを見た。

 やっぱり不人気ダンジョン!?


「こんな時間に珍しいですね」

「こんな?」


 女性は僕らを見て「あっ」と声を上げる。


「ダンジョンは初めてですか?」

「いえ、初めてという訳では。でもギルドの建物があるダンジョンは初めてです」

「そうでしたか。この時間帯はみなさんダンジョン内ですから、日中に買取依頼を受けることが少ないですから」


 考えてみればそれもそうか。

 僕だって海底ダンジョンでレベリングしていた時、夜は出てきて船で休んでいたし。


「それで、買い取って欲しい物とは?」

「あ、はい。ポーションです」


 手始めに一番回復量の低い、ガチャゴミ筆頭の『下級生命のポーション』にしよう。

 回復量はMAXHPの5%分。再使用までのCTは10秒。

 店売りポーションは30秒だったから、回復量が少なくてもまぁ重宝されなくもないアイテムなんだよね。

 ガチャが溢れる前までは……。

 全てのガチャから出る上に、10回引けばそのうち2回はこいつが出るのも当たり前ぐらいの確率だ。

 

 僕は今2スタック分持っているけど、1スタック999本を999Lで何スタック投げ売りしたか分からないほど持っていたんだ。


 これを受付の人の反応を見るために10本だけカウンターの上に出した。


「こ、これは!?」


 うわっ。な、なんかリアクションが大きい……。


「買い取らせていただきますっ。勉強させていただきます!」

「お、お願いします。は、はは」


 一本1Lで投げ売りしたポーションは、1本500L……日本円の価値としては5万円で取引された。


 今までゴミ扱いしてごめんよ。



*****************************************

 ふぉ……ふぉろー……

 まだな方は、ぜひ……お願いしま……す……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る