第77話

 ジータの町に来て一カ月が過ぎた頃、ようやく一人前のたこ焼き職人になった──ルーシアが。


「料理が苦手だっていうルーシアが、一番上手になるとはなぁ」

「な、なによタック! アタシじゃ何もできないと思ったの!?」

「い、いや、そういう意味じゃなくって」


 どうもたこ焼きをくるっと回転させる技術は、料理の上手い下手には関係なかったらしい。

 弓使いのアーシアが一番上手かったってことは、命中ステータス依存なんだろうな……。

 たこ焼きが命中?


 なんて考えるのはゲーム脳なんだろうなぁ。


 綿菓子作りもルーシアはやっぱり上手かった。だけどアーシアもそこそこ形になっている。

 なっていないのは僕だけ……。

 め、命中1だもん。仕方ないね!


 やっぱりステータスなのかなぁ。

 そういや僕、ひとり暮らしでたまにする料理でも、味はともかく、盛り付けとか汚かったもんなぁ。

 

 そんな僕が担当するのはりんご飴。

 何度も何度も屋台のおじさんやアレスにもダメだしされ、ようやく「まぁ普通か」と言われるようにまで成長した。

 最初のうちはアレスに「毒入りリンゴか?」と言われたもんだ。アーシアやルーシアまで、毒々しいですって。


 飴作りも結構難しくって、一気に強火で溶かそうとすれば焦げる。

 弱ぎ過ぎると温度が低すぎて、りんごに塗った時に固まらない。

 良い具合に飴が出来ても、ここでも一気にりんごに塗らなければ飴が分厚くなって見た目が悪い。

 スピードを気にしすぎると塗り残しが多くなって貧相に見える。


 お祭りで屋台出している人たちって、偉大だなぁ。


 こうしてたこ焼き、綿菓子、りんご飴をマスターした僕らは、ついに全国デビューをすることになった。

 結局移動販売車はガチャからは出ず。こっそり20万円ぶっこんでみたけどダメだった。

 出てきた乗り物は、キャンピングカーがもう一台。自転車がママチャリ、マウンテンバイクと合計十三台。原付バイク二台とサイドカー付きのバイクも一台でた。

 あとはオープンカー二台だ。普通の軽自動車や乗用車が出ないって、なんだろうなぁ。

 で、残りは毎度おなじみゴミアイテムだ。

 一定時間、ステータス補正がつくお菓子類。課金販売されているポーション類。使用上限のあるスキルが使えるアクセサリー。

 全部ゴミ。


 だけどこの世界ではゴミではなく、冒険者ギルドに持っていけば高額で取引されるという。


「しかし一度に持っていけば怪しまれますし、他の冒険者に目を付けられることもありますから、各地の冒険者ギルドで小出しにして売るのがよろしいかと」

「でもそうなると持って行かなきゃならないんですよね。アイテムボックスにそこまでの余裕もないですから。貰ってくれませんか?」


 と、教えてくれた領主さまにそう伝えると、さすがに困った顔をされてしまった。


「うーん、ではこうしましょう。数の少ない種類のものを、我が家で買い取りますよ」

「え? でもそれじゃあ──」

「もちろん冒険者ギルドに売りますよ。祖父のコレクションが山積みになっているので、整理したいと言えば怪しまれることなく引き取って貰えますから。これまでにも二、三度あるんですよ。買い取って貰ったことが」


 アレスのアイテムボックスに入っていた過去の装備や、多くのプレイヤーがそうしていたように「とりあえず取っておこう」というアイテム。

 それらを買い取って貰ったのだとか。

 アレスも僕同様に、アイテム所持数を最大まで拡張していたもんなぁ。そりゃあいっぱいあったんだろう。


 そうでなくてもジータには、過去にプレイヤーらが残して行ったものが多いらしく、あの地下室は実はどの部屋も満杯なんだとか。

 亡くなる前に彼らは、ジータの復興に使って欲しいとアイテムボックスを空にしたんだろうな。


 乗り物は同種であっても一つの枠にストックできない。これが一番、鞄を圧迫する原因だ。

 だけど自転車は使えるかもと思い、マウンテンバイクタイプ三つと、移動販売用専用にした二台目キャンピングカーだけ残して後は──


「アレスのコレクションにしてね」

「約束したから預かるし貰うが、ガチャは大量にあるんじゃよなぁ」

「そうなのかい?」

「床から天井までの棚を壁一面にした部屋があってな」


 みんな大好きガチャだからね!


 そして別れの時、車椅子に座ったアレスが、屋敷の門のところまで見送りに来てくれた。

 元気そう──とは正直言い難いのかもしれない。

 だってもう九十歳を超えているんだもんね。大往生だよ。


 だけど──

 次に戻って来るその日まで、元気でいて欲しい。


「行ってくるよ、アレス」

「あぁ、気を付けるのじゃぞ。アーシアさん、ルーシアさん。こいつのことを、頼みます。こいつ、寂しがり屋なんですよ」

「え? そ、そうかなぁ」

「自分では気づかんだけじゃろう」


 そうかなぁっともう一度ぼやくと、アーシアたちがくすくすと笑う。


「大丈夫ですの。私たちはタックさんの生涯の伴侶ですの」

「そうよ。ずっとずっと、一緒だもの」

「なに? お前さん方は、結婚しておったのか?」

「か、形だけの結婚式というか、ウエディングドレスのアバターが出たからさ……」

「ふむ……よし。式を上げるぞ! アレックス、教会の手配じゃっ」


 え? し、式を挙げるって、今からぁ!?


「おじい様は急だなぁ。まぁいいですけど、楽しそうですし」


 アレックス──現領主さまもにこにこ顔で屋敷へと戻っていった。


「アスランよ、皆に支度をさせてくれ。なぁに、出席者は屋敷の者たちだけでいいじゃろう」

「分かりましたよお父さん。タックさん、言い出したら止まりませんから、諦めてください」


 アスラン──アレスの息子で先代領主さまも苦笑いを浮かべて屋敷に戻った。


 どうやら本気らしい。


「ど、どうする?」


 二人にそう尋ねてみたけど、返事は決まってるようだね。

 だって二人の顔が──思いっきり緩んでるし。


 移動販売全国デビューは一時中断。


 暫くして僕らは町の教会へと案内され、そこでアーシアとルーシアは改めてウェディングドレスに着替えることに。

 僕は──


「お前もタキシードを着れ」

「タキシード……あぁ、そういえばそんなものもあったなぁ」


 アイテムボックスから取り出したのは、純白のタキシード。胸に薔薇が刺してある。


「恥ずかしいです」

「皆の者、タックを捕まえろ!」

「畏まりました」

「お任せください」

「アッー!」


 屋敷にいた執事の皆さんに捕獲された僕は、髪を弄られ化粧を塗られ、そして純白のタキシードを着せられた。

 


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