第66話

 まさかの展開に僕は戸惑った。

 他にいないと思っていたプレイヤーと、こんな所で出会うなんて……。


「と、とにかくここじゃ何だ。俺の部屋に来てくれないか?」

「は、はい。アーシアとルーシアも一緒でいいですか?」

「……知っているのか?」

「えっと、はい。伝えてあります」

「ならいい」


 僕らはその男性の後を付いて行き、建物の三階へと上がる。


「二階から上は、ここで働く兵士の部屋になってんだ」

「あなたもここで働いているんですか?」

「時々な」


 時々?

 じゃあ普段はここにはいないのだろうか。 


 三階の一室に全員が入ると、ちょっと狭く感じる。

 椅子は一つしかなく、僕らはベッドに腰かけることになった。


「俺はハッシュ。ただし元の名前は木村ってんだ」

「あ。僕はタック。本名は東堂です」

「魔導師……にしては、装備ランクが低いな。魔術師か?」

「あー……いえ、その──」


 ここで僕は少し恥ずかしい話をすることになる。

 転生するためにNPCと会話している最中に地震にあい、慌ててクリックしたら、


「エターナルノービスになってしまったんです……」

「転生者か!? いや、転生っていう言い方が、そもそも今の俺たちだと不自然なんだけどさ」

「分かります。転移者ですもんね」

「そうそう」


 それからハッシュは笑い、自分はかれこれ30年間、この異世界で暮らしているという。

 30年間……僕とはまったく違う時間だ。


「そのなりだと、こっちに来て間もない感じか?」

「はい。まだ半年も経っていません」

「そうか……ビックリしただろ?」


 そりゃあビックリしたさ。

 僕はこれまでの経緯をハッシュに説明すると、彼も30年前のことを教えてくれた。


 やはり地震がきっかけのようだ。

 気づけばこの世界にいて、その時はジータの町の近くにあるダンジョン内だったそうだ。


「いやぁ、目が覚めるといきなりダンジョンの中なんだぜ? 死ぬかと思ったよ」

「ひとりだったんですか?」

「あぁ。メンテ前に野良パーティー組んでダンジョン周回していたんだ。ちょうどボス倒したところでメンテ時間になったしさ、そのままそこで落ちたんだよ」


 大型アップデートが終わってログインしてすぐ地震が発生して、彼はそのままこちら側に転移。


「意識が戻るとボス部屋だろ? まぁいなかったけどさ」

「よ、よかったですね」

「あぁ。もしリポップしていたら、マジで死ぬところだった」


 運よく彼はダンジョン脱出用アイテムを持っていた。

 野良パーティーの仲間だった人は誰も現れず、地上に戻って近くの村を目指したと。


「景色がさ、ゲームで見ていたソレに似ているようで、ちょっと違うことに気づいたんだよ」

「それで異世界だと?」

「いやいや。夢だと思ってたさ。きっと病院のベッドの上なんだろうなぁって。けどいつまでたっても夢は冷めないし、もしかしてって思うようになって。それからヘルプ画面で、あのメッセージを……見たか?」

「えぇ。つい最近ですけど、見ました」

「そうか……まぁそれからは、現実を受け入れてこの世界で生きてきたんだ。幸い、スキルがあるから、なんとか暮らしているよ」


 ハッシュさんは盗賊の上位職のスカウト。転生前だけど、レベルは50。

 この世界の住人をいろいろ見てきたけど、レベル50もあれば腕利きの冒険者として重宝されるぐらいだろう。

 事実彼は冒険者として、ロンバル王国を中心に活動して困ることは一切なかったという。

 今は臨時で国境警備隊に雇われている身なんだとか。 


「臨時なんですか?」

「あぁ。俺は今でも冒険者さ。ただこの年だからなぁ、ダンジョンとかに潜るのは体が辛くてね」


 年齢を聞いていいのかどうか悩んでいると、隣でルーシアが「いくつなの?」と尋ねてしまった。

 ハッシュさんは特に機嫌を悪くするわけでもなく「49だ。若いだろ?」と笑顔に。


「見たまんまじゃない」

「ル、ルーシア。そこはお世辞でもお若く見えますって言ってあげるですのっ」

「おいおい、全然フォローになってねーぞお嬢ちゃん」

「す、すみませんですの」


 ハッシュさんがまた笑う。


「ははは。まぁ現役引退も考えたんだが、ギルドのマスターがここでの仕事を紹介してくれてな」

「鍵開けの仕事ですか?」

「おいおい、んな訳ねぇだろう。時々奴隷商人が行商人だと偽って入国してくるんだ。そいつらを『鑑定』するためさ。まぁあとは周辺のモンスター倒したりだな」

「鑑定……スカウトスキルか。でもあれって未鑑定アイテムを調べるためのスキルだったはずじゃあ?」

「あぁ。俺もそう思ったんだが、これがまぁ対人にも使えたって言うね」


 なるほど。ゲームでは人に対しては使えなかったけれど、この世界では使えるのか。


「俺たちみたいなプレイヤーは、世界中にいる。ただし転移したタイミングっつうか、時代がバラバラなんだよ」

「バラバラ?」

「そうだ。俺たちがプレイしていた時代から、約300年経っているのは知っているか?」

「はい。二人に聞きました」


 ハッシュさんが頷き、話を続ける。

 この300年の間で、特に直後の時代にはプレイヤーはほとんどいなかった──と推測される。


「けどここ150年ぐらいの間に、それっぽい人物はあちこちにいたようなんだ」

「分かるんですか?」

「調べた奴がいるんだよ。もちろんプレイヤーだ。仲間を探したかったんだろう」


 その人物は50年前にこの世界に転移して、プレイヤーを探して旅をした。

 かなり高レベルのプレイヤーだったようで、ほとんど向かうところ敵なし状態。

 ジータの西にある山にはドラゴンが住み着いていて、そのドラゴンを倒した功績でこの地の領主の娘と結婚したとかなんとか。


「それが先々代のジータの領主さ。俺もあったことがある」

「えぇぇ!?」

「で、そのプレイヤーが、各地で集めたのが──ロックが掛かった装備って訳さ」


 ブレッドが言っていた、選ばれし者だけが持つことが出来る武具!?

 まさかそんな経緯で集められていたなんて……。


「それら装備は元々持ち主がいて、子から孫へと子孫に受け継がれてきた物もあれば、どこぞの石とかに刺さっていたのもあるらしい」

「刺さって……」

「ほら、やりたくなるだろ? 勇者ごっこ」


 この剣を引き抜いた者こそが、真の勇者なりーとかって?

 うぅん……結構能天気なプレイヤーが多かったんだろうなぁ。


 持ち主不在のロックが掛かった装備を、先々代領主は集めて回ったらしい。


「ロックを解除して、装備できるようにするために?」

「いや。それをするにも卵を持っていなかったらしくてな」


 だけどいつか誰かに役に立つだろうと、ずっと守っているのだとか。


「お前も会っておくといい。同じ故郷の人だしな」

「え? 生きているんですか?」

「もうかなりのじーさんだけどな」


 僕らの次の目的が決まった。


 同じ『Lost Online』をプレイした仲間、ジータの先々代領主に会いに行こう。

 

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